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20代が終わる。

何カ月も前からそればかり考えていて、「これは20代のうちにやっておこう」だの、「20代最後の記念にこれをやろう」だの、頭のなかもスケジュールもなんだか忙しい。

今日は20代最後の一日。妙に感慨深くて、変にそわそわして、やるべきことはたくさんあるはずなのになかなか手につかないのだった。

なぜだろう、10代が終わるときはこんなにいろいろ感じなかった気がする。当時は二十歳が成人年齢だったし、「おとなになる」感で言ったらそちらのほうが大きな節目だったと思うのだけれど。

わたしは30歳になるのが、本当に嫌だった。

こんな「THE 女性あるある」みたいな話、いまさらどう表現してもおもしろくならないとは思うけど、やっぱり20代という若さを失うのがすごく怖かった。

いまの自分が「若いのにすごいね」と言ってもらえているようなことは、30代になれば見向きもされない普通のことに成り下がるだろうと思ったし、いまの自分がまだできていないようなことは、30代になれば「まだやってないの?」と低評価につながることばかりの気がした。

わたしは早くに王道の会社員ルートをはずれて一人で働くようになったし、同じ仕事をしている人は日本に二人といないし、そもそも人と比べる習慣ももっていない。そんなわたしでも、世間で「女性は20代にこれを終えられるのが理想」とされているものを完全に無視することはできなかった。大学卒業、就職、恋愛、結婚、出産。本当はこれらすべてを29歳までにこなしたいと思っていた。後半2つは結局間に合わなかったけれど。

27〜28歳のころがいちばんしんどかったな、といまになって思う。こうしたすべてを、まだ間に合わせられる可能性が存在していた。20代のうちに出産までするなら、27歳で付き合いはじめて、28歳で結婚して、29歳で出産が最終デッドライン。結婚まででいいなら、28歳で付き合いはじめて、29歳で結婚が最終。そんな逆算を、毎日のように頭のなかでくり返していた。「自分は結婚できるのだろうか」って毎日10回くらいは考えていた。それを考えるとき、わたしはずっとずっと憂鬱だった。

29歳になると、いままでみたいな焦りや悶々とした気持ちはほとんどなくなった。あきらめがついたのだと思う。いま付き合っている人と上手くいったとして、ぎりぎり29歳の終わりに結婚するか30歳早々くらいに結婚するかが標準的なペースだろう、まあこの人とこれから先も一緒に生きていくなら、べつにどっちでも同じかな。そんなふうに思えるようになった。

わたしは子どものころから名を成したい欲が強かったから、一刻も早く世に出たいと思っていた。結婚や出産の焦りで20代がしんどかったと書いたけれど、思い返せば10代のころの焦りのほうがもっとずっと燃えるようにしんどかった。ギラギラしていたのだと思う。10代特有の万能感と焦燥感、自己愛と自己嫌悪にずっと灼かれていた。

本当は、そのギラギラの焦りはいまだって強く燃えている。結婚だの出産だのに課題意識を感じはじめたのは20歳を過ぎてからのことだが、「まだ自分は名を成せていない」という焦燥感は10歳そこそこからずっとあるのだ。かれこれ20年くらい付き合っていることになるそのギラギラは、いまも毎日心に大きく陣取っている。


だけど、30歳になる。

10代や20代で華麗に叶えてみせたかったこと、まだ全然できていないけど、わたしは30代になる。

それもそれでいいんじゃないの、とわたしは自分に向かってつぶやく。だめだったからあきらめて受け容れる、のではなくて、それもそれで素敵かもしれない、って感じてる。


28歳の夏、わたしはすごく病んでいた。

当時同棲していた相手との、結婚の可能性がなくなったころだった。すれ違いつづけた生活はどうにもならなくて、大切な人から大切にされないということはこんなにしんどいことなのかと毎日のように泣いていて、最終的にはわたし自身が決めたことだった。

生きるのが好きだったし、死にたいと思ったことが人生で一度もなかったし、仕事のやりがいも家族や友人からの愛情もちゃんと感じていた。それなのに、いま結婚や子育てができないなら、わたしはこの先なんのために生きていったらいいんだろう、とわからなくなった。もうどうでもいいな、と思うことが増えた。

一生結婚や子育てができないと決まったわけでもないし、そもそもそれらができなかったとしても幸せに暮らす方法はあるだろうし、どうして自分がそんなに落ち込んでいるのかはじめはわからなかった。だけど、いろいろな棚卸しをしてわかった。わたしはちょうど当時、仕事において「とりあえず20代でこれくらいのことをできたらいいな」と思っていたことがほとんど叶ってしまったのだった。それはすごくありがたいことだった。だけどそれは、仕事をする者としてのわたしを燃え尽きさせ、わたしの執着を仕事からプライベートに移動させることになった。仕事のとりあえずの目標は達成できたから、次はプライベートの結婚・子育ての目標に取り掛かろう。よくも悪くも目標達成思考の強かったわたしは、知らないうちにそんなふうに思考をシフトしてしまっていた。

それに気づいて、仕事のほうで新たな目標を探すようにしてからはすぐに元気になった。親に同棲解消の話をしたら、「そもそもあなたは結婚ができる器になっていたのか」と訊かれた。たしかに、わたしにはまだその器はないと思った。それまでは彼との縁がなかったことや彼の言動に対して絶望していたのが、そう思ったら相手が誰であれいまじゃなかったんだと思えるようになった。結婚や子育てはまた機が熟したらそのときに、と思った。


そう、わたしはこのまま30歳になっていい。だって、やりたかったことを叶えすぎると燃え尽きてしまう性分なのだ。やり残したことがまだたくさんあって、だからきっと30代はまだまだたくさん楽しい。「20代までにできなかったこと」だけじゃなくて、「30代になったらやりたいこと」だっていろいろあるのだ。

明日から、きっとまた忙しい10年が始まる。

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