みらっちセレクション⑧ はたをらくに【極主夫道/おおのこうすけ】
ワタクシ現在、専業主婦です。仕事を辞めてあれこれあって、この先、外でお仕事ができるかちょっとわかりません。
いろいろと複雑な思いがありますが、読書ブログらしい参加ができたらと思い、チャレンジしてみることにします。
きょうび、専業主婦(主夫)の代表といったらこの方、『極主夫道』の不死身の龍さん。
アニメ化・ドラマ化もしています。伝説のヤ〇ザ、「不死身の龍(たつ)」。ヤ〇ザから足を洗って主夫になり、その道を極めていくストーリー……
と、思いきや、滅法笑えるギャグマンガです。龍さん、任侠の世界しか知らないので、どうしてもその世界をベースに物事をとらえてしまい、世間様とズレが生じてしまいます。そのズレを発端に事件が巻き起こるのですが、オチがないのがオチ、という感じの、毎回最後はどこかポカンと突き放されるところに独特な面白さがあります。
アニメは津田健次郎さんが声をやっていて、ハマり役。ドラマは玉木宏さん主演で、漫画・アニメの夫婦二人暮らしの設定から、子連れシングルマザーと結婚して連れ子がいる家族設定になっています。
この漫画、どこが一番魅力か、というと、自分の仕事に喜びと誇りを持っているところだと思います。そして主婦業を楽しんでいます。柴犬の可愛いエプロンにもこだわりと矜持があります。刃物や洗剤や調味料を使うという点で絶妙にリンクする任侠の世界と主婦の世界。
龍さんは、元々真面目なので真面目に組に尽くし、伝説を作るほどの大立ち回りをしていたのですが、ある出来事があって足を洗うことになります。その時、助けてくれたのが今の奥さんの久美さん。
自分を救ってくれた奥さんを大切にしながら、だからといって奥さんのためだけに働いているわけではありません。確かに元反社会的勢力の方ということで、普通に就職できない事情はあるのですが、家庭の仕事に精一杯の力を注ぎ、工夫を重ね、社会ともどんどん接点を持って、主婦友もたくさん作って、町内のことにも積極的に参加をしています。そして組としては解体してしまった元組長一家も堅気の世界に巻き込んで、いつしか、いろいろな場所で龍さんが「必要」とされていくようになっていきます。
龍さんはよく、自転車で奥さんにお弁当を届けるときや、買い物に向かう途中に警察官に職務質問されるのですが、「何してるの」「どこ行くの」「職業は?」という質問に
専業主婦(主夫)です。
と堂々と言うのが爽快です。その後、警察官にスーパーのお得クーポンをあげたりしています。
専業主婦(主夫)にとっては、これは本当に「よくぞ言ってくれた龍さん」と思う台詞。
というのも、漫画の世界ではそんな風に多様なはたらき方や生き方を楽しむことができても、おおかたの専業主婦(主夫)は、こんなに胸を張って「自分は専業主婦(主夫)だ」と言えないからです。
実際「専業主婦(主夫)はチート(ズル)」だと思っている人が少なくないのではないでしょうか。少なくとも専業主婦(主夫)の多くは、何かしらのそういったバッシングにはあっているので、肩身が狭い思いを抱いています。私自身も、無邪気に、あるいは多少の嫌味をもって、いろんなことを言われてきました。
そんなわけで私は「お仕事は?」と聞かれたら「あ、今はしてないんです」と答えます。
今は、たまたましていないだけということを強調してしまいます。
それは事実ではあるのですが、実際に就職活動をしていてもいなくても、やはり「機会があれば外で働きたいアピール」をします。
どうやら世間様には「専業主婦は外で仕事をする能力がない人・怠け者がやる恥ずかしいことで、人前で言うことが憚(はばから)れること」というイメージがあるようです。
自分の親が専業主婦だと、バカにする子供もいると言います。
春は、新しい出会いの季節。
「お仕事は?」のやり取りが行われやすい魔の季節…
とにかく龍さんのように、堂々と専業主婦とは言えません。
もちろん、自分が不器用で、誇るに足る主婦としての仕事を全うしてない、ということもあると思いますが、それだけではない「ひけめ」があります。
冷静に考えてみましょう。
「専業」の何が、ズルいイメージを作り出しているのか、というと。
つまりは、「人の収入で家にいるのは楽をしているから悪」という思いが、人々の意識の中に(専業主婦・主夫本人にも)あるんじゃないかなぁと思うのです。
龍さんなら、
主夫舐めとったらあかんぞ
といって庇って(すごんで?)くれるのですが、この世は今、「お金を稼がぬ者食うべからず」至上主義の時代。
機会均等法以来、女性が社会に進出するのに伴って、専業主婦は蔑まれてきました。
世代が下になればなるほど、専業主婦(主夫)に罪悪感を感じる人が多いという調査もあるようです。
かつて「主婦」は、職業欄に「無職」と書かなければなりませんでした。
それでも昭和の前半くらいまでは、働く場所の少ない女性たちの「永久就職先」として「結婚して家庭に入る」という選択肢は輝いていました。同じ職場で結婚もせず働くと「オールドミス」とか「お局様」と言われてしまいますから、たとえ就職したとしても結婚したら退職し、家庭に入るのがスタンダードな生き方とされていました。
当時「専業主婦」は憧れであり、当り前でした。ですからこの世代の女性に「専業主婦」が蔑称だという意識はないと思います。
しかし時代は変わって現在は共稼ぎが主流です。一時期は「主婦(主夫)の仕事はシャドウワーク。マルチタスクで大変な業務。報酬換算すればかなりの金額になる」という意見が聞かれたこともありますが、最近は、自分の一生の仕事を全うしたいという女性たちが生涯働くことができる職場や、パートタイムなどでも働く職場が沢山あり、そういう話もとんと聞かなくなりました。
共稼ぎは、ダブルインカムによって生活も安定しますし、余暇も楽しむことができます。一方に問題が起こっても、もう一方の収入で生活を立て直すこともでき、セーフネットとしての機能もあります。共稼ぎを選ばない理由がない、と思うのは最もなご意見。
かつて昭和前半世代の「夢はお嫁さん」には「長男に嫁いだら産んだ子供は家の子、生涯姑に仕え、面倒をみるのは当然」という側面もあったでしょうが、現在の専業主婦のイメージはこんな感じ。
うん。わかります。そういうイメージ持たれるの、わかります。
わかりますけど、この世界にあるあらゆる仕事に対して、外側から「楽そう」と思うのは、自分の勝手な基準でしか物事を推し量れない、あまり想像力が無いということなんじゃないか、と思います。
どんな仕事にもいい面・悪い面があり、大変と感じる人と、感じない人がいます。
確かに専業で主婦(主夫)ができる、ということは、ある程度食べていける収入を一方から得られているから、というのは確かですし、それは言ってみれば「幸運」なのだと思います。
世の中には、挫折し、夢破れ、意に染まない仕事を生活のために何十年もしている人もいます。外で働けない理由があり家の仕事をする人も、おおぜいいます。働くということには、様々な形があります。
想像力を持ってほしい、と願います。
プリーズ、イマジン。
Imagine all the people
Living for today...
育児や看病や介護をしていたり。
家族の転勤の繰り返しで職につけなかったり。
転職や退職、起業でも職歴に空白ができることがあります。
資格取得の勉強や、夢のために活動している人もいるし、
様々な事情で仕事をやめざるをえなかったり、
就職活動してもうまくいかなかったり、
病気と闘っている人もいます。
不死身の龍さんのように、過去のある人も。
家庭にはそれぞれ、固有の事情が存在します。
専業主婦(主夫)も、家族の中で話し合い、可能な形態を最適化した末に選んでいる「はたらき方」のひとつだと思うのです。
一日中ゲームをしている、とか、具合も悪くないのに昼夜なく寝ている、ということであれば確かにそれは「怠け者」かもしれません。会社に所属していても、営業先に行かずスマホゲームをしている人もいるかもしれないので、怠け者はどんな仕事についていようが一緒です。
少し前、ドラマ『家売るオンナ』に「白洲美加」というキャラクターがいました。とにかく仕事しない、できない、やりたくない。結婚してからも、家のことや子供の世話を全部実母にやらせて、自分は仕事中にサブスクで映画みたりお茶したりしてサボりまくる。そんなアクの強い女性をイモトアヤコさんが好演していました。
「怠け者」というのは「個人の性質」であって、=専業主婦ではないはず。現に、白洲美加は、独身の時も結婚しても離婚しても再婚しても「楽をしたい」という姿勢はずっと同じでした。
「家の仕事」はキリのない永久に永遠に続く無限ループ作業の連続で、探せばいくらでもやることがあります。生活というのは、細かなそういう現実が積み重なって出来ています。共稼ぎの方々であっても、どちらかが分担してやらないと、生活が回らなくなってしまう「家の仕事」は存在します。
様々なタスクを配分し、時間をやりくりし、自分や家族のスケジュールを適切に管理する。
これらを超絶技巧でやっている方やアピール力に長けている方、はたまたその上に特技を活かせる方は「カリスマ主婦」などと呼ばれて一躍有名になったりもします。
バランスよく上手にやっている方も多いと思いますが、うまくできなくて自己嫌悪に陥る人もいて(それは私)…、表に見えづらくバラエティに富んでいるのが主婦(主夫)の仕事の内情です。
専業主婦(主夫)がいいとか悪いとか、そんなことを言っているのではありません。
少しだけ立ち止まって「自分とは違う働き方だけど、この人もこの人なりの働き方で働いている」ということに想像を巡らせることができれば、「外でお金を稼がない=人間失格」という短絡には陥らなくて済むのでは…と思います。
確かに外で働くかたと比べて、専業主婦(主夫)には、趣味に没頭したり出かけたりする自由時間が多いかもしれません。
でも、これも人それぞれです。
自由というものは本来、責任が伴う、孤独でキツいものでもあると、私は思います。
専業主婦(主夫)は、当然ですが、組織に所属したり、特定の職種のキャリアの積み重ねを得ることはできません。
昇進もなければキャリアアップもない。
〇年これをしてきた、といえる「なにもの」もありません。
そんな華々しい女性の活躍を横目に、幼い子供や年老いた親と向き合いながら、ときにはPTAで役員をしたり、ときにはそれすらも辞退せざるを得ない暮らしが、淡々と続きます。
実際、現代のおおかたの専業主婦(主夫)は、一度は何かしらの仕事に就いたことがあるはず。就業して収入を得ることの厳しさも有難さも知っている人がほとんどです。
何より専業主婦(主夫)である本人が、自分の収入がないことに苦痛や恥を感じ、自分を責めたり孤独に耐えているかもしれません。
必ずしも肩を持って擁護しようというのではありません。
そう言われても仕方のないほど遊び惚けている人もいるかもしれませんから。
ただ、十把一絡げにそう言ってしまいたくなるのを、少しだけ我慢してほしい、と思うのです。
人として半人前な自分が偉そうに言うことではないのは重々わかっておりますが、はたらく、ということは「はた(傍)」を「らく(楽)」にすることであって、自分が楽することではないんじゃないかなと思います。
しかし「はた」が「らく」になれば、おのずと自分も楽に、楽しくなることもあるのではないか、と思ったりもするのです。
専業主婦(主夫)も「はた」を「らく」にする仕事のひとつなんじゃないかな、なんて……笑いながら『極主夫道』を読むたびに、そんなことを考えている今日この頃なのでございます。