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★ 話の缶詰 ★

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ちょっと読めて楽しめる、肩の凝らない、そんなお話を詰め合わせてみました。 まずはお試しにいかがですか?
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#稲垣足穂

秘密のメッセージは知らない世界への入口

秘密のメッセージは知らない世界への入口

 今はもう、無いのだろうな。
 昔、新聞の三面(テレビ欄が載ってるページの裏面、いわゆる社会面)の下方に、時おり「たずね人」や「探しています」「お知らせ」という四角い小さな囲みの伝言が載ることがあった。

 個人情報がこれだけうるさい昨今では、不特定多数が見るメディアに、個人的な情報を載せるなんて、と思われるだろう。
 だが、まさに、その不特定多数に向けて発信していたのが、この欄である。
 すなわ

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記憶を売る店

記憶を売る店

 古い市場の中を歩いていた。シャッターが閉まったままの店舗が増えて、寂しい感じがするが、再来年には創設100周年を迎えるという長い年月を経てきた市場だ。
 乾物屋やお惣菜屋、魚屋、漬物店などが元気に営業中だ。

 ふと、見慣れない店があるのに気がついた。古いガラスケースや木製の古い棚にごちゃごちゃと色んな物が置かれている。
 最近できたのかな?アンティーク、というよりはガラクタに近い商品の数々。

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取り返しのつかなくなった話

取り返しのつかなくなった話

 それはたまたまほんの少しの時間、わたしがその部屋に一人きりになったことから起こった出来事である。
 その時ある装置のことをふと思い出したのだ。それは上司の机の引き出しの上から2番目、奥の仕切りをはずした下にあることを、なぜかわたしは知っていた。
 上司と飲みに行った酒の席で、酔った彼がふいに漏らしたのだったか、それとも一緒に得意先に向かう車の中でなんとなく話題が欲しくて彼が冗談めかして話したのだ

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