見出し画像

”死にたい”の返信って何が正解なの?

高校時代、クラス替えが寂しくて啜り泣いている子がいた。一緒のクラスにもなったことも無ければ、言葉を交わした事もない子だけど私はその子のことを何故か意識していた。

教室の前で数人の友人に励まされてる彼女は、どこか人を惹きつける独特なセンスを秘めた子だった。

啜り泣いている彼女の光景が今でも忘れられないでいる。その繊細な儚さを不覚にも綺麗だと思った私はどうかしていたのかもしれない。

それから3年が経ったある日、第一希望のゼミから落ちた私は、あぶれ者が寄せ集められたようなゼミで彼女と初めて同じコミュニティに属する事となった。

カラッとした孤高な雰囲気を持つショートカットの彼女はクールで、それでいてやっぱりどこか寂しい繊細さを纏っていた。

彼女の普段はどちらかというと派手で、目立つ方だった。基本は突っ込み役に徹しており、誰かを面白おかしく祭り上げるのが上手だった。主にその標的になったのは私なのだけど…。

「私は誰のことも信用していない」

彼女は一度だけそんなことを言った。何故そんな話題になったのかは忘れてしまったが、何気ない会話の流れだったはずだ。

ある程度仲良く距離を縮めていた気でいたから、かなりショックを受けた。同時に繊細で傷つきやすい彼女にいつか信用してほしいと思った。

社会人となった今は、年に数回LINEを送り合う仲となった。

去年の秋、久々に連絡が来た。残業終わりの帰り道だった。 

「もう本当に死にたいわ、まじで。笑」

なんとなく始まったLINEのやりとりだったが、この時、家族の事で悩んでいたようだった。(彼女の家は色々複雑そうで、聞いてる限りヘビーな内容だったからそうなるのも分かるレベルで、別にメンヘラとかじゃない)

“死”というワードはあまりに重く、こちらも息が止まった。

「死なないで」と言われても困るだろうし、「大丈夫?」と聞かれても大丈夫では無いのは明らかだろう。何と送れば良いのか分からなかった私は、とりあえず意見を控えて純粋な感想を送ることにした。

「いや、すごいよなぁ。死にたいと思うほど真剣に生きてるって事やろ?」

既読がつくまでドキドキした。これでよかったのだろうか…。思いの外すぐに返信がきた。

「言葉が、らしいよなぁ。」
「ありがとう、もう少し適当に生きるつもり。笑」

とりあえず、これで良かったのかもしれない。彼女はもう少し適当に生きてくれるらしい。

スマホの画面を閉じて、ひとりいつもの帰り道を歩く。

なんとなく空を見たけど、いつも通り星は綺麗に見えなかった。それにしても秋の夜は何でこうも切ない気持ちになるのだろう。一番好きで一番嫌いな季節かもしれない。

私も私で残業続きで寝不足だったから、だからなのか、それともこの季節のせいだろうか、じわりと視界がぼやけた。

23時30分にもなると最寄駅にはもう誰もいない、街に響く自分の足音が生きてる実感を強く持たせてくれた。