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京都独特の華と奥深さについて

こんばんは。

事の発端は昨日、Twitterで「河原町界隈」というワードがトレンド入りしていたことなのですが、京都で暮らしていた時のことをふと思い出したので少し書きたいと思います。エッセイ的な。


私は2016年から2017年にかけて、半年ほど京都の料亭で働いていました。
当時は本当にいろいろな客層の方がお見えで、修学旅行生や海外の旅行客の方だけでなく法事や宴会、結婚式など繁盛していました。コロナウイルスが流行してから客足が途絶えたようでひっそりと知らぬ間に閉業していたようです。

お店の評判は今もネットで多く見ることができますので詳しくは書きません。
今回はその当時の思い出話と、京都独特の華と奥深さの話をしたいと思います。

私は京都には7年ほど住んでいました。出身は京都府ではありませんでしたが、京都は遠縁の親戚が住んでいたり昔から馴染みの深い場所だったため、私自身は比較的すんなりと京都の街に馴染めたように思います。
住み始めたおうちのご近所に地元の近い方がいらっしゃったり、何かとご縁のある方が多くいらしたのも有難い話でした。


初めてアルバイトをしたお店がその料亭でした。お遊びはなく、一見さんお断りでもなかったです。

やはり“京都”のネームブランドは底知れず、古都の悠久の歴史を感じさせる佇まいに惹かれてお店を訪れる方は多かったように思います。いわゆる“一見さん”と呼ばれる方々ですね。
一方、長いお付き合いのお客様や花街の方々など京都の奥深さをよくご存知の方も多くお見えになったお店でした。


社長さんも女将さんも本当に良くしてくれたと思います。一緒に働いていた方々も皆様可愛がってくださいました。初めてのお仕事で右も左も分からず要領の悪すぎる私のことですから、内心どのように思われていたか分からないですが。


お客様の中には大層お酒をお飲みになり、酔って「ねぇちゃん可愛いねぇ」と声をかけてくださる方もいらっしゃいました。僅かばかりのボディタッチもありました。
私はうまく流せるほど大人ではなかったので、いちいち気に病んでいました。それもまた京都だから仕方がないと思いました。居酒屋で働くと絡まれることもよくある話だとは思いますが、当時未成年の箱入り娘だった私にはどうして良いか分からず、よく分からない理由をつけて割り切るしかありませんでした。

ある日、芸妓さんがお見えになるイベントがありました。
私も中学生の時に日本舞踊を少しだけ習っていましたが、芸妓さんはほんまにすごいのです。私が接客できるようなお客様はその場に一人もいませんでした。

ある日の夜、お偉い様方がお見えになってお食事会をされました。私は誤ってお造りのお醤油をある方のスーツにこぼしてしまいました。


その時、何かが私の中でプツンと切れてしまいました。気がついたら社長に「辞めさせてください」と言っていました。

自分のやってしまったことが本当に情けなくて、いろいろ教えてくださった方に「気にしたらダメよ」と言っていただいても救いようのないくらい落ち込んでいました。

結局そのお仕事は逃げるように辞めました。


私は当時自尊心がほぼない子だったので、周囲がきっと自分の陰口を言っているに違いないと半分信じきっていました。
でもそうではなくて、京都の方は、特に長年京都に住んでいらっしゃる方ほど状況を読んで上手く立ち回れる方が多いんです。だから、自分の弱みを自分自身で受け入れ、逆に強みにしてしまうくらいのしたたかさを皆さん持っていらっしゃって、周りの皆様がお互いの良いところを活かしながら働いている職場でした。当時の私にはその強さがなかったので、誰もが距離を置かざるを得ない人だったと想像します。


京都に何年か暮らした中で、特にコロナウイルスが流行った時、本音と建前をうまく使って強かにしなやかに街を守り抜いてきた京都の皆様の底力を見たように思いました。
コロナ禍を乗り越え、再び国内外から多く観光客を受け入れ続けている京都の華々しさの裏には、1000年以上続く都を守り抜いてきた京都の人たちの生き様があります。その生き様が、いろいろな身分や立場の人同士、関係の善し悪しはあれど長年うまく同じ空間に共存してきた京都独特の奥深さを形作っているように思います。

今回改めて話題になっていた鴨川の河川敷に対する京都の人たちのイメージが、その独特の空気感を思い出させてくれました。

私が今なお京都のあの独特の空気感を思い出し、時に恋しくなるのは、きっとその京都特有の、人との関わりを“良くも悪くも”切らさないコミュニティが関東では希薄だからだろうと思います。たとえ直接関わりはなくとも、口には出さずとも他人の目をそれなりに気にして生きている空間。鴨川だけは異質で、個々人が好きなことをやっている空間ですが、それでもテリトリーがきちんと分かれている。

関東に引っ越してきてから2年目になりますが、その程よい距離感が時折懐かしいのです。

この話はこの辺で。


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