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【読書】「もとの水にあらず」か「沈まず」か。

切ないなあ。


3人があとほんの少しだけ
遅く産まれていたら
或いは、こうはならなかったのに。


物語の重要な局面が
史実に基づいているからこそ
またやるせない。


涙が溢れて止まらない本でした。



この本を読みました。

「たゆたえども沈まず」原田マハ著


浮世絵を敬愛する画家
フィンセント・ヴァン・ゴッホと
彼を金銭面で生涯に渡って支え続けた
弟のテオドール・ヴァン・ゴッホ、

美術商の林忠正と、
それから架空の彼の後輩
4人の物語。


ゴッホ兄弟も切ないけれど、
この実在した美術商の
林忠正を調べると
やるせなさで苦しくなる。

日本美術の真の良さを広めるために
奔走した人が、
それが広まるやその良さに
かつて見向きもしなかった大衆から
国賊呼ばわりされる。


こういう、時流に乗って
浅い考えで正義の名のもとに
誰かを傷つける人々を知ると
ドキリとする。


嫌悪感を抱く反面、
自分もよく考えもせずに
メディアやらどこかから小耳にした
一部の情報だけで
判断し、傷を負わせる側に
いるのかもしれないって。



私はラッシュの時間帯の
通勤電車に乗ります。


この時間帯に、
最寄駅の階段に
座っている若い女の子がいます。

階段に荷物を降ろして
膝をばーんと広げ、
毎回、スマホを見ている。


駅は混雑しているのに邪魔だなぁ。
マナーがなっていない、と
毎回思っていました。


あるとき、彼女の大きなリュックに
かかっているタグが
チラリと見えました。

それは赤地に白で
十字とハートの
ヘルプマークでした。


途端に後悔しました。

どうしてこうも考えが
浅はかなんだろうって。


ヘルプマークをつけているから
良いってことじゃないけれど、

こうやって浅慮なことで
知らずに人を
傷つけているのかもしれない。



話を戻します。


美術商である林さんの
夢とコレクションは
彼の死後、散財してしまった。


3人とも必死に生きても
日の目を見ることなく
この世を去る。


この街をセーヌが流れている。
その流れは、決して止まることはない。
どんなに苦しいことがあっても、もがいても、
あがいても......この川に捨てれば、全部、
流されていく。
そうして、空っぽになった自分は、
この川に浮かぶ舟になればいい。(中略)
たゆたいはしても、決して流されることなく、沈むこともない。......そんな舟に。

「たゆたえども沈まず」原田マハ より抜粋


この本のテーマである
「たゆたえども沈まず」は
随所に出て来ます。


川に人生観を重ねるのは
日本と同じですが、
思考が違いますね。

ゆく河のながれは絶えずして、しかも、
もとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、
かつ消えかつ結びて、
久しくとどまりたる例なし。

「方丈記」鴨長明 より抜粋


こちらの思考は無常観です。
とどまらない。
そんなためしがない。

それに対して
「たゆたえども沈まず」は
沈まない。
逆境にも負けず奮闘する
心意気が窺えます。

ゴッホと弟のテオドール、
林忠正は
生前には報われなかったかも
しれませんが、

長い目で見たら
その人生は
「たゆたえども沈まず」
なのかもしれませんね。


こんな後の時代になっても
その名は、作品は
評価されている。



多様性が叫ばれる時代になって、
それでもなお
マイノリティとして苦しんでいる人は
少なくないと思います。


だからこそ、
新しい時代の狭間を生き抜いた
彼ら3人に思いを馳せるのは
今の時代に合っているのでしょうね。


原田マハさん。

今回もお見事でした。

泣きすぎて目が痛いけどね。


special thanks to  knkさん✨

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