コミュニケーションはリスクなのか?

 先日、会社で、最近の若い人はコミュニケーションが苦手なのでなかなか相談してくれない、だから後々になって問題が発生すると、偉い人が言っていました。最近の若い人とは誰を指すのでしょうか。それを若者に言ってどうするのでしょうか。

 私はコミュニケーションが苦手です。仕事では、効率を求めるのだから正確に早く伝えようとするのですが、やはりそこは人間が相手ですから、ある程度効率を度外視したコミュニケーション方法をとらざるを得ないことが多々あります(入社するまで、若しくは入社してすぐのころは、会社組織に所属すれば、効率を高めてより良いものをより早く作り出していくよう努める必要があるのだと思っていましたが、意外とそんなふうには考えていないように見える人が多くて驚きました。そういった環境に身を置いた自分の責任であることは重々承知)。仕事以外では、他愛のない話をするというのが難しく、特にあまり親しくない人とコミュニケーションをとる必要があるときは、お互いのためにならないのだからいっそやめてしまいませんかと言ってしまいたくなるときがあります。相手も同じように思っていることと思いますが、相手のために言葉や態度を選んでサービスしてあげることが非常に面倒になります。

 最近は、人間関係には、リターンよりもリスクの方が大きいのではないかと思うことがあります。また、最近の若者はコミュニケーションが苦手だ、という言説には、人間関係をリスクと捉え、不必要と思われるコミュニケーションを極力避けることを選ぶ人間が増えてきているから、そのように観察できるのでしょう。と、いうように考えることもできるのではないでしょうか。

 人間は社会的な動物であり、相互補助こそが生きていくために必要なのだ、確かにそう思いますが、しかし直接的なコミュニケーションの必要性を問われると首を傾げたくなります。技術の発展により、生きていくだけならそれほどコミュニケーションが必要ではなくなったように思います。むしろ、従来のコミュニケーション形態は非効率的になってしまったのでしょう。直接会って、顔色をうかがいながら話すより、メールやLINEで伝えた方が、時間を合わせる必要もないし記録も残る、何よりも相手と同じ空間にいなくてよい。電話するより、メールしたほうが、記録に残るし、相手の時間を無駄に使わせることもない。

 また、私たちの世代は、「効率」という言葉をよく聞きながら育ってきたように思います。これまでの経済発展は物量にモノを言わせていたが、新興国の台頭で立ち行かなくなる危険が出てきたら、効率を高めてコストを減らすことが求められるようになります。今の20代は、それ以前の世代と比べて効率を求められてきた世代なのではないでしょうか。

 何度も言われれば、効率を高める方法を考えるようになります。それは勉強や仕事だけでなく、人生についても。効率を高める一番の方法は、無駄を省くこと。人生における効率化とは、「幸せ」を増やし、「不幸」を減らすこと。非生産的なコミュニケーションが生みだす「幸せ」の量は、それが生み出す「不幸」の量に勝てない、と判断する人が出てくるでしょう。このようにして効率化を求める人間によって駆逐されてきたのではないでしょうか。

 コミュニケーションは恐怖の対象になり得ます。自分は普通に接しているつもりでも、相手の受け取り方によっては関係が悪化する場合があります。転んでも安全側に、フェイルセーフ的な考え方をすれば、そんなどこに地雷が潜んでいるかわからないコミュニケーションをするくらいなら、何もしない方がましだと思う人がいても不思議ではありません。

 年齢を重ねた人が、若い人はコミュニケーションが苦手で困ると言っているのをみると、やりきれない気持ちになるとともに、少し怖くなります。こと人は自分の「正しさ」を疑っていないし、これまでの人生で全くそういうことを考えてこなかったのだろうと思わせる言葉。その環境を作ってきたことに責任を全く感じていない様子。その状況を良いものではないと考えているのに、なぜそのような状況ができてしまったのか、環境を変えるべきではないかと考えられない固まった思考回路。ああ、もうどうしようもないのだなという諦めとともに、また一つ「人間関係」というものに絶望する。しかし、自分も最大限環境を変えることに対し努力しているかと言われると、自信をもってYESと言えないから、仕方なく社会のあるがまま、流れに従って生きていく。

 コミュニケーションが苦手、というのは、「社会」に対する絶望から生まれ、またそれに対するレジスタンス運動の一つなのかもしれません。私たちは、言うほど「社会」との関わりを望まなくなっているのでしょう。その必要もないように思います。

 Think, think, think.

 

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