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ポーランド口承文学 ~『死神』と代母 A-①~

 今回は『死神』のお話。『悪魔の奥さん』の話といい、今回の死神といい、ポーランド民話に残っている『人ではないモノ』に対する人々の視線が、一神教が早くから広まっていた西側の大陸より、ちょっぴりやわらかいものに感じるのは私の贔屓目でしょうか。
 ちょっと長いので、2部に分かれます。

 それでは はじまり はじまり~


 あるところに、貧しい男がいたんだよ。仕事もなくて、ただ箒を作って売っていたんだ。

「ちょっくら出かけて、箒のための枝をあつめてくるか」

 そう言うと森へと出かけて行ったのさ。

 それでな、集めおわって、森から出たところで一息ついたんだよ。冬だったんだ。

 そしたら女が歩いているのに気が付いたんだ。そうだね、その女は背が高くて、細っこくて、真っ白だったと聞いてる。

 そしてその女が言ったんだ

 「ちょいと背中に乗せてもらえないかね。そこの村まで行くんだけど、寒くてたまらん」

 「木の枝を背負っているっていうのに、どうしておまえさんまで運べるっていうんだい。今でさえ、やっとこさ背負っているというのに」

「あたしゃ、十分軽いよ。さぁ、運んでおくれ、どうしてもあの村まで行かなきゃならなんだから。村の女ひとりを連れていかねぇと、そうさ、その女は死ぬんだよ。あたしゃ、誰にでも公平だからね。ほら、運んでくれたら礼はするから」

 「わかったよ。じゃぁ、この枝の上にでも横になってくれ」

 女は言われたとおり、男の背負う枝の束の上によじり上ったが、男は重さを感じなかったんだと。

 その女のいう村に着くと、この男に向かっていった。

 「また、お前さんに会いに来ることがあるだろうさ。あたしゃ、この森の中にはどこでもいるからね」

 「ああ、わかった」

「あたしゃ、誰かに死が訪れるときやって来て、連れて行くのさ。死は誰にでも公平だからね」

 「そうさな」


 しばらくして、この男の妻が子供を産んだんだ。そして男に向かってこういった。

「この子に代母を見つけてやらないと。公平で信頼できるような人、、、でも誰がいるかねぇ?あのお隣さん、、、ああ、でも公平じゃないね。じゃ、あそこの奥さん、、はダメだぁ」
「ちょっと待てよ。出かけてくるわ。『死神』を村に連れてくる。自分で公平だって言ってたぐらいだ。森に出かけて会ってくる。そして、代母になってくれるよう頼んでくる。それがいい、彼女が一番公平だ」

 男は森に枝を取りにでかけた。そして、『死神』に出会うと彼女に聞いた。

「うちの子供の、代母になってくれねぇかな」
「、、、ああ、いいとも。もちろんだ」
「じゃぁ、決まりだ。一緒に来てくれ」
「いや、ちょっとあたしゃ着替えさせてもらうよ。この格好はふさわしくないんでね」

 別の格好をした『死神』は時間になるとやってきた。皆で教会に出かけ、赤子に洗礼を受けさせた。『死神』は代母になったが、、、なったのだが、いったいそれがなんなのか、とんと見当もついてなかったんだ。

 男は、代母とは子供から一番信頼され、一番公平な存在なんだと説明した。

 代母の義務から逃げることなぞ出来ないものな。
 そうとも。


つづく


 代母とは、教会で子供が洗礼を受けるときに立ち会う証人のような存在です。子供に洗礼を受けさせる場合は、どうしても代父と代母を探さなければなりません。このテーマで一番有名なのは映画の『ゴッド・ファザー』ですね。まぁ、あそこまで血みどろにその子供を守ってやるかはともかくとして、本当の父親、母親代わりを請け負う感じです。

 でもですね、今ポーランドでもこの代父母を見つけるのが困難な状態なのですよ。とにもかくにも、その子のお祝い事(もちろん毎年の誕生日も)に呼ばれてそれ相当のプレゼント≒金を用意しなければいけないので、多くの人が全力で逃げています。

 でも、ひと昔前は、この話し手がつぶやいている最後の2行のように、頼まれたら断るものではない、というのが一般通念でした。

 

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