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場所によって50倍変わる! 人からの評価

一年総決算の季節。文章やビジュアルと比べて、音楽では評価システムの偏りが半端ない……という私の実例を、今日はお話ししてみます。音楽している方だけでなく、「好きなことで生きていく」という方にはご参考になる部分があるかも。

ミュージシャンにとっては、音楽ストリーミング・サービスでの「今年のまとめ」が気になる頃。私の場合、Spotify とApple Musicの数字が、冗談ではなく50倍以上違います。 

当然ながら、自慢にならない数字。だけど、「人からの評価に納得いかない思いの方に共有していただけたら」と、恥ずかしながらちょっぴり公開いたします。

音楽に「下手ウマ」はない

インターネット時代の昨今。素質さえあれば誰でも注目されるチャンスが、一昔前に比べてザクザク豊富になりました。ただし音楽に限っては、そうとばかりも言えないよう。

なぜなら、音楽は専門家でなくても「この人、ものすごく上手い!」とか、「酷い!こんなの人前に出すもの?」とかが、ちょっと聴けば分かってしまうから。いくらセンスがあっても、運や流れだけで評価を得るのは不可能。

その点、母国語の文章なら誰でも水準以上は書けるからか、採点基準が曖昧。例えば「今日は疲れたから、何も書かずに寝ま〜す。お詫びに、夕食のラーメン・餃子の写真を!」などと”エッセイ” としてアップしたって、好感を持つ人はいます。

一方、音楽で「今日は疲れたから、ドレミ♪だけ弾いて寝ま〜す」と音階の単音ピアノ演奏動画をアップしたら、好感持つ人なんていないですよ。いかに美人・イケメンだとしても……。

不公平だなあ、と思いませんか??

ある大学生が「人はなぜブログを書くのか」について、noteで書いていました。彼の結論は、「一般人は一般人の書くものに共感するから」だそう。本当にそうだ!と手を叩いてしまいました。

そんなわけで、ユニークな表現で共感を多く呼べる一般人が、影響力ある「何者か」になれる時代です。イラストやマンガなどにも、似たところはあります。ところが音楽では、いくらユニークでもこのようなことは起こりません。 あるとしても「ゲテもの」扱いw

この大学生の方は、「何者かになった人」か「なってない人」かに分類される以前の、いわば中立な立場だからこそ、こんな鋭い観察ができたような気がします。

「〜組」なんてない

ところで、「何者かになりたい」がブーム・コンセプトになるぐらいだから、「何者か」と「それ以外の者」とは、そもそも分類できるのでしょうか?

私はできないと思います。有名音楽アーティストたちのスタッフをしていた私が、「有名人ではないが一般人とも違う」中立な立場からそう感じる理由とは……

まず、ずっと有名であり続ける人は、有名人の中でもごく一部。それから、有名かどうかは場所によっても異なります。

例えば、アメリカではかなりポピュラーな”コンテンポラリー・クラシカル” というジャンルの中で神様みたいなスター(Lara Downisとか)も、日本では音楽ファンでさえ知らないただの人。有名人よりややボーダーの緩い「何者か」であれば、その地域差はなおさら。

私から見ると、いろんな個人がいっぱいいるだけで、分類があるわけじゃありません。確かに、有名になるのは周りとは決定的に違う何かを持っている人たち。ですが、全てにおいてすごいわけではないので、私にとっては一つの個性に過ぎません。

ましてや「勝ち組」「負け組」なんて、「それって、どこに行ったら入れるの??」という感じ。

一生勝ち続ける人はいないし、負け続けるのも案外難しいです。「あなたは負け組」と分類されると勝ちにくいことがあるだけ。

とはいえ、世の中は評定を欲しがります。特に年末は、イベントにすらなって……。こちらが、今年はミリオン再生を夢見ていた私のSpotify 惨敗レコード! (英文動画)

総再生数、11.66K。数字は微小ながら、105のプレイリストに入れてもらったとか、同時に聴いてる人が最多で12人いたとか、リピートで聴いてくれた人が25人とか、世界66ヵ国で聴かれたなど――どれも私にとっては慎ましくも大事な数字なのです。誰かさんが聴いてくださっての結果だから、ゼロでないことがとても重要。

どんな評価もリアル

対してApple Musicでは、年末まとめのようなものは発行されません。代わりに去年の10月から今日までの総再生数は、672.9K。軽くSpotify の50倍以上ですね。

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どちらのサービスにも同じ日に同じ条件で公開されたにしては、大きすぎる差。世間で私と”似たアーティスト” とされる人たちには起こっていない現象です。

数字だけ比べれば、Apple Musicは私にとってより良いリスナーさんやキュレーターさんがいるサービスに見えます。

アルバム発売直後には公式プレイリスト入り。アップル系のデジタル・ラジオでは、アルバム発売から一年以上たった今も、何曲もが1日に計40-100回以上かけていただいてます。

ところが、再生内容を詳しく見れば、Apple Musicの方がセンスがいいのかは微妙。気づくのは、アルバムの最初の方に入れた曲の再生が圧倒的に多い点。カタログ主体の選び方のようです。

一方、Spotify で再生が多い曲は、アルバムでの曲順にかかわらず。私が内心推してる後半の地味曲もよく聴かれていたりして、驚きます。「違いがわかるリスナーさん!」なんて……。Spotify の再生システムの利便性も理由の一つでしょう。

総再生数は50倍以上の差ながら、感じるありがたさはそれほど変わりません。ミリオンだろうが、数人だろうが、バラせば個人の”選者”さんですから!

評価って何だろう

こうした両ストリーミングの違いを分析すれば、やっぱりサービス運営によるプッシュ度合いの差は歴然です。Spotify では、アルゴリズムによるオススメ再生は常時0~3%。ないも同然w。(本日↓)

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同じ音楽なのにね……。

文章やビジュアルと違い、音楽では公開時点でクオリティが高め同一線上に集中するため、キュレーターの好みが大きく響き易いのが現実。文章だって好みと主観で選ばれますが、音楽が文章並みに「ちょっと変わってて面白い」ぐらいで選ばれる確率は格段に低いです。

なので、クリエイターにとって潤沢に感じるチャンスは、音楽についてはパチンコでいう「射倖感」に過ぎない可能性も。個人でストリーミング公開するだけで見出されるケースは稀です。

作品のクオリティを上げる工夫と同時に、より良い評価をくれる場を広く見極める工夫が要りそう。サクセス例が多いのでみんながうまくやっているように見えるかもしれませんが、「本当か? その実態は?」と精査してみてもいいかも。

以上で一番言いたいことは、「特定の場からの評価なんて主観頼みだから、評価を気にして落ちこんだりしたらバカ」っていうことです。

現在はバズっている人も、数年後にはメッキがハゲたり、天狗になって自滅しているかも。もちろん、その逆のハッピーエンドだって大ありなのは言うまでもありません。

あのJ.S.バッハも、当時は弟のエマニュエルや末っ子のクリスチャンの方が音楽的評価が高かったとか。特にクリスチャンは、ロンドンでは超人気の売れっ子でした。

時流に合わすことは必要としても、人に気に入られるために生きてるわけじゃないです。好きなものを作って、喜んでくれる人が少しでもいれば、それはそれで最高じゃないでしょうか?

今日の私のハチャメチャな例が、現実に違う風を入れる一助にでもなったら嬉しいです。

冒頭の写真はペット屋さんのディスプレイ。”ホリデー・シーズン”が始まったマンハッタンの街は浮かれ気味。日米ともに、感染症には気を引き締めないとですね!