岡根谷実里 | 世界の台所探検家

世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理から見える社会文化背景を伝えています。講演・執筆・出張授業など。訪問国は60以上。著書に「世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる(青幻舎)」 過去記事はこちら:https://medium.com/@misatookaneya

岡根谷実里 | 世界の台所探検家

世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理から見える社会文化背景を伝えています。講演・執筆・出張授業など。訪問国は60以上。著書に「世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる(青幻舎)」 過去記事はこちら:https://medium.com/@misatookaneya

    最近の記事

    ジャイナ教の食のルールと、実際どこまで守っているのか?その裏にある意味

    ジャイナ教は、世界一厳しい菜食を貫く宗教とも言われる。はじめて知ったときは「どうしてジャガイモがだめなの??」などとさっぱり分からなかったが、現地家庭に滞在して知るうちに、けっこう科学的で筋が通ったものであることと、一方で大きな矛盾も抱えていることがわかってきた。教わったり調べたことを元に、ジャイナ教の食をまとめたい。 ジャイナ教って?信者数は約450万人。インドの人口の0.4%に過ぎないが、所得税全体の24%を収め、識字率は全国平均が65.4%のところ94.1%とずば抜け

      • ジャイナ教地区のスーパーは、肉が一切買えない

        ジャイナ教徒が多い地区のスーパーは、肉や魚製品が一切売っていない。彼らの多くが、同じ店に肉や魚が扱われていることを嫌い、「ピュアベジなものだけを売っている店で買物したい」と考えるからだ。 マヨネーズは卵なし、ゼラチンも植物由来。 卵使用のマヨネーズや豚由来のゼラチン(いわゆる普通の品)を買おうと思うと、一番下の右端にひっそりある。 冷凍食品の棚があったと思ったら、中は様々な形のフライドポテトとベジバーガー。 卵は、食べる人が一部いるので、ものすごく隅の方の暗い一角に肩

        • 菜食かつニンニクも玉ネギもキノコも禁じられたジャイナ教徒はどう料理にうまみを出すのか

          ジャイナ教の食戒律では、肉や魚や卵といった動物の命はもちろん、気持ちを掻き立てるニンニクや玉ネギも、菌から生まれるキノコすらも使えない。根底にあるのは「徹底した不殺生」だ。 しかしそうすると、うまみ食材や料理をおいしくする食材がとことん使えない。どうやって料理にうまみをを出すのか。 ※本文での「うまみ」は、甘味や酸味と並んで五味に数えられる「うま味」のことではなく、「おいしさの素」くらいの緩い意味で使っています。 ニンニクや玉ネギの代わりの”悪魔の糞"一つ目のアイテムは、

          • 畑で焼き立てとうもろこしロティと、ジャイナ教視点でみる農業の殺生

            「あと3年で定年退職するから、畑をやろうと思って土地を買ったんだ。今日は、畑でピクニックをしよう」。 朝のチャイを飲みながら、ラジュ父さんが提案をしてくれた。ピクニック! スワルナ母さんと一緒に、ほうれん草カレーとなすとトマトのサブジ(炒めもの)を作って、弁当箱に詰めた。車に飛び乗って、郊外の畑に出掛けた。 家を離れること16キロ。家も殆どない田舎に車が止まると、そこが彼の畑だった。小麦にとうもろこし、それに果物の木と野菜が少し。牛が草を食み、風の音と鳥の歌が重奏してい

            見えない生命に思いを及ばすジャイナ教家庭の台所

            西インド、グジャラート州のジャイナ教家庭に滞在している。 インド人口のたった0.4%しかいないジャイナ教は、食のルールが厳しいことで知られる宗教だ。肉や魚や卵だけでなく、野菜も食べてはいけないものが多々ある。トマトとほうれん草と豆はよいけれど、ジャガイモとニンニクとキノコはだめ。 けれど、「神聖な生き物だから」とか「汚れているから」という反論を許さぬ理由ではなく、一貫したロジカルな説明がされるから、不思議と親しみやすさを感じる。すべての根本にあるのは、生き物を殺さないとい

            インドネシア社食の台所と、料理のスモールビジネス

            ジャワ島東部のスラバヤ郊外、地元企業の社食の台所で、一緒に料理させてもらった。 受け入れてくださったのは、化学分析企業のAngler Biochemlab PT。インドネシアの食品や化学検査を担う有力企業だ。従業員130人分のごはんを作るのは、チチさんと助手の女の子。生のスパイスで煮た鶏を揚げて、豆腐とテンペも揚げて、ジャックフルーツを煮たりと、計5品ほどを作る。 チチは元々料理の仕事をしていたわけではなく、専業主婦だった。地元に戻るために探した仕事が、たまたまここでの調

            お手伝いさんたちの台所。仕事の料理とYouTube、お菓子作り

            ジャワ島東部、スラバヤの大きなおうちに滞在した。家の中にも家族の台所はあるけれど、扉を一枚出たところにはお手伝いさんたちが料理の支度をする台所がある。料理をするのは、25歳のエンダンちゃん。 朝7時、家にやってくる野菜売り(tukang sayur)から買い物をして、食事の支度が始まる。 今日の料理は、牛スープ(soto daging)や空芯菜炒めなどなど。にんにくや生姜やナッツなどたくさんの種類の香辛料を使うのだけど、さすが手慣れているなあと思ったら「YouTubeで習

            75のお供えと、近年神々が"ふえる"バリの台所

            バリの台所の朝は早い。ご飯を炊き、料理をし、家のあちらこちらにお供えをする。 ヒンドゥー教と土着のアニミズム信仰が混じった"バリヒンドゥー"が信仰されるこの土地では、朝のお供えが重要な習慣だ。八百万の神々に、ご飯やお花を差し上げる。 お世話になった家庭は、三世代同居の5人家族だ。伝統が強く息づく地域に暮らす。 あたりがまだ暗い5時台、市場にでかける。朝食の支度が始まるのは6時前。ご飯炊きから始まる。この家ではガスコンロも使うけれど、米は薪の火で炊く。そのほうがずっとおい

            神々の島バリの台所、モダンライフと伝統の間で

            インドネシアのバリは、世界中のサーファーが集うリゾートだと思っていた。しかし実はこの土地、「神々の島」という異名も持つ。 イスラム教徒が9割を占めるこの国で、例外的にヒンドゥー教が信仰されていて、食文化も独特。ビーチを一歩離れて住区に入ると、何やら神聖な雰囲気が漂っている。 交差点には、小さなお供えの台。家の敷地内に、お寺。「一つの家に一つの寺があるんだよ。家の寺の他に、村の寺、パブリックな寺もね」と教わった。本当に寺だらけだ(正確には寺という概念とは少し違うのだがとにかく

            北欧フィンランド料理、「おいしさ」は心地よさ

            最初に訪れたのは、ヘルシンキからバスで3時間半ほど離れた人口2万人のまちJämsäの家族。妻カイエと夫のユホ、それに11歳のお兄ちゃんと8歳の妹の4人暮らしだ。 フィンランドという国は、日本とほぼ同じ広さの国土に人口500万人しか住んでいないから、単純計算で人口密度20分の1。とにかく土地がゆったりしている。この家族の家も、平屋の一戸建てのまわりに芝生の庭が広がり、トランポリンとツリーハウスとウッドデッキがある。庭の向こうはそのまま森につながっていて、少し歩けば湖が広がってい

            ベトナム菜食の意外な10の事実 〜オリエンタルベジタリアンと言っても

            東アジアの仏教に根ざすアジア菜食は「オリエンタルベジタリアン」と呼ばれる。中国・台湾・ベトナムの精進料理とも言うことができるだろうか。根本の原則は、動物を苦しめたり殺さないこと。ゆえに殺生を排し、肉や魚を食べない。加えて、"五葷"とよばれるネギの仲間の臭気の強い野菜を避けるなどの特徴がある。 …と聞いていたけれど、実際現地の寺で生活していると、耳学問の知識と異なっていたり、現代社会の中での変化を感じることも多々あった。 1. 寺の菜食と家の菜食は基準が異なるにんにくや玉ねぎ

            ベトナム仏教徒は"ときどきヴィーガン"。寺の台所のヴィーガン料理とは?

            ベトナムには、肉そっくりのヴィーガン料理が多く存在する。まちの精進料理レストランに入ると、牛肉炒めや鴨のローストといったメニューが目につく。これがなかなか完成度が高い。 尼さんに連れて行ってもらったおしゃれカフェで食べたBún riêu(蟹と豚のトマトスープ麺)は、精進ハムや野菜が具沢山。食べ進めるうち「カニの身が出てきた!」と思ったら、トマトスープの絡んだおぼろ豆腐だった。いちいち驚く私を見て尼さんたちはニヤニヤしている。見た目と味付けで案外その気になるもので、騙されるの

            ベトナム寺院の代替肉は"肉への未練"ではなく、僧からの贈り物

            てりってりのチャーシュー。甘辛い香りが立ち上る。鍋をゆすると五香粉の香りがふわっと香り、食欲をそそる。かぶりついたらじゅわっと滲み出るだろうか。肉汁とタレが絡んだ味を想像するだけで、もう白飯がほしくなってきてしまう。 ところが、これ。100%植物性のお肉だ。ベトナムの尼さんがお寺で作った精進料理なのだ。 肉を食べない僧が、どうしてわざわざ「肉のようなもの」を作るのだろうか。 ・・・ ベトナムの尼寺に、10日ほど滞在した。仏教のもとに生まれた成立したヴィーガンと代替肉につい

            『世界の市場』の絵本が出ます!翻訳の裏話を少し。

            本当に素敵な絵本なんです。ヨーロッパで生まれて、この度日本語版が出版されます。私は翻訳をさせていただきました。 日本語版は原書よりひと回り小さいです。 この絵本は、1月から12月まで、毎月違う国の市場を訪れるというコンセプトで構成されています。 とにかくイラストが精細で、眺めれば市場の活気が伝わってきて、じっと見つめれば肉の繊維の一本まで見えてくるようなんです。 翻訳のお話をいただいた時、原書を手にして目が離せなくなったのを思い出します。何回原稿を見ても、いまだに毎回、小

            なぜ人は"肉のようなもの"を作るのか〜アジア菜食の歴史から代替肉を考える

            どうして、豆腐やがんもどきではなく、高度に加工した肉のような豆をわざわざ作る/食べるのだろうーー。そんな疑問が原点だった。 ここ数年、ヴィーガン・プラントベース熱の高まりは凄まじい。数年前まで、ベジタリアンはまだしもヴィーガンなどほとんど認知されていない言葉だったのに、最近はスーパーに行ってもコンビニに行っても、動物性食品不使用を謳う食品やお菓子が棚に並ぶ。オーツミルクやアーモンドミルクといった植物ミルク市場、大豆やえんどう豆を使用した植物肉市場も活況だ。 近年のヴィーガ

            "肉の代替品"じゃない系プラントベースフード食べ比べ【食文化と調べ物#3】

            シェアオフィスの仲間たちと、気になってる商品を持ち寄って、食べ比べをした。 不二精油の技術を用いてお豆腐の相模屋食料から発売されたBEYOND TOFUシリーズ、黄えんどう豆100%のZENBヌードルやオーガニックライスパイスタ、日本では珍しい種類のオーツミルク、他豆製品諸々。今話題のプラントベースフードの数々が集まった。ただし代替肉以外。 この日のメンバー4人は皆、「肉でない素材でいかに肉らしいものを作れるかを競うより、そのものとしておいしさを目指したい」という考えを持っ