パンク

自転車がパンクして歩いて帰ってきたジェームズ、瓶ビールを2本抱えて帰ってきた。酔っ払ったジェームズは遠くを見ている目でおしゃべりになるからすぐ分かる。「ねえ帰り道に、缶ビール3本飲んだでしょ?」とズバリ当ててみせた。

酔っ払うと、なぜかYouTubeを見せてくれる傾向にあるジェームズ。ゲーム ポケモンの音楽の音階の分析動画から始まり、明後日行くコンサートのアーティスト、サタデーナイトライブでの好きなコント、友達が好きなメタルバンドなどなどの動画を見せてくれた。

そして錯乱前戦という日本の若者のバンドの動画を見せてくれている時、「あの子が持ってる白黒のギター、14歳の時からずっと欲しいんだよね。かっこいいでしょ。」と言った。10年間ジェームズとは一緒に居るが、彼が14歳からずっと欲しかったものを私は知らなかったのだ‥と急に切なくなった。

そこからそのギターを欲しくなるきっかけとなった、ファット・マイクというパンク ミュージシャンを見せてくれた。「これが僕のヒーローだよ。あの頃、彼が居なかったら今の僕は居ないだろう。」と言った。私は、私の知らない少年のジェームズを想像して涙が出た。両親も離婚して辛い頃だったんだろうか、このファット・マイクがジェームズを救ってくれたと。

恐る恐る、「具体的にどういう影響があったの?」と聞くと、「彼に出会って、パンクバンドと、パンクミュージックが使われているゲームに出会った。」との回答だった。

ん!!ゲーム‥?涙がスッと引いた。ジェームズに「なんで泣いてるの?」と聞かれた。ほんmoneyそれ、何でだろ?私が聞きたい。笑 

「ロスにある、彼が作ったパンク ミュージアムにいつか行きたいんだ。」とジェームズは続けた。私はまた、10年間一緒にいても、彼のヒーローの存在を知らなかったのかと、切なくなった。「すぐギターも買おう。ロスにも絶対行こうね!」と、今まで出会った事の無かった、少年ジェームズに対して母性が溢れてきた。

「大人になってからファット・マイクのライブとか無かった?行かなかったの?」と聞いたら、「ファイナルツアーがあったよ。でもチケットが70ポンドもしたのが、許せなくてね、パンクなのに言ってることとやってる事違うじゃねぇかよFuckって思って行かなかった。」え、ジェームズ、めっちゃパンクじゃん‥。

でも彼は見た目は全くパンクっぽく無い。髪もナチュラルでピアスもタトゥーもレザーもトゲトゲも身に纏って居ないからだ。「ファットマイクの影響で、パンクファッションにならなかったの?」と聞くと「周りに左右されずに、俺らしく居る。ってのがパンクの精神なのに、パンクファッションっていう制服みたいな型ができてるのが矛盾しているんだ。奇抜な髪型らタトゥーが無くたってパンクなんだよ。」なるほど、自分らしく居るっていうのが一番のパンクなのか。その時ジェームズがその誰よりもパンクに見えた。

それから私達は日本のパンクミュージシャン ブルーハーツ のリンダ リンダの動画を観た。「ドブネーズミ ミタイニ〜 ウツクシク ナリーターイ〜♪」普段日本語を話さないジェームズが珍しく日本語で一緒に歌っていた。

そんなふうに日本語でカラオケをする姿も、パンクを語るジェームズも、今まで見たことが無かった。私みたいに扉がパッカーンの人も居れば、ジェームズみたいに、自分の事は多くは語らず、内に秘めている人もいる。人はみんなパンクで、そう。写真には写らない美しさがあるんだ。

そして私も、ピアスも閉じたしタトゥーも無いし、色々ダサいし何もイケてないけど、自分らしく居れば、今までもこれからもパンクガールなんだ。と嬉しくなった。


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