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「私は人類の未来に希望を持っています」という言葉を思う

3月10日は東京空襲があった日。
東京は10万人以上の人が亡くなり、街は焦土と化した。
そして今もまた爆撃されている都市がある。
今まで第二次世界大戦後も世界のどこかでは爆撃がなされ、戦争が起きていた。

人類というのは進化しないものなのだな。
と思い、学生時代に恩師が言っていた言葉、今も私が大切に思っている言葉を書いておきたくなった。

私は学生時代は哲学を専攻していた。
恩師は当時フランスの哲学者辞典に載っている唯一の日本人哲学者なのだと弟子である講師が嬉しそうに教えてくれたことがあった。
恩師の元ではプラトンやアリストテレスから古典ギリシア語(もうほぼ何も覚えていない)、レヴィナスまでさまざまな哲学について学んだ。
今思うとなんと贅沢な時間だったのだろう。


ゼミに入るための面接があって、古めかしい校舎の赤い絨毯の上を緊張しながら歩き重厚なドアをノックして中に入ると本に囲まれた老哲学者がいた。
面接では好きな本を聞かれるとのことだったので、まともな哲学書を読んだこともないし、小説も先生が知っているようなものは大して読んでいないし、どうしようかと20歳の浅知恵で選んだのは、フランクルの『夜と霧』だった。
亡き祖母の書棚にあってなじみ深い気がしていたし、感銘も受けたのでこれなら質問されても大丈夫だろうと無い知恵を絞ったのだ。


先生の目の前に座り、たぶんどうして哲学をやりたいのかということなどを聞かれたのだと思う。
そして好きな本を聞かれ答えると、先生は目を輝かせて言った。
「フランクルですか!彼と私は古い友人なんですよ。彼はとても絵が上手くてね、こう…軽くさらさらっと描くんですよ。いつだったか国際会議の時に発言している私の顔をコースターに描いてくれたのがあるんですよ。お見せしましょうね」と言って立ち上がり、それを持ってきてくれた。フランクル博士の絵は本当に見事で先生のお人柄まで見えるようなものだった。


けっきょく、夜と霧について何も分かってないであろう小娘に対して内容を問うようなことや感想を聞くことはせず、フランクルについての先生のお話を聞いて無事に面接は終わった。
『夜と霧』は名著と言われているし、フランクルは自分にとっては当然遠い人だけれども、その人が急に近しい人になったような不思議な錯覚にとらわれて緊張しつつも嬉しいような心持になった。
なんだか夢のような時間だったなあと何十年も経った今も思い返すことがある。

そして、その頃もそれ以前も世界のどこかで戦争は起きていた。
あるときに、先生がおっしゃった言葉がある。

「大昔は人類は親兄弟と殺し合っていました。時代が進むと同じ民族で殺し合うようになりました。さらに進むと違う民族同士で争うようになりました。そう考えると、いつか人類は同じ種で戦うようなことはしなくなる日が来るのではないかと思うのです。私は人類の未来に希望を持っているのですよ」と。

今もまだ戦争は起きているけれど、人類に希望を持ちたいと思う。
フランクルもあの状況の中で希望を持ち、多くの人に希望を与えた人だった…と思いつつ。


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