Mio

絵を描いたり、文章を綴ったり。夫とふたり、巴里暮らし。

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最近の記事

フランス的な。あまりにフランス的な…

〈あなた、きれいだわ。笑うと、特に素敵〉  平日16時、スーパーのレジ。私の前に並んでいた、インテリ風お洒落のちょっといかしたお姉さま(年の頃、50歳ちょっとと見た)が、つぶやいた。〈あら、そんな…。メルシ、マダム〉  いわれたレジのお姉ちゃんはくすぐったそうに肩をすくめ、にんまり。そりゃ、そうだ。〈きれいよ、素敵よ〉唐突にそんな言葉をかけられて、うれしくない女なんていない。しかも゛同性に゛だもん。口説き目的でもなんでもない(確率的には低い)、純粋な誉めことば、そう思うじゃな

    • 詩と秋と掘り炬燵、恋の夢

       久しぶりに神戸の夢を見た。  むかし、職場で知り合ったおじさま、Kさんが登場する夢だった。痩せてひょろりと背が高く、雨の日も風の日も、冬も春も―、紙切れみたいに薄い黒コートをひょいと引っかけ、ひとり飄々と歩いていたKさん。「月夜の電信柱」、見ていると宮沢賢治のお話を思い出した。細い声でぼそぼそ喋り、時折こそっと冗談を交えるKさんは、学生時代からずっと詩を書いていて、数年に一度、自費で詩集を出していた。一度、私もその表紙絵を描かせてもらったことがある。 ” 遠い空から降っ

      • 祝福

         焦らすようにゆっくり、少しずつ。  コンコルド広場からピンクのトラックがやって来る。  ーぼぉおん、ぼぉん!  時折、大きなホーンを鳴らして。周りにはレインボーの旗を纏って歌い、踊る人びと。ほぼほぼ裸だったり、パンクだったり、ドラッグクィーンだったり!あふれる色、スタイル、混沌、氾濫、そしてミックス!見上げるとパステルブルーの空に、綿あめみたいな雲がふわりふわり。 「うん? きらきらしてる、あれは…?」  銀色の紙吹雪が夏の日差しに煌めいて、宙を舞っている。ゆらりゆらり、そ

        • +4

          名画シリーズ

        フランス的な。あまりにフランス的な…

          どうして僕らは生きてるの

          どうして僕らは生きてるの

          結婚指輪

          ジジッ、ジジジ… 薬指の上で電動針が踊っています。 「猫にひっかかれるのと同じだよ」 彫師のお兄さんはそう微笑みましたが、いえいえいえ。 猫のそれがヒリヒリなら、こちらはジンジンとでもいいましょうか。 それでも思ったよりずっと痛くありません。 なのに、じっとりとからだが熱い。 指の上を這うバイブレーション、電動針の機械音に 私はすっかり怖気づいています。 「大丈夫、すぐに終わるよ。」 ロランが私の右手を握っています。 そもそも結婚指輪をタトゥーにしようと

          結婚指輪

          吸血鬼たちの午後

          「150年後には、パリも海の下に沈むらしいよ。」  あちらにも、こちらにも。まばゆい陽射しをいたるところに、ピンで留めたような午後だった。樹も人も黒々とした影を引きずり、じっと暑さに耐えている。  パリだけじゃない。ロンドンだって、街中に大きな川がある都市は、温暖化による海面上昇でみんな沈むという。 「まぁ、その頃にはもう、僕らはこの世にいないけどね」 「さぁ、それはどうかな。吸血鬼にでもなって、案外、まだこの世を彷徨ってたりして…!」  いいながら、好きだった映画「オン

          吸血鬼たちの午後

          逃避行者の恋

          “ 旅する女はみな逃避行者である ”  深夜、ベッドで広げた本に、そんな言葉を見つけてドキリとする。    2015年の秋、私は逃避行者になった。41歳だった。  正確には、逃げ出すほどの現実すら持たない、実に身軽な〈エセ・逃避行者〉だった。  パートナー、家庭、子供。何かしらのまとまった経験値と(キャリアと呼んでもいい)、それに伴う自信や能力、責任。あるいは夢、目標、何かしらの帰属意識。人生という海原に、私たちをしかとつなぎ留めてくれるもの。時にはふわり、解き放ちたくもなる

          逃避行者の恋