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ウズベキスタンのサムサは窯で焼き、インドのサモサは油で揚げる

「ウズベキスタンの田舎の家には、一家にひとつ必ずあるよ」というタンディール窯。毎日の主食であるノン(パン)やサムサを焼くのに使う、伝統的な窯だ。

この家は横型。縦型の壺状のものもある。

一説によると、ペルシャ(イラン)発祥で、中央アジアに普及し、インドに渡ってタンドールになったとか。

今は家でノンを焼く人も少なくなり、サムサもガスオーブンで焼くことがしばしばあるけれど、この家では毎週パンを焼き、タンディール窯が稼働している。

窯に薪をくべつづけ、中の色が黒から白に変わるまで熱する。

庭から薪を拾ってきて火を作るのはお母さん。ぶどうやくるみなど、手頃な木がたくさんあるから燃料には困らない。

窯がアツアツになったら、おばあちゃん登場。防熱手袋をはめ、窯に身を乗り入れるようにして、大ぶりなサムサを壁面に貼り付けていく。

サムサのザルを持つ手伝いは、遊びに来ていた孫。

時々手で水を吹きかけながら、焼くこと30分弱。いい色に焼き上がったサムサが出てきた。いつの間にかお母さんが皿を持ってきてくれていて、焼きたてを一つ、渡してくれた。

パリッサクッ!
飛び出た湯気で火傷しそうになりながら頬張る。

どこからか子どもや家族たちが出てきて、庭の食卓について、焼きたてにかぶりつく。

庭の食卓は「タプチャン」という。夏の時期に過ごす場所。

以前別の家庭で作った、オーブン焼きのサムサも相当おいしかったけれど、窯焼きは格別だ。

しかし都市の暮らしでは叶わない。
薪と言い食卓といい、庭という風景と共にあるご馳走だ。

・・・

ところで「タンディール窯」と聞くと、インドの「タンドール窯」を想像する方もいるのではないだろうか。「サムサ」も「サモサ」に似ている。
それもそのはず、ルーツを同じくするものなのだから。しかし、決定的に違うことがある。それは、家庭への普及度だ。
ウズベキスタンのタンディールは、ほぼ一家に一台なのに対し、インドのタンドールは一般家庭で見かけることはなかった(インドに詳しい方、違っていたら教えてください)。この普及度の違いについて、理由を考えてみた。

  • インドでは、ペルシャ一帯を支配したイスラム勢力ムガル帝国の宮廷料理として伝わったため、家庭の調理器具ではなく宮廷にある贅沢なオーブンということになった

  • インドの人口密度はウズベキスタンの6倍(2020年, 世界銀行)。この数字自体は数百年前から当然変わっているが、昔から人口稠密な地域なので、窯が置けるような広い家を持てるのは一部の人に限られそう

  • 同様に、人口稠密なので十分な燃料を確保するのも贅沢なことになりそう

  • カースト制による職業区分・身分の差が大きい。下位カーストの人が、窯を持つという発想にはならなそう

確固たる理由はわからないが、いずれにしても窯の文化が渡っていく中で、当地の環境に合わせて、人と窯との関係が変わっていくのは面白い。

インドのサモサは、窯焼きではなく油で揚げる。この調理法の変化なくして、手軽な軽食として普及することはなかっただろう。

インドはデリーの屋台で、葉っぱの皿にのせて渡されたサモサ。確か数十円。

ちなみに、生地の作り方も違う。インドのサモサはシンプルに小麦粉生地をのばしたものだが、ウズベキスタンのサムサは、極薄にのばした生地に油脂を塗って丸めて層状にしてものをのばし広げるから、焼き上がりがパイのようにほろほろ崩れる感じになる。

インドのサモサと同様の一枚生地だったら、高温の窯の中でバリバリに焼けて、かぶりついたら中の肉餡が飛び出してしまいそうな気がする。なかなかうまくできている。

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