見出し画像

竹の春

 Sさんとは、小学校の読み聞かせで知り合った。

 知り合った、と言っても、我々はグループに所属しているメンバー同士で、個人的にお話したことは幾度もない。

 Sさんは退職されてから、精力的にいろいろな活動をされている。映画の上映会を主催したり、朗読会を開いたり、趣味の作品を展覧会に出品したりなど本当に多才で多趣味な方だ。
 お孫さんが通っているということで、学校の読み聞かせの会にもいらしていた。男性の少ない会だったが、いつも周囲を楽しませようとしてくださっていた。

 その小学校の「読み聞かせの会」は、月に1度、朝のHRの前に担当するクラスに行き、読み聞かせをするという形式のものだった。
 自分の子供のクラスとは限らない。
 読み聞かせをした後は、会議室に集まって、その日読んだ絵本の話や、クラスや先生の様子などの情報を交換した。

 本好きなメンバーが集まっていることもあり、話が尽きない楽しい会だった。年に何度かは、近隣の図書館から人を招いて講座を開いたり、司書の先生を囲んで大人の本の話や映画の話などでも盛り上がった。

 Sさんは読み聞かせにもつねに工夫を凝らし、オリジナルのキャラクターを作ったり、そのキャラクターで作った紙芝居を読んだり。それだけではなく、キャラクターのグッズを作ったりしていらした。
 とにかくいつどんなときも、好奇心旺盛で、創意工夫に満ちていらっしゃる方だ。

 感染症流行が始まるころに息子が小学校を卒業したため、私はその会を卒業した。Sさんもほぼ同時に卒業された。

 卒業式間近なある日、小学校の近くの河原でお別れ会が開かれた。
 ある程度落ち着いたら、改めて集まりましょうねと話し合ったが、結局その後、感染症流行下のご時世が何年も続くこととなり、いまだそのような機会が訪れていない。

 我が家の息子がSさんの朗読や読み聞かせが大好きだったので(息子のクラスの担当になることも何度かあったため)、お別れ会でSさんにその話をした。そのままご縁が切れてしまうかと思ったが、ある時、Sさんと交流のある元読み聞かせメンバーから、Sさんがメールでブログや新聞のような記事を配信している、と聞いた。

 どんなものだろうと興味があり購読を申し込んだところ、その後毎月、「あじさい通信(仮名)」を私にも配信してくださることになった。

 Sさんは多方面にわたって様々な活動をされているので購読者はかなり多いと思われる。多くの方に向けて配信するのはなかなか骨の折れることだろうと思うが、毎月話題満載の「あじさい通信」が送られてくる。

 内容も、時事問題から風習や風俗への疑問、言葉の研究、季節の風物、地域の話題、映画のお話や上映会のことなど、とにかく豊富で飽きることがない。

 私はこの通信を毎月楽しみに拝読し、ご負担にならない程度にと思いつつ、相変わらず長い感想を、時々送っている。

 今回の「あじさい通信」には、なんとご自身で編集された動画がついていた。

 Sさんは、80代の私の父と同年輩。
 新しいものには尻込みする方も多いご年代ながら、慣れれば楽しいものですよと飄々とされている。

 そしてこの動画がもう、素晴らしく面白かった。

 小学校の会で知り合ったので、Sさんとは住んでいる地域が近いのだが、その地域にまつわる様々な情報がうまくまとめ上げられ、Sさんらしい気の利いたコメントがついている。

 思わず夫を呼んで、あれこれ盛り上がりながら鑑賞させていただいた。地元のケーブルテレビで放送すればいいのにとすら思った。ここでご紹介できないのが大変残念だ。

 また、今回の「あじさい通信」で、Sさんが話題のひとつとして取り上げていたものに「昭和のおやつ」があった。

 「竹の皮に包んだ梅干しを端からチューチュー吸うおやつ」。

  以前、もりおさんが話題にしていらしたおやつと同じものである(もりおさん、お断りなしに引用して大変申し訳ございません!)。

 これについては、記事が投稿されたころに父母と話になり、とてもタイムリーだったのでもりおさんにコメントを書かせていただいたことがある。コメントのやり取りが残っているので、ご興味のある方は覗いてみていただければと思う。

 Sさんの記事を読んで、すぐにもりおさんとのやり取りを思いだした。

 上に引用させていただいたもりおさんの記事を読むとわかるが、もりおさんご自身はそのおやつを食べる年代層とは年齢的に少しずれていらして、おやつとして食べたご経験はないという。

 もりおさんは地域性もあるであろうとおっしゃっていたが、こうしてみると、東北の両親も、関東のSさんも、もりおさんの記事にあった北海道のご友人も、みなさんこのおやつを食べ、また、今そのおやつを思い出していらっしゃることがわかり、とても興味深かった。

 Sさんは、「竹の春」というのが秋の季語だということから、こちらのおやつを思い出されたとのこと(このことも、Sさんの記事で初めて知った)。
 少し、Sさんの記事を引用させていただく。

若い方にはご存じないと思いますが、私の小さなころ、このシーズンにはタケノコの皮に梅干しを包み、おやつの代わりにしていました。
どんなオヤツかというと
◎まずタケノコの皮に熱湯をかけ皮を柔らかくします。
◎次に皮に生えている産毛を取ります(梅干しが馴染みやすくなる)
◎梅干しの果肉を竹の皮で包みます
◎竹の皮は赤みを増して、しんなりします
これを口の中でしゃぶると梅干しのしょっぱい成分がじわーっと出て口中に広がります。
贅沢なことを言っていられなかった頃のオヤツでした。懐かしいなあ。
読者の方には、同じ経験をされた方もおいでになったのではないでしょうか

Sさんの「あじさい通信(仮名)」から

 スーパーマーケットやコンビニにいけばあふれるほどのお菓子が置いてあるこの時代。チョコレートもアイスクリームもガムも飴もグミもないなんて信じられない今の時代の子供たち。

 竹の皮の中の梅干しを味わっていた幼い子供たちが、今の時代を作り、私たちを育んでくれたのだなと思う。

 改めて、親世代に感謝の念が湧いてきた、今回の「あじさい通信」だった。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?