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それでも伝えること。
泣きたかったんだ、きっと泣きたくてここにきた。空はすっかり星たちの居場所になっている。
彼はわかっていない
全然わかっていない
わたしの想う、わたしが伝える、"大好き"が、どのくらい、どのように、大好きなのか。
そもそも、赤の他人に自分の気持ちをわかってもらうことなんてできるのだろうか。同じ言葉を使っていても、それが同じ感情だとは限らない。感情なんてあやふやなものをくっきりはっきり「言葉」におさめること自体、むずかしい。
***
うすくカーテンの隙間から朝が嬉しそうに、こっそり覗くように見てくるまで毛布にくるまって電話をしたこと。だんだん子犬のような声になっていくゆるやかで、平凡で、なんのへんてつもない受話器越しのきみとの会話。
「あ!ブルーモーメント! 」そう言って桜の花びらが散る中、どこにいくわけでもなく歩いた。月が綺麗。そう呟かずにはいられない上野公園の桜並木で、初めて夜桜を見て思ったことは、「この人、こんなにも夜桜が似合う人だったんだ。」と声にならない恋。
「ねぇねぇ、どこいくの?」
「え?(笑)」
「ねぇ!どこ行くの・・・!(笑)」
シートベルトを締めてふわっとそこにいる彼の匂いと、ここから見上げる青空が好きで、なんでもなく笑い、なんとなく沈黙になる。過ぎていく雲と、「きみたちには用はないよ! 」と少し自慢げな視線を向けたビルを背に、夏の訪れにそわそわした。
彼の背中越しに見た大きな花火は、どこか切なくて。ゆるゆかに移り変わる季節に追いつけない。22歳の夏は、平成最後の夏だった。
本当は、彼が好きな秋を隣に一緒に歩きたかったしマフラーに顔をうずめて笑う時間が恋しくてたまらなかった。
だから"大好き"と伝えればよかったと後悔して、伝えたあとも後悔した。
ポロポロとマフラーに涙がこぼれる。
冬の空は、星が綺麗で。空気が凛としゃんと、立っていた。
伝わらない。理解できないし、理解もされない。無理だ。そもそも無理なのだ。他人なのだから、わたしがどれくらいどのように大好きなのか、彼がどのくらいどのようにどう思っているのか、それは言葉にするにはあまりにチープで、赤とか青とか綺麗な色では塗ることができない。混ざっては溶けて、また足して、そして薄めては温め、冷やし、またなんとか「かたち」にしようとする。
気持ちが伝わるなんて、できない。
それならなぜ人は、人を好きになるのだろう。理解できないし理解もできないのに。恋しがり期待をして勝手に裏切られたと落ち込み、それでもまた愛そうと微笑むのだろう。
でも大好き。
伝わらなくても、伝えることからはじめたい。
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