0994.なんでこんなにすばらしいことをみんな、毎日してるのに、特別には幸せそうじゃないの?


激動と激務の人生を送るハチ(旦那さん)、帰宅。

きのうはちゃんと心療内科にいって、睡眠導入剤を処方してもらってきたとのことで、「えらかったねヨシヨシ」してあげる。アラフォーの男性(年下なんで)にもときにはヨシヨシが必要なのである。
ときにはっていうか、けっこうな頻度で必要よな。

男性たちは男性たちで、殺伐とした厳しい世界で戦っている面はあるのだし(そういうとこでこその”生きてる実感”を得られるメリットもあるし)。

最近のハチは、はぁ~。と突っ伏していたりとか、色黒なのにさらに目立つクマが目の下に出来ていて痛々しい限りなんだけれど、ふと、

「このひとの、こんなに弱った姿を見られるのって世界でわたしだけなんだな」

と思ったら、意味不明にも「ありがてえな」という気持ちになった。

たとえば彼が子どもたちと話して笑っているとき、ほんとうに慈愛に満ちたやさしい、やさしい顔で笑う。わたしは写真を撮る趣味がないのでその瞬間をシャッターに収めることは一生できないのだけれど、そのハチの最高の笑顔を知っているし、覚えているし、きっと死ぬ時にも死んだあとにもその思い出を抱えて天に帰っていけると思う。

ハチのこんなに美しい顔を見られるのは、きっと世界にわたしだけだから、忘れないように胸に刻んでおこう。そう思う。
その顔は、なんと彼自身でさえも見ることができないのだ。あんなに美しいのに。

でもそれって笑顔だから、だと思っていた。だれだって家族が笑顔だったらうれしい。だから見ていてこっちも幸せになれるのだな、と思っていた。

けれどもいま、ハチがとても大変な状況の中、疲れてよれよれになっていて体重も減って弱っている姿を見ていても、さすがに幸せな気持ちにはならないが(鬼かよ)、なんとなく味わい深いというか、感慨深いものがあるように感じる。
こういう、人生の節目節目だったり、いいときも悪いときも、お互いただそのままでいいんだな、って。

結婚して、ずっと一緒に何年も何十年も一緒にいるということは、相手のいろんな瞬間のいろんな顔を、見ていくことでもある。

ところでハチは、ここnoteでは「ハチ(仮)」という感じで仮名で出しているだけで、実際は「ハチ」のハの字もない。
ではなぜハチなのかというと、わたしが世界でいちばん何度も読み返した小説『ハチ公の最後の恋人』という小説の、主人公の恋人の名前にちなんで「ハチ」にした、ただそれだけである。

けれども、ハチと結婚していて(あ、旦那さんのほうね)いつも頭によぎるのは、その小説のこんなフレーズだ。


 ハチとデートもしたかったし、ハチの部屋にどきどきしながら行って、はじめてのキスをしたかった、子供が生まれてあちこちに電話するハチを、おなかの皮をたるませた状態で見たかった。新生児室には子供がいて、ああ、育てるのが面倒臭い。猫や、犬を拾っちゃってやむなく飼ったり。

 それから、一緒に海に行きたかった。毎日泳いだり、砂浜を散歩するのも。あと、くだらないけんかやハチを見飽きて、いなくなればいい、とか思ってみたかった。どっちが新聞を先に読むかでけんかしたり、いろいろなヒット曲が過去になっていくのを一緒に感じたかった。

 あらゆる雑多なことを、いい悪いなんて言ってられない、起こったことをなにもかもごちゃごちゃ含んだ、ひとつの宇宙を創って、いつの間にか大きく大きく流されて、気づいたら世にもすてきなところにいること。そう、つまりね、そんな責任をひとつにすること。
 
 私は泣きながら訴えた。
 なんでこんなにすばらしいことをみんな、毎日してるのに、みんな、特別には幸せそうじゃないの?

『ハチ公の最後の恋人』(p166-167)


ハチとマオちゃん(主人公)は結ばれなかった。それでもハチはマオちゃんの最後の恋人だった。マオちゃんは、別れるしかなかったハチとの「別れなかったふたりのもうひとつの未来」を夢に見て、大泣きして、そして上記のフレーズをハチに涙ながらに伝えた、という場面でのせりふだった。

これを読んで、「こんなにすばらしいことを、みんな、毎日しているのに、みんな、特別には幸せそうじゃない、みたいなのはイヤだ。」と、すごく強く思った。そんなのおかしいじゃん、と。

 子どもを眺めるやさしい顔も、仕事で疲れ果てて真っ黒なクマが出来ている顔も、ハチとわたしが一緒に過ごすひとつの宇宙のすばらしい要素で、なにもかもみんな見られて体験できることそのものが特別で、そういうのぜんぶひっくるめてわたしにとって「幸せ」というもので。

そう。きのうも今日も、きっと明日も、ちゃんと気づきさえすればわたしたちは「世にもすてきなところにいる」ってこと。

だからみんな、わたしの前では弱いときは弱いままで、だめなときはだめなままで、いておくれよと思う。なにもかもがどんどん移り変わっていくのだから、ただその「毎瞬のほんとう」という美しい顔を見せておくれよと思う(まあでも風向きが変わるとよいねって思ってるけどね!それはそう)。 





2022年9月スタートのライティング・ライフ・プロジェクト第12期生、満席となりました。ありがとうございました。



<世界観と表現>ビジネスコーチング、9月期は満席となりました。



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