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【連載エッセイ】悪妻のススメ(第7話:悪妻の手口)

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今、あの時の「ゼクシィ事件」や「ウェディングフェア事件」を振り返ると、

妻「私、どうしてあんなこと言ったんだろうね~。同棲して2ヶ月で結婚の話は早過ぎだよね~。

なんて言って笑う。

しかし当時の妻は、おかしいほど真剣だったし、私からするといつ何を言い出すか分からない 宇宙人 のようだった。

そして、これらの出来事も妻の解釈では、

彼がゼクシィを買ってきて、彼がウェディングフェアに申し込んだの~。

という話になる。

いや、確かに私がゼクシィを買ってきたし、私がウェディングフェアに申し込んだ。

行動だけを切り取れば、妻の解釈はあっているのだが、私が行動したのは 動かずにいられない状況に追い込まれた からだ。

そして、妻は自分の解釈で人にも話すものだから、知らぬ間に妻のお友だち界隈では、私は 結婚に前向きで優しい彼 ということになっていた。

振り返れば、これが

妻が夫(私)を動かす常套手段

だった。

今でも私の仲の良い友人からは、

結婚してから家庭中心になって、お前は完全に人が変わったよね~。

と言われる。

妻のママ友には、働きながら家事や育児もしてるなんて

ひでさんは、スーパーパパですね!

なんて称賛される。

でも元を辿れば、私は結婚しても自分が家事や育児をするなんて、想像すらしたことがなかったような人間だ。

そんなに簡単に人が変わるはずがないのだ。

ただ 妻のしつこい要求に耐えられず、家事や育児も妻が「できない」と言ってやらないから仕方なくやり始めた のだ。

いや、そうは言ってもなかなかできるものじゃないし、きっとひでさんは、元々器用なんですねー。

なんて言われるが、本当に全くもって事実はそうじゃない。


その証拠に、同棲を始めて3ヶ月を迎える頃、私は妻との生活にストレスを溜めに溜め、遂に限界を超えてしまった。

もうこの生活を続けるのは無理だ・・・自分の家に帰ろう。

すぐにでも家を飛び出したい心境だったが、一緒に住んでいると勝手に家を出ていく訳にもいかない。

わざわざ喧嘩になるようなことを言うのも気が重たかった。

それでもどうにも耐え難いストレスに、この同棲生活を終わりにすると腹を決めて、私は妻に訴えた。

私「ちょっとこの生活は無理だよ。しんど過ぎる・・・

妻「・・・

私「あまりにも窮屈だし、一緒に暮らし始めてから、基本的に僕の給料で買い物しているけど貯金が減り続けている。この生活を続けることは経済的にも無理だよ・・・

妻「・・・

その後も、私は溜まっていた不満を怒涛のごとく吐き出した。

ドライヤーのコードのことや、タオルのことなど、我ながらそんなことまで言うかと思うほど、ここぞとばかりにぶちまけた。

私は、きっと妻が泣いたり喚いたりして、修羅場になるという展開が起こることを想像していた。

だが、妻の反応は想像していたものとは全く違った。

妻「じゃあ・・・ドライヤーのコードをまとめないのは気をつけるけど、あなたも気づいたときは、まとめておいてよ。

妻「タオルは、お互い使うタオルを分けよう。

妻「それと、私はお金を多く使っているという感覚はないんだけど、あなたの月の収入って手取りでいくらなんだっけ?

なんと妻は、私の不満一つ一つを合理的に整理し始めたのだ。


よく考えれば、妻は常日頃から争い事の中に身を置く弁護士だった。
私の強い主張など可愛いものなのかも知れない。

私は、何だか拍子抜けすると同時に、抱えていた不満を吐き出したからか、妙に気持ちがスッキリしてしまった。

そして、どうやら妻は「想い」「気持ち」「考え」など、私が内側で抱えていることを忖度して行動することはしないけれど、それを「言葉」にして伝えれば、真剣に耳を傾けてくれるようだった。

そうか、弁護士は法律の知識とともに「言葉」が商売道具だ。
だから、妻は普通の人より「言葉」を大切にしているのか。

妻の特性が、少し分かった気がした。

言わなくとも「察してくれるだろう」というスタンスは通用しない。
曖昧な表現」や「オブラートに包むような言い方」では伝わらない。

要するに、妻には忖度することなく、はっきり明確な言葉で伝えることが重要だった。

どうやら、それまでの私は 人の気持ちは察することが大切 という価値観を持っていて、きっとそれを人にも求めていた。

妻のような考えを持つ人とは出逢ったことがなく、その 価値観の違い は衝撃だった。


その後、私たちの間では、何度か合理的な話し合いが重ねられ、何となく危機は過ぎ去った。

そして、後日そのときの出来事を

私「あの同棲して3ヶ月くらいのときにした喧嘩が一番の危機だったかなー。

と話すと、

妻「えっ!?いつのこと?危機なんてあったっけ?

と言う。

価値観の違いとは、本当に恐ろしい。

私の決死の訴えも妻にとっては、ただの「お話し合い」だったようだ。

そして、もしあのとき同棲していなかったら、私は妻に不満をぶつけることもなく、もう会わないという選択をして、お別れしていただろう。

そう思うと、妻の強引さに導かれ、勢いで同棲してしまったことは、ある意味では正解だったのかも知れない。

そして、自分の気持ちを抑え込むことは、大人な振る舞いなんかではなく、相手と向き合うことから逃げてた だけだったと、妻に出逢って気づかされたのである。

人の気持ちなど汲み取らないが、強い意思のある主張には聞く耳を持つ。

それが悪妻の一つの特徴だ。

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