ピアノが上手くなる意外な要素とは
音楽上達のカギといえば、先生とかライバル、幼少時の環境とかがよく言われます。
今日は、誰でもできる、一風変わった万能薬治療をお届け。どんな楽器でも、または作曲やアレンジでも、ある程度は当てはまると思います。
とはいえ、ピアノ脱落者で音大出でもない私が言っても説得力はないでしょうから、ちゃっかり同僚の威を借ります。LinkedIn (職業系SSN)でお友だちになったこの方。
https://www.linkedin.com/in/sangmi-chung-71253a3b
私と同じアメリカのクラシック・レーベルCentaur Recordsの先輩アーティスト、サンミさんです。ジュリアード音楽院卒、スタインウェイ公式アーティストで、眞子さまでおなじみフォーダム大学で教えておられます。
一応こんな立派なピアニストと同僚の私の、オススメ上達法とは? さっそく本編にまいりましょう。
恋愛
これはショパンがテーマのフランス小説で知りました。
「弾く直前に愛し合う」これだけです。
「ええっ?!」と疑うでしょうが……。事実、ある人気ソプラノ歌手が最高音を出し切るため、楽屋にご主人が常時スタンバイしていたそうです……。
フランスものとかには、特に効きそうですね。
あのルビンシュタインさまも、「演奏中はmake loveしているのと同じ」と明言……↓ (make loveとは、ズバリ、愛し合うこと。聞きやすいシンプル英語なのでぜひ)
今月80歳を迎えたアルゲリッチさんは恋多き女性らしく、3度の結婚!この超絶テク特集は全て直近6か月のもので、編集者は”Insane!”(狂人的)と絶賛。
今現在、お相手がいない方も大丈夫。濃密な想い出に浸るだけでも音が変わるそうです。カンタンですね!
出典はこちら。
数学
その昔の学問では、音楽は数学の一部だったとか。でしょうね、楽譜は数勘定だし、弦の長さが半分なら倍音(オクターブ上)が出るし……。
(って、そういう単純な話でもないんでしょうがw)
JK時代の唯一の自慢なんですけど――休み時間ともなると、他のクラスから優等生たちが私に数学の問題を聞きに来てました。
たまたま、東工大出のT山先生という数学の先生が解けなかった問題を劣等生の私が解いたので、大騒ぎになりまして以来……。
数学は今でも好き。当時は”数学セミナー”という月刊誌を粋がって定期購読してました。
ある時、別の女性の先生が授業でこう聞きました。
「みなさん、数学は何のために勉強すると思いますか? 日常生活では、小学生の算数しか使わないでしょう?」
誰も答えられなかったので、先生はしんみりと語りました。
「社会に出ると、答えのない難問にいくらでも出くわします。そんな時、実は今勉強しているこういう考え方が、頭のどこかで働いて、最適解に行き着くのを助けてくれるんですよ」
この話は、曲を作っていると実感することがあります。自分では思ってもないコード展開やメロディが、突然出てきて……。
演奏も同じで、自分では思いつかないようなアーティキュレーションで弾いて、自分で驚くことがあります。
たぶん、頭のどこかが数学的に働いているんでしょう。
五嶋龍さん(ハーバード大・物理)にしても、かてぃんさん(東大理一)にしても、優れた演奏家は理数系のイメージ。バイオリンが堪能なアインシュタインや糸川英夫博士もそうですね。
数学がお好きでない方も、小説くらいならピアノのためにいかが?w (確率頼みのギャンブラーの話)
DJ
録音された音楽で初めて泣いたのは、ホロヴィッツさまのモスクワ凱旋コンサート・ライブCDでした。
私にとってホロヴィッツさまは一番ではないし、それまで「こんな機械で泣くなんてあり得ない」と突っぱっていたので、悔しくて……。理由を一生懸命考えました。
結論は、「曲順と間合い」です。軽い十八番から徐々に盛り上げ、いよいよロシアものに差しかかる頃には、「号泣する準備はできていた」w
後にこのコンサートのライブ映像を見たら、大の大人の男性観客が何人も、目に涙を浮かべる様子が映っていました。
私がその場にいたら、泣き崩れていたでしょう。
って、話が逸れましたが……。人間、いかにラフマニノフのピアノ曲が素晴らしい出来でも、一曲だけで泣くってなかなかないもの。
ピアノの技術を磨くのもいいですが、手っ取り早く、DJのセンスで攻めるのもアリでは?
今はサブスクの利用で、自作プレイリスト作りも手軽。飽きさせず、適度に期待に応えつつ、あっと言わせるサプライズも取り入れ……。
楽しみながらDJの腕を上げて、演奏プログラム作戦で「上手い演奏」と思わせるチャンスかもしれません!
↑こちらユジャ・ワンさんも、DJセンスは天才的。「毎回総立ち」の秘密を知りたくて、昨年2月、既に見えた壊滅的コロナの前兆を押してNYカーネギー・ホールへ。
プログラムには、演奏曲目一覧。「バッハから現代曲までをchronologically (時間の流れ通り、年代順)に演奏」と解説がありました。
開演前、照明が落ちると、ユジャ・ワンさんご本人の艶やかな声でアナウンスが……。
「こんにちは、ユジャ・ワンです。来てくださってありがとう。私は毎回、自分の演奏に新しい発見を見出し、音楽の力に驚かされたいと願っています。だから今夜は、この瞬間、私が感じた曲順で演奏します」
始まった未体験のミスマッチには誰もが翻弄され、我を忘れ、気づけば総立ちのアンコール。無礼講で、全員がスマホを振りかざして動画を撮っていました。
どうやら “chronologically” の文言は、伝統を重んじたいカーネギー・ホール側の意向だったようw
まとめ〜上達プラシーボ
楽器を弾く人にとって、もっともっと上手く弾くことはいつだって夢でしょう。
そのための近道はないとしても、「上達は辛い練習とセット」という認識はどうなんでしょう?
ものは考えようで、どうせ練習するならわざわざ悲壮に構えなくても良さそうなもの。
……ということで、ピアノ落ちこぼれの私が「上手くなる魔法の薬〜恋愛・数学・DJ」を挙げてみました。何なら「グルメ探訪」とか、「感動的な映画鑑賞」とか、お好みの何をしても効くのでは?w
どんな方法にしろ、「これをやって上手く弾けたらワクワク」と、自分も他人も洗脳するのがコツ。
ある敏腕ピアニストが、どんなに練習しても弾けないフレーズについて、モスクワ音楽院だかの有名な教授に相談に行きました。
演奏を聞いた教授は楽譜を持ち出し、「じゃあ君、ここを弾いてみて」と、いくつかのパッセージを指して弾かせました。その後、「さて、さっきの弾けない個所を弾いてみて」と促すと、すんなり弾けてしまったのです。
感激したピアニストは、「先生、なぜ今のご指導で弾けたのかを教えていただけませんか?」と乞いました。
教授はこともなげに答えました。「理由なんかないよ。だって、弾けないというのは君の思い込みなんだから」
このように、演奏のあれこれは錯覚であることも多いです。そこを踏まえ、自他ともに騙す……じゃなくて乗せる演出は必要かもw
ではでは、コロナには引き続きお気をつけて、愛しのピアノ・ライフを楽しんでまいりましょう!!
冒頭の写真は、数学者ガロアが女性をめぐる決闘で命を落とす前夜に書き遺した5次方程式のアイディア。私の愛読書”フェルマーの最終定理”(サイモン・シン著)より