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太りすぎて棺に入らなかった故人様

わたしが葬儀屋だった頃に見た、衝撃的な光景。
※大丈夫だとは思うけれど、念のため閲覧にはご注意ください。


(思い切ってダイエット記録を始めてはみたものの、やはり元々のスタンスだった風俗嬢/葬儀屋だったときのことも書いていきたいので、できるだけ残せていけたらと思う)



あのー、なんというか少し大きい方なので。もしかしたら3、4人くらいで来てもらった方がいいかもしれません。


警察署から、そんな電話が来たという。

自分の担当ではなかったので詳しいことはわからないけれど、孤独死のような状態で発見され
ご遺族とも関係が薄かったらしく、スタッフが警察署に着いた頃、ご遺族はもう帰ってしまっていたそうだ。

普段から重いものを持ち慣れている成人男性3人の力を総動員してやっと搬送できたと聞いた。
体重は、間違いなく3桁は優に超えているだろうと話されていた。


ご遺族はほとんど直葬(通夜葬儀をせず火葬するだけ)のような形式を選ばれた。
そのため本来であればご遺族と一緒に行う納棺(故人様を棺にご安置すること)も、スタッフのみで行うことに。
できるだけ人手が欲しいということで、わたしも納棺に駆り出された。

ご遺族はできるだけお金を使いたくないというご希望だったそうだけれど、故人様のお身体がかなり大きかったので何とか特大棺を選んでもらったそうだ。
ちなみに普通の棺は6尺(180cmくらい)、特大棺は確か6.25尺とかだったと思う。横幅は覚えていないけれど、縦横比が同じなので特大棺になると横幅も当然少しは大きくなる。

その時会館にいたスタッフ総出で(と言っても4人くらいだった)
故人様を持ち上げ、棺におさめた。


おさまらなかった。
明らかに横幅がはみ出している。
納体袋に入ってはいるけれど、身体が斜めに傾いて右半身が宙に浮いているのが見て取れた。


わたしの親が生まれる前から葬儀屋だった、ベテランのおじいちゃん(以下、仮に源さんと呼ぶ。響きがそれっぽいので)が眉間に皺を寄せ、古い地元訛りでこんなことを呟いた。


参ったなあ。久しぶりだこんなの。
無理矢理入ってもらうか。


ご遺族と打ち合わせした担当のスタッフに、
直葬で間違いないな?最後のお別れはしないな?と念を押す。

どうするつもりなのかと見守っていると、


源さんは
故人様の上に半ば覆い被さるような体勢で
肋骨が折れてしまう強さの必死な心臓マッサージをするかのように
思いっっきり
故人様を棺に押し込んだ。


おさまった。
ように見えた。


担当が口を開く、

棺がたわんでる……


横から見るとぎりぎりおさまったように見えた、けれど
上から見ると、棺の横部分が両方とも故人様の厚みに耐えきれず、弧を描くように押し拡げられていた。
蓋を乗せると、明らかに嵌まっていない。棺はたわんでいるのに蓋は真っ直ぐなままだから、上から見ると端から棺の中が見えてしまっていた。


皆神妙な面持ちで源さんを見る。

源さんが口を開いた。


おい、釘持ってこい。


本当の本当に力技だった。
スタッフ総出で両側から棺を押し、たわんだ部分を真っ直ぐにする。
源さんは棺の蓋の上に乗り(!)横から押されることによって故人様が上に押し上げられ蓋が浮いてしまうのを抑えながら、四辺に釘を打っていく。


今度こそおさまった。


汗だくの源さんは、担当者に
ご遺族には臭いが漏れないように釘打ったとかなんとか説明しとけよ、
と言い残してタバコを吸いに行った。


色々と衝撃的すぎる一仕事だった。


わたしは、
とりあえず棺に入らないほど太るのはやめとこう、
とその時肝に銘じたのだった。




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