次期衆院選比例代表「議席帯」シミュレーション
日本の国政選挙では、衆院の37.8%と参院の40.3%の議席が比例代表で決められます。割合としては半分に及ばないものの、中小規模の政党は議席を比例代表に依存する割合が大きく、その見積もりは重要です。
そこで今回は、各政党の地域的な勢力バランスを反映したうえで投票率と得票数が様々に変化した場合を想定し、次期衆院選の比例代表を念頭においた大規模なシミュレーションを行いました。
その結果、獲得が見込まれる各政党の議席数を、投票率と得票数でつくられる平面上の「議席帯」として捉えることが可能となり、わずかな得票数の違いが大きく議席に影響する帯域と、票が増えてもほとんど議席が変わらない帯域が存在することが明らかになりました。
別の言い方をするのなら、これは現行の衆院の比例代表制がいかに「比例」的でない歪みをおびているのかということを端的に描写したものです。
シミュレーションの概要
記事の構成上、まずは典型的な結果の紹介から始め、その後により詳細な背景や手法の解説へと進み、最後に全政党の結果を示したうえで考察を加えることにします。自民党や立憲民主党などは量が多く扱いにくいため後に回すとして、ここではまず、れいわ新選組の結果を見てみましょう。
なお、本記事で断りなく「得票数」というときは、比例代表の全国における得票数を指しているものとします。また「議席数」や「議席」というときは比例代表によるもののみを指し、小選挙区は含めないこととします。
この表1の縦軸は全国におけるれいわ新選組の得票数(万票)で、上ほど多くなっています。また、横軸はその選挙の全国における投票率(%)で、右ほど高くなっています。得票数と投票率に対応する一つ一つの数字が、そのとき見込まれる議席数にあたります。その議席数は、左下から右上にかけて同じものが帯のように並びました。これを新たに「議席帯」と名付けることにします。
表1の130万票~330万票の部分を抜き出して、第49回衆院選(2021年)の結果に該当する箇所を赤く着色したものを以下に示しました。
第49回衆院選(2021年)は投票率が55.93%で、れいわ新選組は比例で221万5648票を得ています。四捨五入して最も近い箇所を読み取ると、表2では4議席となっています。
他方で第49回衆院選(2021年)で実際にれいわ新選組が得たのは3議席でした。しかしこれには、東京、南関東、東海、近畿の4ブロックで当選ラインを超えていたものの、重複立候補に関する公選法の規定に基づいて東海ブロックの当選が認められなかったという事情があるため、純粋に比例代表のみについて計算するならば4議席という結果は妥当だといえます。
それでは次に、第49回衆院選(2021年)に該当する箇所から上下左右に動いた場合を読み取ってみましょう。
表3で右側に動くことは、より高投票率となることを意味しており、得られる議席は1議席へと減少していきます。投票率が上がると議席が減るということに違和感を覚えられる方もいるかもしれませんが、これはれいわ新選組の票だけが220万票で固定されているからです。つまり投票率が上がれば多くの人が投票に行くことになるものの、その票は全て他の政党に入っているという状況にあたるというわけです。逆に左に動くと議席が6まで増えますが、これは投票率が落ちるなかで、れいわ新選組だけが220万票を維持しているという状況であるためです。
次に上下の動きを考えてみましょう。上に動くことは得票数が増えることを意味します。しかし230万票で6議席となってからは、330万票に乗るまで議席数に変化はおこりません。対して下方向に動くと、190万票にかけて急激に議席が減っています。
この2~5の議席帯の狭さと6議席帯の分厚さが、れいわ新選組の特徴だといえます。前に公開した次期衆院選比例代表・議席獲得難度序列シミュレーションのなかで、「(れいわ新選組は)票を減らせば1議席しかとれないところまでたやすく後退しうるのです。他方で7議席目の積み増しには高いハードルが存在し、たとえ票が伸びたとしても、6議席を上回るのは容易ではありません」と書いたのは、今回の結果と整合するものです。
こうした議席帯の特徴は、衆院の比例代表制の仕組みと、各政党がもつ地盤の地域的な強弱に応じてあらわれます。今回のシミュレーションでは、以上のような知見を各政党について得ることができました。
背景
衆院の比例代表制の現状と、今回のシミュレーションの基礎とした考え方を簡単にまとめます。
比例ブロック
参院の比例代表が全国一区であるのに対し、衆院は全国が11の比例ブロックに分割されており、議席は各党がそれぞれの比例ブロックで獲得した票にもとづいて決められます。
ブロック定数
それぞれの比例ブロックには固有の定数が定められています。次期衆院選にあたる第50回衆院選では、第49回衆院選(2021年)から定数の変更が行われており、東北、北陸信越、中国ブロックの議席獲得は従来よりも難化し、東京ブロックと南関東ブロックは易化するとみられます。
なお、この表4において第49回衆院選(2021年)の当選ラインの欄に記載したのは、最下位当選者の相対得票率です。
ドント式
各党の得票数を議席数に変換する計算は、比例ブロックごとに、ドント式というやり方で行われます。
仮に定数10の比例ブロック(Xブロック)で、A党が600票、B党が380票、C党が300票、D党が200票を得た状況を考えてみましょう。
このときA党について次のような計算を行います。
「除数」は「割る数」のことで、まず除数1の横にA党の得票数をそのまま書き込みます。除数2の横には得票数を2で割った結果を、除数3の横には得票数を3で割った結果を書き、以下、定数までこの計算を繰り返していきます。
B党、C党、D党についても同様の計算を行います。このXブロックの定数は10としていたので、割った結果が大きい順に10人までを当選者とします。
当選者には赤い●で印をつけておきました。つまり政党名の下についた●の個数だけ、議席が得られるというわけです。結果、A党は4議席、B党は3議席、C党は2議席、D党は1議席となります。(なお、表7の背景色は当選ラインの2倍が赤、当選ライン付近を黄、当選ラインの半分未満を白としています)。
全国の情勢と地域の情勢
参院の全国比例とは違い、衆院では比例ブロックごとに議席が割りつけられるのでした。すなわち比例ブロックごとの票がわからなければ、議席数を定めることはできません。しかしながら各社が毎月行う定例世論調査は全国を対象としたものであり、比例ブロックごとの情勢をとらえるのには精度が不足しているのが現状です。
何とか比例ブロックごとの情勢を評価することはできないのでしょうか。ある程度の不確実性を許容するとして、全国の情勢と地域の情勢を対応させることはできないのでしょうか。
ここで、これまでの選挙で票がどのように拡大または縮小してきたかを見てみましょう。次の図2は共産党について、最も弱かった時(左)と最も強かった時(右)の票の分布を比較したものです。
これは正確に言うと、比例代表制が導入されて以降の衆参すべての選挙のなかで、全国集計の絶対得票率が最低と最高だった回にあたります。
この図2から読み取れるのは、全国的に後退していた第16回参院選(1992年)当時でもある程度の基礎力があった地域ほど、第18回参院選(1998年)で伸びていることです。
自民党についても同様のものを図3に示しました。ただしこちらは、最も強かった時(左)から、最も弱かった時(右)への変化となっています。
図3からも、第14回参院選(1986年)で強かった地域ほど、弱体化した第17回参院選(1995年)でもその強さをとどめていることがうかがえます。
図2や図3は票が2倍以上になったり半減した事例ですが、こうした極端な場合でも、政党の地域的な強弱は大局的には維持されています。強かった回の票は、「一度はその党に投票した経験を持つ人」、つまり「その党に投票することに抵抗の少ない人」の分布です。弱かった回の票は、どん底の時にも票を投じた固い支持層の分布です。そうした固い支持層のなかには、熱心に票の拡大をしようとする人もいるのでしょう。
未来の選挙を考えるうえでも、すでに存在するこうした前提が地域ごとにあります。そして、党が分裂や再編をしたり政治家が多く出入りすることがない限り、そうした前提は短期的には変わりません。そして、前提として存在する地盤をベースとして、全国の得票数が脈動するように増減するというのが、これまで各政党の地域分析で見てきた事実でもあります。(地盤という前提があって、それに対して働きかけたときに、その応答が票として返ってくるわけです。地盤があっても、働きかけが量的・質的に悪ければうまくは響きません。一度投票してくれた人が多くいるとしても、次の選挙でも入れるかは、政党のスタンスや選挙運動のやりかた次第であるわけです)。
以上のことをもとに、今回のシミュレーションでは各政党の地盤を考慮して、強い地域ほど伸びやすく、弱い地域ほど伸びにくいということを仮定します。以下では詳細な方法を解説していきますが、このことさえ押さえてもらえれば、説明は飛ばしていただいても構いません。各政党の結果を見る方は「計算結果」に移動してください。
方法
「ある政党について、全国の票が基準の$${N}$$倍になったときは、全ての比例ブロックの票もそれぞれ$${N}$$倍される」ということを仮定します。そのうえで投票率と、1つの政党の票を動かして議席を計算します。ここでは票を動かす政党をA党と呼ぶことにします。
基準となる選挙の有権者数を$${R}$$、無効率(無効票が投じられた割合)を$${u}$$、投票率を$${t_0}$$、A党の全国における得票数を$${V_A}$$とおきます。ここで、基準となる選挙は第26回参院選(2022年)の比例代表として、各政党の票は衆院の比例ブロック別に集計したものを用います。第49回衆院選(2021年)を直接用いるのでは参政党の影響が考慮できないため、このような扱いとしました。
本シミュレーションでは、有権者数と無効率は、基準となる選挙から変えないものとします。また、与える投票率を$${t}$$、与えるA党の全国における得票数を$${W_A}$$とおきます。
以上のとき、次の$${α}$$、$${β}$$を計算します。
$$
α=\frac{W_A}{V_A}
$$
$$
β=\frac{R t (1-u)-W_A}{Rt_0 (1-u) - V_A}
$$
ここで$${α}$$は、A党の票として入力した値が、基準となる選挙の何倍かを意味します。また$${β}$$は、他の政党の票の合計が、基準となる選挙の何倍かを意味します。
次に、基準となる選挙の各党のブロック別の得票数(表8)に対し、A党については全てのブロックに$${α}$$を掛けた結果を、他の政党については全てのブロックに$${β}$$を掛けた結果を求めます。
最後に、ドント式の計算によって各ブロックの議席数を求めます。
データ
データは総務省の選挙関連資料の参議院議員通常選挙結果のものを用います。以下に基本的な概要をまとめました。
有権者数
有権者数$${R}$$は、最新の国政選挙である第26回参院選(2022年)の105019203人を用います。実際は人口減少のため、次期衆院選を考えるうえでこれは過大となりますが、1、2年程度の影響は、各政党の勢力の変化と比べて十分に小さいと考えました。
投票率
基準とした第26回参院選(2022年)の投票率$${t_0}$$は、52.0432877404335%です。与える投票率$${t}$$は45%から65%までを1ポイント刻みで入れるものとします。
無効率
このシミュレーションでは、無効票を投じる人がいることを考慮します。その際の無効率(無効票が投じられた割合)$${u}$$は、基準とした第26回参院選(2022年)の2.9754632%を用います。したがって有効率は97.0245368%です。これはシミュレーションで常に一定としました。(有権者数に投票率と有効率をかけたものが有効投票総数となります)
基準となる選挙の各政党・政治団体の票
基準とした第26回参院選(2022年)の票を、衆院の比例ブロック別に集計しておきます。
ここで、NHK党は、現在の「みんなでつくる党」に対応するとして扱います。また、表8の政党と政治団体が全ての比例ブロックに候補者を擁立することを仮定します。第49回衆院選(2021年)でも全ての政党が全ての比例ブロックに候補者を立てています。
ただし、政党要件を持たない新党やまと、政権交代によるコロナ対策強化新党、日本第一党、政治団体「支持政党なし」は、限られた比例ブロックに擁立をしました。また、幸福実現党、ごぼうの党、新党くにもり、維新政党・新風は、第49回衆院選(2021年)の比例代表に擁立していません。ですから政党要件を持たない政治団体に関しては、全ての比例ブロックに擁立するという仮定には無理があります。けれどもその影響は十分に小さいと考えて、あえて取り扱いを変えないこととしました。
ブロック定数
比例ブロックの定数は、定数変更を反映し、最新のものとします(表4を参照してください)。
計算例
以下では具体的に、れいわ新選組について、得票数が250万票、投票率45%の場合の計算を示します。
①投票者数の計算
有権者数が105019203、投票率が45%なので、投票者数は次のようになります。
$${105019203 × 0.45 = 47258641.35}$$
②有効投票総数の計算
①の結果のうち、97.0245368%が有効票を投じたと仮定しているので、有効投票総数は次のようになります。
$${47258641.35 × 0.970245368 = 45852477.8678108}$$
③他の政党の票の合計の計算
れいわ新選組の票は250万票と与えているので、これを②の結果から引くことで、他の政党に入った票の合計を求めます。
$${45852477.8678108 - 2500000 = 43352477.8678108}$$
④係数αの計算
係数αは、ここでは「れいわ新選組の票として入力した値が、基準の何倍か」を意味します。入力した値は250万票、基準とした第26回参院選(2022年)が2319156.016票なので、次のようになります。
$${α =\frac{2500000}{2319156.016} =1.07797836055546}$$
⑤係数βの計算
係数βは、「他の政党の票の合計が、基準の何倍か」を意味します。③の結果は 43352477.8678108票、基準とした第26回参院選(2022年)が50708103.986票なので、次のようになります。
$${β = \frac{43352477.8678108}{50708103.986} = 0.854941803380777}$$
⑥比例ブロックの計算
基準とした第26回参院選(2022年)に対して、れいわ新選組については全ての比例ブロックに$${α}$$を掛け、他の政党については全てのブロックに$${β}$$を掛けた結果を求めます。
⑦ドント式の計算
最後に比例ブロックごとにドント式の計算を行い、議席を集計します。
表10~20から、れいわ新選組は北関東、南関東、東京、東海、近畿、九州の各ブロックで1議席ずつ獲得することがわかります。以上によって、れいわ新選組の得票数が250万票で、投票率が45%の場合、推定議席数は6と定まります。
冒頭に掲げた表1は、投票率と得票数を変えながら、こうした計算を繰り返し実行したものです。以下ではこれを、さらに全ての政党について行った結果を示します。計算は次の範囲で行いました。
自 民 0 ~2000万票
立 憲 0 ~1500万票
維 新 0 ~1500万票
公 明 0 ~1000万票
共 産 0 ~1000万票
国 民 0 ~ 500万票
れいわ 0 ~ 500万票
参 政 0 ~ 500万票
社 民 0 ~ 250万票
みんな 0 ~ 250万票
ここからは全ての政党の結果を示して解釈を行います。また、衆院選を検討するうえで参院選のデータを基準としたことの妥当性や、シミュレーションの適用限界などにも考察を加えます。
これは機械的な計算の結果ですが、方法とデータで示した以外の仮定が入っていないからこそ、読み手の皆様の独自の肌感覚や洞察に、マスコミの調査などをあわせて検討する際の参考にしていただけるはずです。
大変重要な結果を得ていますので、まだ「みちしるべ」に参加されていない方は、ぜひこの機会にご検討いただければ幸いです。時間とコストをかけているので、応援していただけるととても助かります。