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5th album - drift - の備忘録

とある日の記録。

4枚目のアルバム「microcosmos」をリリースして以降、どの方向でアルバムを作ろうかと悩んでいた。新しいこと、というのはそう簡単に見つかるものでもなく、取り敢えず画面に向かうも、無意識のうちに自身の手癖なんかが反映され、引き出しの少なさに嫌気が差す日々が続いていた。

家にいるのも憂鬱なので、気ままに外をふらつき、おもむろに腰掛けたベンチで陽に照らされた葉や揺れる影をぼうっと眺めたり、屋上の駐車場に停めて遠くの街や空を見つめたり、何となく入った本屋で手に取った小説を買ってみたり。
自分と向き合う時間や音と戯れる時間と同じく、日常生活にある発見は大切なもので、その中には求めているヒントが沢山落ちている筈なのだ。

人との出会いもそのうちの一つである。ただ、私は人が多いところにいると息が詰まるので、自然と静かな場所に赴く。静かな場所というのは人がいないわけではない。生活音と話し声が遠くで響いているような空間。そこには木々のぬくもりと、陽の光を反射しながら静かに流れる川、枯葉の匂いを含んだ穏やかな空気が流れている。

自分と向き合っていて思うのは、人は放っておけばどこまでも楽をしようと怠惰であること。今のままが心地よいと感じれば、そこから離れようとしない、変わろうとしないこと。私自身もそのような傾向はあるものの、やはり同じままでは退屈を感じてしまい、変わり映えのしない自分に飽きてしまう。
だからこそ、少しずつでも、ゆっくり変わり続けることを考えながら生活している。


今作のミニアルバム「drift」の一部は、前作の「microcosmos」からサンプリングし、ビートレスで持続的な音作りをコンセプトに制作を始めた。kasaiさんとのユニット「tohk」で実験的に試していたことから得た着想も反映させることができ、これまでの表現方法の集大成となった。
年末にリリースするものの大半は自ずと集大成となりやすいが、それでも答えが出ないことの方が多い。今回はようやく辿り着けた場所でありながらも、このサンプリング方面での旅はもう少し続く予定。

最初に完成したのは4曲目の「star ocean」で前作の「star」を、次ぐ「drift」と「horizon」は前作の「forest spirit」をサンプリングした。リリースの時期やたまたま合致したサウンドから、舞台を永久凍土とした。
北極などの極寒の地には出向いたことがないため「drift」は、あくまでも私の想像上の凍土であり、小舟に乗ってゆったりと氷河を巡る間に起きた周囲の様子を表現したもの。冬の朝や夕方の空に広がる朧げな空気、境目が限りなくぼやけている様が好きなこともあって、そういった「朧げな空気感」と「境目の曖昧さ」を音にすることも、もうひとつのコンセプトとして意識していた。

朧げな空気や曖昧さは、横に流れていく際の違和のなさもそうだが、今回は特にコードの概念をどう崩すかが鍵となった。完全(または増、減)4度や5度で重ねていく開離配置はコード感が多少薄れるもののクリアな響きなので、朧げとは遠い位置にある。逆に音がぎゅっと密になればなるほど、コード感は薄れるが同時に不協和音として聴こえやすい。
音楽として耳に心地よく聴こえる密な音作りは、結局は自分の耳と感性に頼ることとなるわけで、前作よりはかなりフィーリング重視の制作となった。リズムや拍も曖昧にして、この辺と思ったところに音を重ねたり。
「microcosmos」にもその片鱗はあったが、前作はそこで終わっていたので、今回はそこをより追求した形となる。

しばらくは、また曲作りのアイディアを探すべく色々な場所をうろつくことになるだろう。旅はまだまだ終わりそうにない。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


tohma

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