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青春の回廊を訪れて~古き友の旅立ち~

 大学のテニスサークルでの後輩が遂に結婚の門をくぐる。50歳を超えての、新たな人生の始まりだ。彼女と私の同期が集い、ささやかながらも温かいお祝いの席があった。彼女の伴侶は10歳年下。みんなの顔は自然と緩み、懐かしい思い出が次々と蘇る。
かつてのような爆発的な盛り上がりはないが、静かでじんわりと心に染み入るような時間が流れる。彼女と私、二人は出会いの瞬間を今も鮮明に覚えている。ただ、その記憶は少しずつ異なるものになっているのだが。

 1992年4月1日、9号館のロビーだった。当時、サークルの代表として新入生を勧誘するために走り回っていた。どこからみても新入生という感じの女の子がオドオドしながら立っていた。「教育学部の建物ってどこですか?」と問われ場所を教えた。そのままサークルのラウンジに戻ろうとする私に、距離を置かずについてくる。そのまま新入生を歓迎する飲み会に参加し、3年次には役員までやっていた。以来、勧誘したのか否かの論争が続いている。

 30代の頃、会社での人間関係のあつれきに苦しんでいたという。「あの頃、もっと対話があれば救われたかもしれない」とnoteを読んで感じたと語る彼女の言葉に、深く思いを馳せた。その頃、もし会っていたら、私は何を語ることができただろうか。
集まり散じた一人ひとりが、それぞれの人生を織りなしてきた。今だから分かり合えることがある。記憶は書き換えられていくものなのかもしれない。
時には激しく立ち向かい、時にはつまずき、それでも何とか乗り越えてきた。今だからこそ、彼女は結婚するのだろう。二人は人生をともにしていくことを選んだのだろう。ありきたりの言葉だとしても、末永くお幸せに。

 一年の間に、集まる機会が増えたことに感謝している。「ただ単にテニスや飲み会に参加するのではなく、生涯つき合える仲間を見つけてほしい」新入生を前に緊張しながら語りかけていた若者の姿を思い出した。
 かつてのサークルはコロナ禍で解散してしまったが、もしかしたら、この年齢だからこそ新たな形で復活させることもできるのではないか。そんな思いを巡らせながら家路に着いた。

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