あの世PB(プライベート・ブランド)ざく切りほうれん草の巻
私は今、ほうれん草をきざんでいる。
ほうれん草を3センチくらいにざく切りにしている。なぜか今、そのことに気がついて、一体いつから、きざんでいるのか考えはじめたところだ。
しかし、いつからなのか、誰かに言われてなのか、はたまたここがどこなのかもわからないのだった。わからないけど、ただひたすらほうれん草をきざんでいるのだった。
そういえば。私は誰だろう。
ほうれん草をきざみながら考えるが思い出せない。身体は特に疲れてもおらず、いつまでほうれん草をきざむのかという気持ちにもならず、目の前にある大量のほうれん草をただひたすら無心できざむ。気持ちはおだやかで、不安もない。
頭がつるっとして腹の出た小鬼がやってきて、きざんだほうれん草をざるに入れて運んでいった。
あれ、もしかしたらあれかな、賽の河原で子どもが積む石を崩す意地悪な小鬼。
けど、きざんだほうれん草を持っていくっていうのはちょっとニュアンスが違うなあ。
あのう、もしもし。
次に小鬼がほうれん草を取りに来た時にきいてみた。
これって、何のやつなんですか?ここは会社か何かで、私は雇われているんですか?
小鬼は、おっ、といった感じで私を見た。
あんた、気がついたんだねぇ。ずいぶん長いこといるもんなあ。
そんな風に言われても、なんだか他人のことのようである。何しろたった今、気がついたのだ。そんなに長くほうれん草をきざんでいたとは、一体どのくらいやっていたのだろうか。
とは言え、時間の感覚もまったく無い。
ここはまあ、あの世の調整所みたいなもんだね。あんたも気がついたってことは、そろそろ次にいくんだろうね。
あの世。ということは私は死んでここに来たのか。しかし、生きてた頃のことは覚えていない。このほうれん草は、いったい?
あっちの部屋で冷凍して、袋に詰めて出荷すんのよ。イオ○のPB商品になるんだわ。
は。○オンのPB(プライベート・ブランド)。お求めやすい価格でご提供のあれか。なんで安いのか謎だったが、わかったぞ。人件費がかかってないんだな?
ほうれん草も外に勝手に生えてくるからタダなんだよ。ちなみに無農薬だよ。
イオ○め。うまくやりやがる。企業努力とはこのことか。あの世と提携していたとは。
しかし、○オンのことだけはすぐに思い出せたのは、なぜだ?
あんたは前世でイオ○に何かしら縁があったんだろうかねえ。強く念が残っていると、関連部署に影響するみたいだから。
まあ、それもあともう少しだろうね。
じゃあ次は、どこへ?
と思う間もなく、私は意識が遠のいた。
次に気がついたら、寿司でも握っているんだろうか?海老のカラむきだろうか?魚の骨取り?それとも・・・
何にしても、移る直前にならないと、それまでしていた事がわからないなんて、なんだかだまされているみたいな気持ちだ。けれど、やった事を覚えていないのなら、別にいいのか。
いいも悪いもないのか。
私はただ無意識に何かをやりながら時たま移動しているだけの、そんなシステムにすぎないのであった。
そしてやはりイオ○グループの傘下から逃れられないのかもしれなかった。
⭐️この作品はフィクションです。実在の組織や団体、グループ、商品に関係はありませんよ!
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