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次期衆院選比例代表・議席獲得難度序列シミュレーション

 次期衆院選の比例代表の情勢を探るべく、2段階のシミュレーションを行いました。まず1段階目では、第26回参院選(2022年)の全国比例の票を衆院選の比例ブロックごとに再集計し、ドント式の計算によって議席を求めました。まずはその結果の一覧を示しましょう。

1段階目のシミュレーションの結果・各政党の獲得議席数一覧

 これは議席予測ではなく機械的な計算の結果です。比例ブロックごとに0や1となったもののなかには、当選ライン付近にあたる僅差の当落が多々あります。そうしたものがどのように動きえるのか、実際のところは衆院選と参院選の傾向の違いや、時間的な党勢(支持率)の推移、各政党が選挙に臨む姿勢などに応じて、検討を加える必要があるわけです。

 そこで2段階目のシミュレーションでは、特定の政党の票を変化させ、票が増えた場合の「議席獲得条件」や、票が減った場合の「議席喪失条件」をさぐりました。特定の政党について票を増やすとそれに伴って総得票数が増加するため、当選ラインも変化します。ここでは逐次代入によってそれを解き、獲得が見込める議席の順番を調べました。

 タイトルには比例代表・議席獲得難度序列とありますが、長いため以下では「比例獲得難度序列」、または単に「序列」と表記します(なお、衆院選の比例代表には各党が決める「名簿順位」がありますが、ここでいう序列とは関係ありません。名簿順位は党内のどの候補を優先するのかということで、ここでいう序列はどの議席がとりやすいかということです)。

 以下に一例を示しましょう。自民党などでは説明が大変になるため、さしあたりれいわ新選組をとりあげることにします。れいわ新選組は先の一覧で6人が当選することになっているものの、前回の当選者が3であったことを振り返ると、倍増という結果には飛躍があるように思えます。そのような結果はいかにして出たのでしょうか。実はその6議席の序列は次のようになっています。

 2段階目のシミュレーションの結果・れいわ新選組 比例獲得難度序列①

 この図には、左ほど獲得しやすく、右ほど獲得しにくい比例ブロックが並べられています。「東京ブロックの1議席目」は「東京1」、「東京ブロックの2議席目」は「東京2」などと表記しました。右端の北陸信越1の後には、さらに獲得しにくい議席が、北関東2、中国1、九州2、北海道1、近畿3、四国1・・・と続いていますが、ここでは省略しています。中段に当選ライン(赤線)が引かれていて、棒が上に突き出しているものはリードしており、下に突き出しているものは逆にビハインドとなっています。縦軸の数値は相対得票率です(相対得票率はマスコミ等で一般的に言われる「得票率」と同じものを指します。選挙分析では「絶対得票率」も用いられるのであえてそのように表記していますが、この記事に絶対得票率はでてきません)。

  少し説明を書き込んでみましょう。

 2段階目のシミュレーションの結果・れいわ新選組 比例獲得難度序列②

 この図からは、東京1から近畿1までの6議席は当選ラインを超えているものの、突出して安全圏にあるのは東京1に限られており、残りの5議席の余裕は少ないことがわかります。つまり順当にいけば6議席をとりますが、票を減らせば1議席しかとれないところまでたやすく後退しうるのです(れいわの票が変わらないまま、他の党が票を増やすなどして投票率が伸びた場合でも、当選ラインが上昇するため同様に議席の後退が起こります)。他方で7議席目の積み増しには高いハードルが存在し、たとえ票が伸びたとしても、6議席を上回るのは容易ではありません。

 東京2も東北1と同程度に厳しいことがわかります。東京は前回衆院選から定数が2つ増加する(17→19)ものの、ここで2議席目を狙うよりは、近畿、九州、北関東、東海、南関東のおさえに注力した方がコストパフォーマンスが高く、得られる議席の期待値は高くなるわけです。みちしるべではたびたび触れてきましたが、現代の選挙において連動効果(小選挙区での候補者擁立が比例票を伸ばすように働くこと)は明白であり、これらの比例ブロックではそのことを念頭に置いた擁立戦略が求められるでしょう。また、れいわ新選組の場合、東京は1議席目も2議席目も当選ラインから離れているので、東京で山本太郎氏が出馬しない影響は小さいことがうかがえます。

 今回の記事では、ここまでで触れたれいわ新選組と同様のことを、自民、公明、維新、立憲、国民、共産、社民など、すべての政党で検討していきます。例えば参院選と比べて衆院選では野党側の票が増えがちなので、自民党は実際のところ76もとるのは困難です。それでは落とすとしたらどこから落としていくでしょうか。共産が現有9から11に積み増すと出たのは、どこで競り合った結果なのでしょうか。あるいは参政党はどうでしょうか。参政党は先の参院選で全選挙区に擁立していますが、さすがに衆院選の全選挙区に立てるのは負担になりすぎます。それならどこで重点的に擁立することが議席につながりやすいのか。そしていくつまでが射程になりえるのか――。以下に示すのは単なる議席予測にとどまるものではなく、どこに力を入れて選挙をやれば状況を変えることにつながるのかを見通せる内容です。

 過去のデータや傾向をただ未来へと延長したところで、意味があるものは浮かんではきません。それは過去が、今を生きる人たちの手によって、能動的に未来へ転じられるということを見落としてしまっているからです。その点を掬い取ることで、当たるとか当たらないかとかいった話で終わるような議席予測を越えようと思いました。それはある意味で危険なデータということもできますが、比例代表はここまで具体化してとらえることができるのだということを、今回は示していければと思います。選挙分析の実力をお見せします。

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