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遠い日の水の都へ…

子供の頃からの憧れの地は、断トツでヨーロッパ。

そのせいか、私はアジアを知らなかった。

もちろん知識は皆無。

自分がアジア人であるにもかかわらず、である。


高校時代にヴェネチアのことを調べていたら、本に掲載されていたある写真。

そこには紅い灯籠が印象的な、運河の写真が載っていた。

「蘇州」という場所らしい。

どうやら水の都のヴェネチアとは姉妹都市。

確かに雰囲気は似ている…

ただヴェネチアよりも、美しい紅が印象的。

そういえば「蘇州夜曲」という曲があったっけ。

ゆったりとしたメロディー

ちょっと物寂しげだけど、どこか懐かしい感じがする曲。

ああ、この町のことなのか…。

ヨーロッパではないけど、ちょっと惹かれる。

縁があればいつか行ってみたいな…

そう思いながら、私は本を棚に戻した。


あの日からどれくらいの刻が流れたのか

蘇州の事もすっかり忘れ去っていた。


やがて大人になり、最初に選んだ旅先は迷わずヨーロッパだった。

いつか行くために、あれやこれやと知識を蓄えてきたのだから。


しかし2014年、ひょんなことから上海に行くことになったのである。

この時も、モノづくりのご縁だった。

私にとって、初めてのアジア旅行。

中国か…。微妙に不安だ。


しかし今はネットの時代。

良くも悪くも情報が満載である。

色んな不安はすぐに消しとんだ。

そしてあの日見た写真が頭をよぎった。


蘇州


あれれ。そういえば場所はどこなんだろう?

思えば私は中国の地図をよく調べたことがなかった。

そもそも私の中で、中国に行く理由がなかったからである。


地図を眺めているとあっさり発見。

なんと上海のすぐそばである。

これは行くしかあるまい!

私は早速プランを立て始めた。


初めて降り立ったアジアはとてもエネルギッシュだった。

広い高速道路をありえないスピードで走る車。

ぶつかりそうでぶつからない。

F1ではなく、雑技団に入れそうである。

ひっきりなしに色んな人々がすれ違う魔都上海。

私は数日その地を味わったあと、蘇州へ向かった。


魔都から西へ1時間。

そこには、正反対のゆったりとした時間が流れていた。

ゆっくりした茶館は、雰囲気抜群。

歴史的建造物もあちらこちらに見ることができ、とても興味深い。

いつもヨーロッパの建築が頭にあり、今まで気にも留めなかったが、工芸的な美しい建築物があちこちに佇んでいる。

何より私が子供の頃にTVで見た中国の世界があった。

カンフー映画やキョンシーが懐かしい。

2泊3日の滞在だったが、蘇州でメインの場所を見るのには十分だった。

お腹を壊さないかと、いささか心配だった料理はどの店も美味しかった。

考えてみれば同じアジア、日本でも馴染んだことのある味付け。


何より私が出会った人達は、みんな親切で好意的だった。

まあ、どの国でも良い人と悪い人は存在するので当然の話なのだけど。



今はもう誰も住むことがない麗しい遺物を見ながら、あの日の自分を思い出していた。


教えてあげたい。

確かにここは蘇州夜曲がよく似合う、って。




#一度は行きたいあの場所






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