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マクトゥーブ

過去ばかり振り返っていてはいけないと人は言う。それはたしかに、正しい。もう過ぎたことをくよくよ思い出しても仕方がない。

だけどわたしは、心が本当に疲れきってしまったとき、過去を振り返ることが多い。

歩んできた人生の幸福なシーンを思い浮かべ、あのとき夢中になっていたもの、照れくさくて可愛らしいもの、震えるような感動、ささやかだけど一生懸命だったこと。
そういったものの中にあるぬくもりが、少しずつ傷を癒してくれるような気がするからだ。

信じていること、望んでいることを真っ直ぐに追求しているとき、わたしは幸せを感じているし、そのフィーリングが記憶の中に残されている。

過去を思い出すのは戻りたいからじゃない。
出来事はもう過ぎ去ってどこにもないし、戻ることもできないけれど、そのとき感じていた想いは今ここに、永遠の中に保存されている。
その想いに触れたとき、魂は宇宙の生命の流れに侵入していき、すべてがつながっていることに気がつく。それを直感と呼ぶのだと思う。

その直感が、わたしに一冊の本を手に取らせた。
20年ぶりに開いたその本は、初めて読むかのような新鮮さがあって、あのころは理解できなかったことが、今ではわたしの人生を通してはっきりと理解できる。

その中に「マクトゥーブ」という言葉が出てくる。
アラブ人に生まれないとそれは分からないそうだけど、「それは書かれている」という意味なのだそう。
わたしはこの言葉の響きがとても好きだ。


最近、砂漠に行きたいなぁと思う。
何か目的があるわけでも、行かねばならない理由もないのだけど。

砂漠とは無限の広がり、静寂の大地。
黄金の波が揺れる砂の海。

日差しは厳しく、影は短く、
夜は冷え込み、星は煌めく。

乾いた風が物語を囁き、
生命は忍び、強く生き抜く。

砂漠の雄大さと神秘、過酷な環境に息づく生命の強さを前に沈黙し、無言の真実を直感したいのかもしれない。


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