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駐妻記 果物天国

 日系のスーパーマーケットといえば、「フジスーパー」。

 日本人駐妻のほとんどがそこで買い物をする。たしか日本にも店舗はあるということだったが、全国チェーンではないらしい。外資の大型スーパーはほかにもあったし、個人商店のような日本食材のお店もあったが、メインはフジだったと思う。

 フジスーパーはスクムヴィットという日本人が多く住む地域に(私が住んでいる時は)4つの店舗があった。フジ1(フジヌンと読む)からフジ4(フジシー)まで。フジ1は最も古い店舗で、フジ2とフジ3はちょっと小さめの店舗、フジ4が一番新しくて広かった(今はもしかしたら店舗が増減しているかも)。

 夫に「立派なスーパーもあるから」と聞いていたのだが、フジ1に初めて行ったときはびっくりした。私のイメージはイオンとか、ヨーカドーとか、そういうモノだったのだが、そこにあったのは低い平屋建ての、さほど大きくなく、少々古めかしいスーパーマーケットだった。

 でこぼこの所々舗装の禿げた土埃のたつ道に面していて、古くからある日系の店(パン屋さんやラーメン屋さん、100均、本屋さんなど)が近くに軒を連ねている。店舗の前にはシーローがたむろしていて、運転手さんたちがなんだか少し怖くもあり、正直に言えば少しがっかりした。

 しかし今なら「立派なスーパー」だと心から思う。何しろ日本のものはほとんどある、しかも常に改善しようと言う精神に溢れた、まさにスーパーなマーケットだったのだから。でも当時は日本の感覚を引きずっていたし、実際、最初の頃は色々不満を感じることもあった。

 ある日店舗に「先日のあさりを購入された方へ。鮮度が悪かったことがわかりました。返品・返金受け付けます」なんて張り紙があったりすると、ドキドキした(ちなみにタイのあさりは残念ながら工場廃液による汚染であまりよくないと噂されていたのもあって、私は買ったことがなかった。噂の真偽は不明)。そういう張り紙は滅多になかったが、たまに、あった。

 ちなみに駐妻記で最初のころ出てきたデパート内の「ドリアンの異臭にビックリ」のスーパーは、綺麗で立派だった。日本のものもあるが、品揃えが違っていて、日本と同じ様なものが欲しいとすれば、断然、フジスーパーだった。

 もちろん、日本の商品はすべて輸入品になるので高い。当時にしてほぼ3倍の値段だ。洗剤やシャンプーなどが欲しければ、たとえば800円くらいのポンプ式シャンプーは2400円くらいになる。消耗品には、かなり勇気の必要な額だ。

 納豆は冷凍だったがちゃんと売っていたし、充填豆腐もあった(次第に種類も増え、日本で人気の豆腐も売るようになった)。生鮮品はタイ産がほとんどだが、日本向けの野菜を売っていた。肉はそこそこ揃っていたが、魚はあまりなかった。それでも鮭の切り身も売っていた。

 実はタイに行ったばかりの頃、先輩が色々と怖い話を教えてくれたので(買った豆腐が腐っていたとか、魚の鮮度が悪いとか)、先入観が先だってひどくおっかなびっくり買い物をしていた。日本での事前情報ではお肉の「薄切りパック」はない、という情報だったのに、ちゃんとあったので早速牛肉の薄切りを買って帰ったら、硬くて臭くてショックだった。タイの牛は日本と種類が違い、味が違う。薄切りというのもだいぶ厚めで、がっかりしたのを覚えている。

 ところがタイを去るころまでには、その状況は急激に進化し、薄切り肉は日本のものと遜色のない薄さになり、さらに味が格段に良くなっていた。カイゼン&カイリョウが凄まじかった。

 当初は日用品は高い上に種類もなく、手に入らないものも多かった。ほとんどは日本から船便で持って行ったもので賄っていたが、帰国間際にはないものなんてないくらいになっていた。シャンプーも、ハイターも、食器洗い洗剤も、あっても最初はタイ製品か米国製品などが主流だったのだが、そのうちに日本の商品が棚にずらりと並び、種類が選べるほどになっていた。

 タイには日本の製紙会社の工場が多くあるが、かつてはタイ価格でタイに流通することはなかった。それで最初の頃はおむつや生理用品が豊富になく、あっても粗悪な外国製品が多かった。我が家は幸い、おむつが取れる頃にタイに行ったのだが、おむつは一時帰国時に大量買いして日本から持ってくるものだったのだ。

 しかし、次第にタイのスーパーに日本の紙製品が並ぶようになった。特に生理用品。これはタイ工場から直に回ってくるようになったのか、日本で買うより安かったので、帰国時に大量に買って帰る人がいたくらいだ。

 日本の製品は品質が良く安心感があった。当時のタイの地元の人にとっては特にそう感じられていたようだ。買い物客は日本人ばかりではなく、タイの人も多かった。私も、高くても欲しいと思うことはやはり、あった。

 先にフジ1の近くに100均があった、と書いたが、100均は、金額3倍なので今でいう「スリーコインズ」みたいな感覚だった。たしかダイソーだったと思う。一時帰国時に100均で買い溜めしてくるほうが経済的かもしれないが、やはり「今すぐ欲しい。特に子供の学用品」などと言う時は重宝した。

 フジ4は店舗も綺麗で大きかったので、日本のスーパーに最も近かった。そこにも良く行った。ただ、その周りには100均や本屋さんといったお店がなかったので、結局フジ1に一番通った気がする。

 フジでよく買っていて、タイらしかったなと思うのは、ベビーコーン(ヤングコーン)だ。それと「細いアスパラガス」。園児のころの子供のお弁当にはぴったりだったし、なにより食べやすかった。そして「ソムオー(ポメロ)」。夏ミカンのような果物だ。

 ソムオーは店頭に皮をむいて切り分けた状態で売られていて、パックを買って来てすぐ食べられるようになっていた。さすが南国、果物はメチャメチャ豊富だった。無いのはりんごくらいで、りんごはオーストラリアからの輸入が多かった。なかでもジャズと言うりんごが美味しかったが、今は日本でもジャズをよく見かけるようになり、懐かしい。

それ単体ではあまり味のないドラゴンフルーツはマナオ(ライム)を絞って食べると劇的に美味しくなる。スイカに塩をふる原理だ(私にはスイカに塩よりずっと美味しく感じられた)。

 タイのスイカはほぼハズレなく甘くて美味しいのだが、私はどういうわけかトイレが近くなってしまって困った。スイカジュースも美味しいのだが、外出先で綺麗なトイレに入れる確率が低い場合はとにかく避けた。

 日本も季節ごとにたくさんの果物が店頭に並ぶ。それはそれでタイでは食べられなかった果物だから嬉しいのだが、いかんせん、とにかく高い。フジの果物も、露天や市場に比べたら高かったのだろうが、それでも日本の果物よりは安かった。

 店頭に南国フルーツが山盛りのフジ1が、今とても懐かしい。その節は本当にお世話になりました。




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