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14時46分。

14時46分。
銀座和光の鐘が鳴りました。


私はそのとき
近くの鳩居堂というお店にいて
店員さんのこんな会話を聞いていました。


「あれ、この鐘、3.11の?」
「そうじゃない?そんな時間よ」



仕事用に履くパンプスを買いに
銀座に来て、
ついでに
何も買わなくて貯めていた
クリスマスと誕生日プレゼントの予算を
合算して
ネックレスを買いました。

∞のデザインが可愛い。



銀座に来たからには
大好物の
和栗のモンブランを食べて、

定期的に食べないと中毒症状が出ます。


頂いたのは銀座みゆき館。
内装も素敵です。


何年も変えていなくて
ボロボロになってしまった
化粧ポーチを買いかえたり、
お友だちに配る
プチギフトを選んだりして。

鮮やかなお花模様に惚れました。


随分とお金を使ったな。

贅沢だ、私。

だけど、学期中は
好きなものを買う暇なんてないから
たまにはいいかな。



平日でも混んでいる
信号待ちの、
横断歩道の向こう側から
視線を感じて目をやったら、


男の人がジロジロと
私を見ていました。


遠目からでも分かる質の良い、
デザイン性のあるスーツ。
真っ黒のオールバックの髪。


顔に見覚えがありました。


ああ、あの人は
私の初めてお付き合いした
元恋人かもしれない。


7つ年上の
好きで好きで
頭がおかしくなりそうで、

中2病みたいな気持ち悪い
ラブレターを渡して、

お付き合いしてもらった
私の大学生時代の
元恋人。


彼の職場は
同じ中央区にあるから
銀座にいても
おかしくない。

歳の割には
随分と洗練されているけれど、
彼は昔からそうだった。


仕事が出来て
大企業に勤めている
将来有望の若手で
裕福な故にセンスがあった。


信号が赤のままのあいだ、
私たちはお互い
じっと見つめ合っていた、と
思います。

上顎を上げて
瞳だけ上から
見下ろしてくる癖は
彼と酷似していました。


でも、どうかな。
もう随分と前のことだから
本人かどうか分からない。


私の方から
視線を逸らして
彼の横を通り過ぎました。


私たちはいつも
そうだった。

どちらも臆病で自信がなくて
どちらも

「自分は誰からも
 愛される人間じゃない」

と思っていた。


静かで上品で真面目。
低い声で落ち着いて話す
少し冷たそうに見える割に
自信がない彼は
当時、私の好みにぴったりだった。


本当に大事に
想っていたのに、
好きすぎて何も
大切なことを
伝えられなかった。


銀座の街によく溶け込んでいた
彼かもしれない人を
思い出して、

私のダンナに
思いを巡らせました。


随分と
おじさんになっちゃったな。
そしてそれは多分
私のせいだ。


子育てにいっぱいいっぱいで
気を回せなかったし、
身につけるものに
気に障らない感じで
アドバイスしたり
出来なかった。


きっとコミュニケーションも
足りていないんだと思う。


14時46分。


たくさんの方が
大変なことになったのに、
あの時は私
少額の寄付をした程度の他は
何も出来なかった。



鐘を聞いたら涙が出て
出口に向かったら

「お客様、商品をお忘れです!」

って、
呼び止められちゃった。



この日本で生きているなら
いつ、どこで
またこんな事態に
遭ってもおかしくない。


それならせめて
日々を丁寧に生きよう。


当たり前にそばに
いてくれる人を
もっと大切にしよう。


あの彼に何も
伝えられなかったことで
した後悔を、
もうしないように。


優しい人の背中に
のしかからないように。


自分も大切にして
たまにはこんな
今日みたいな買い物もする。


それが正しいのかどうか
分からないけれど
せめて、
後悔のないように生きよう。

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