見出し画像

📚「闇の脳科学『完全な人間』をつくる」(第二章)をまとめてみた

神経外科領域の治療法となった脳ペースメーカー

この本の著者であるローン・フランクさんは、2015年にオランダで開かれた神経外科学会で、ヒースが行っていた実験と同じような実験の報告を聞くことになる。

ヒースの考え出した脳ペースメーカーは、今では脳深部刺激療法と呼ばれ、精神科ではなく、神経外科の最先端技術となっていた。

神経外科の中では、脳深部刺激療法は1987年にフランスの神経外科医が、パーキンソン病の振戦(身体の一部が自分の意思に関係なく小刻みに震えることで日常生活に支障をきたす)を治療する中で考案したとされている。

その後、パーキンソン病や本態性振戦などの運動障害の治療法として認められ、1999年に、トゥレット症候群(自分の意思に関係なく特徴的な運動や音声があらわれる)と強迫神経症の患者に試したところ改善が見られ、精神疾患へ応用されていくようになったと学会では述べられていた。

様々な疾患への応用

強迫神経症で脳深部刺激療法を行った患者が、「アルコールを飲みたくなくなった。」という結果から、アルコール依存症への応用も試みられた。

そして、アルコールの依存症への治療が可能であれば、薬物中毒やさまざまな依存症に応用可能であるだろうと考えられている。

また、食欲を制御する脳の領域については機能がよくわかっているので、病的な肥満の患者に脳深部刺激療法を試みる実験も行われており、その結果がうまくいけば拒食症患者にも応用できると考えられ、実際に重度の拒食症患者に脳深部刺激療法を実施し、半数ほどに摂食行動の改善と体重増加がみられたという報告があった。

精神疾患の原因は、今まではっきりとわかってはいなかった。

環境や外的要因のせいにされていた過去から、セロトニンやドーパミンなどの脳内の神経伝達物質のバランスの異常と考えられ、内服薬での治療が主流となった。

しかし今では脳内の電気活動の異常として認識されていることの方が多くなっているらしい。そして電気刺激による治療は、異常な電気活動を起こしている部位を狙い撃ちできる分、薬剤よりも正確に作用する。

脳深部刺激療法の副反応

強迫神経症で脳深部刺激療法をうけたある男性がいた。治療はうまくいき、症状はなくなった。しかし術後から半年、突然音楽の趣味が変わったのだ。その患者はロックミュージックが好きであったのに、治療後は全く興味のなかったカントリーミュージックを聞くようになり、「親近感を覚える」と言った。

そのほかに、同じく強迫神経症で、脳深部刺激療法を受けた女性は、術後に完璧主義であった性質を失った。

もう一人の女性患者は、内向的な人から外交的な人へと変化し、アルコールで問題を起こすようになり夫婦仲がわるくなったのだ。

脳深部刺激療法により人格を変えられるという事実は、自己という存在とは何かということを今一度問いかけることになる。

脳を操作し、自己を操作することは、どこまで可能なのか、、

脳深部刺激療法は、暴力的性犯罪や小児性愛など病的な反社会的行動の治療に有効だとしている神経外科医もいる。

ヒースはどこへ消えた?

著者のローン・フランクさんは、学会の発表を聞くうちに、ヒースの影が何度も浮かんでいた。神経外科医らが発表している実験は、ヒースが行っていた実験と類似点がいくつもあった。

学会の発表の中では、最も多く電気刺激の標的になった脳の部位は、どの疾患にも共通して側坐核という部位だった。そしてそれは、ヒースが実験したときに電気刺激を与えていた、”中隔野”の真ん中にあたる部位であった。

共通点がありながら、学会でヒースを知っている神経外科医は2~3人であった。それどころか、この学会には精神科医の姿はなかった。

そして、同じような内容を発表しているにも関わらず、ヒースのときのそれとは会場の反応は全く違ったのであった。

ローン・フランクさんは、何がヒースを闇へ葬ることになったのか、彼の研究や論文の中にはない、その正体を調べることになり、それは想像以上に困難なものだった・・・

つづく・・・。
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?