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フランス語版ペアドク

 先日、何気なく「丸善」のホームページを観ていたら、こんな言葉に出会いました。

「ペアドク」。

 なんと、ふたりでペアになって同じ本を読んで話しあう「ペア読書」のことだとか。

 事前に読む必要はなく、同じ本を30分読み、そのなかで気になったことを適当にテーマにして語り合う、というもの。

 「積読」などは知っていましたが、「ペア読」なるものは、初めて知りました。

 イベントもやっているけれど、本と人間がふたりいれば、いつでもどこでもやれるようで、サイトの体験欄には「社内でやっている」などという人もいて、ちょっとした気分転換や脳の体操にぴったりのようです。コミュニケーションもとれて一石二鳥。

 こういうのを、すぐ「面白い」と思ってしまう私。

 きっとnoteの皆さんは既にご存じで、沢山の方がやっていらっしゃるのではないか、とあたりをつけ、検索してみましたら、やはり。

 いました、いました。
 結構な数の方が、ペア読にハマっていらっしゃいます。

 羨ましいなぁ。
 基本、バーバルコミュニケーションの苦手な私が、こんな「陽キャ」なことができるとは思われないのですが、でも憧れる。

 友達を誘ってもいいけど、そもそも我々の年代は忙しく、オンラインのお茶だってかなり前からスケジューリングする必要があるし、とにかく常日頃の話がたまりにたまってます。マシンガントークが炸裂するわけですが、それだって途中で

 ごめーん!生協来ちゃった。冷蔵庫入れたいから後でね!
 あっ、ちょっと雨!洗濯物取り込むわー

 「というわけで、じゃあねぇ~」と中断することは珍しくなく、そんなにのんびりゆっくり、本のことだけお話しするわけにはいかないのです。

 あれ?
 意外と、やろうと思ったら難しくない?

 思った以上にハードルが高いことに愕然。

 しかし。しかしですよ。

 どうもこれに近いことを、もうすでにやっている、ということに気づきました。

 今私は、お友達のRyokoさんからフランス語を習っています。

 などというと、本格的に勉強していると思われるかもしれませんが、少々、違います。

 当初は、一種のモニターでした。

 Ryokoさんがオンライン授業を始めるにあたって、テキスト作成や進行など、「初めてフランス語に触れる人」(の役)として気づいたことがあれば、ということで、試しに模擬授業を受けたのです。

 そうしているうちに「みらいさんにとってフランス語ってどんなもの?初めて受けるなら、どんな授業を受けてみたい?」という話になり、

「私は今現在、話せるための語学をやるのは少々厳しいと思う。フランス語というものにあまりにもなじみがなく、英語ほど聞き慣れてもいない。ただ、フランスの映画や文学は好きだし、かねてから、『星の王子さま』の朗読なら一度通しで聞いてみたいと思っている」

 と言ったところ、「朗読、いいですねぇ!私、朗読するの結構好きなんですよ」とRyokoさん。「じゃあ、フランス語を学習、なんて堅苦しいのではなく、朗読を聞いて、そこからフランス語の面白さを伝えるlessonなんてどうかしら」という話に。

 各国でトータル20年ほどフランス人コミュニティにいたRyokoさんとは長年のお付き合いですが、私とはずっと日本語で話していたので、彼女からフランス語を習う、というのはこれまで考えたことがありませんでした。
 でも、フランス語講師で忙しくされているRyokoさんとオンラインでお話するまたとない機会なので、おしゃべり時間の確保、というような気軽な気持ちで、試しにちょっとやってみましょうか、ということになりました。

 ところが、始めてみたらこれが、とても面白いのです。

 普通の語学レッスンとは違い、まずRyokoさんがパラグラムを朗読してくださって、その後、そこでRyokoさんが気になったフレーズや動詞、単語、フランスの習慣や言葉の変遷など、思いついたことを話しあうのですが、これがまさに「ペア読」。

 「フランス語版ペアドク」です。

 テキストはRyokoさんが写メで数ページ送ってくださり、私は日本語の訳本を持っています。最初はまず、Ryokoさんの朗読が、どこを読んでいるかを把握するだけ。
 私は文章の組み立てすら知らない状態ですから、センテンスの区切りに印をつけながら、Ryokoさんの朗読を耳と目で追います。

 そもそも『星の王子さま』は、日本で言えば芥川龍之介あたりの時代の本です。フランス語として古く、テキストとして相応しくありません。でも、Ryokoさんの解説や、そこから派生する話が楽しくて仕方がないのです。

R「petit bonhomme、って小さい男の子、って意味なんですけどね、なんて訳されてるんだろう?」
M「内藤あろうさんは、ぼっちゃん、って訳してるよ」
R「ぼっちゃん!へぇ、なんか古い文章にあってていいかも」
M「今は、使わないの?」
R「使う使う。ちょっとそこの子、みたいな感じでbohomme、って」
M「おじいちゃんとかしか使わないとか?」
R「そんなことないよ。今も普通に使う」

R「mille millesって、千マイル、って意味だけど、そうか、字で書くとわかるけど、発音はミルミルだね。すごく何回も出て来るけど、なんでかな」
M「文章の韻とかリズムを意識してるんじゃないかしら」
R「おー、そうかも。朗読して通読するのは初めてだから、気づかなかった」

R「このJe fis laのfis。動詞faireの過去形ですね。英語のdoって意味ですけど、今ぜんぜん、使わないんですよ。さすがに古すぎますね。文語で多く使われる過去形で、口語では使いませんね〜。現代はJ'ai fait、ですね。現在形だとje faisですが、この場合J'ai faitです」
M「へえ~、○○でござる。的な?」
R「ござる、まで古くないかな」
M「○○であります、とか?」
R「そうそう、そんな感じ!」
M「耳で聴く限り、ぜんぜん、違いがわからないですけどね」
R「アハハ、そうかも。でもフランス人は聞き逃さないよ。たぶん、この人古めかしい時代的な言い方してるって思う」

 ある意味シェイクスピアを題材に英語の授業を受けている感覚ですが、何しろ話の内容は知っているから、いろんな寄り道が楽しくて仕方がありません。内容には全く関係のない、フランスの美術館の話、カフェの話、乗り物の話、パリの話、田舎の話、子育ての話、男と女のラブゲームまで(←古)。笑

 先日は「遭難するなら、砂漠か海か、って言ったら、砂漠だな」、という話でふたりとも全会一致でした。海は嫌だよね、足がつかないところは嫌。

 『星の王子さま』も、改めて読むといろんな発見があり、Ryokoさんも「ああ、ここはこんな風に表現するのかぁ。面白いなぁ」とフランス語の達人ならではの感想をもたれているようです。

 Ryokoさんの授業は、基本は会話中心です。Ryokoさん、難解な文法もOKなのですが、オンライン授業では文法中心のlessonにはしていないと言っていました。

 会話慣れのためのブラッシュアップだったり。
 留学のために勉強中だったり。
 流暢なフランス語を忘れないようにするためだったり。
 本当に初心者さんだったり。
 相手の習熟度にあわせて、また、どんなことを目指しているのかをしっかりつかんでうまくlessonを組んでくださるので、この頃生徒さんが激増している模様です。

 でもこんな個性的な授業はみらいさんだけよ~、と、笑います。
 知り合い特典で、ちょっとワガママなlessonです。

 S'il vous plait. dessine-moi un mouton…
  お願い、羊の絵を描いて。

 Ryokoさんは、落ち着きのある、魅力的な声の持ち主です。
 朗読は絶品。王子さまの有名なこの言葉もとても可愛らしく読まれるので、何度も聞きたくなってしまいます。

 最初、Ryokoさんは「耳が慣れてきたら、少しずつ読める語が増えるよ」と言っていて「あら、この年でもそうかしら」なんて返事をしていたものの、実のところ、この年齢アラフィフで始めても、さすがに読めるようになりはしないだろうと思っていたのです(ごめん、Ryokoさん)。
 ところがどっこい、何度目かになると、見慣れてきた単語はどのように発音していたか、思い出せるようになってくるから不思議です。

 最初は単語やセンテンスをみつけるのも大変でしたが、今はRyokoさんがどこを読んでいるかわかるくらいにはなってきました。

 話したい、という気持ちになるまであと一歩かもしれません。

 そうしたら、ペアドクじゃなくて、会話lessonに昇格させてもらうかもしれません。

 長い長い道のりかも知れませんが、のんびり行きたいフランス語道。

 おお、こんな素敵な先生にフランス語が習えるんだ、と思ったあなた。

 Ryokoさんのnoteはこちらです。

 インスタもされています。日常よく使う便利な言い回しを選んで紹介してくださっています。ちなみにこちらはご出身の大阪弁で訳していることも多くて、中でもすごくウケたのがこれでした。👇

 フランス語1級で、通訳・翻訳にもチャレンジしているRyokoさん。
 勉強家で、頑張り屋で、でもそれを感じさせない気さくさ。
 いつも「いやいや、まだまだ沢山、勉強することはあるんですよ~」と朗らかに笑います。

 しかも、お料理の腕はプロ並み。
 学びたいことがお料理とリンクしていたら、カジュアルフレンチのプチレシピも教えてくれるかもしれません。

 能ある鷹は爪を隠すって、本当なんだなぁ、とRyokoさんの笑顔をみるたびに思います。

 
 
 



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