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【大学再編】東京外国語大と一橋大ってどうなるの?

前回のブログをいろいろ書きたしていたら、ずいぶん長くなってしまいました。

興味のポイントも皆さんそれぞれと思うので、今回は「四大学連合から取り残されそうな(?)東京外国語大と一橋大」について、別冊の形で抜き出してみました(内容は前回ブログの該当部分を膨らませています)。

タコの深読みですので、その点はご容赦ください。


<背景>

四大学連合というのは、東工大と東京医科歯科大に一橋大と東京外国語大を加えた大学群のことです。「東工大と東京医科歯科大が統合」との動きが公にリリースされた中で、文系単科大学の2校はどうなっていくのでしょうか。


東京外国語大学


東京外国語大については、大学自体のレゾンデートルが一般人には見えづらく、今回の統合についても立ち位置がよく分かりません。

大学の研究分野と水準、そして学生の資質も高いのですが、世の中への押出し(PR)が遠慮しすぎで、ずいぶんと損をしているような気がします。

例えば、世界各地域の『言語』『国情や体制』『各国の政治・経済・社会・文化(リアルな情報と把握)』『グローバル社会のパワーバランス』とか。こうした分野の研究は、我が国の政治やビジネスを前進させる上で必須のものです。

そして近年、国と国との関係や企業の海外進出の踏込みが、今までとは格段に違うステージに入ってきたことで、私たちも対外スタンスを「アウトボクシングからインファイトに切り替える」時がきました。

「日本ではこうしてます」は、まったく通用しません。

更に、外国人労働者や移民もどんどん増えてきます。日本の教育環境で育っていない人たちに「日本のしきたり」や「日本人らしさ」を求めても限界があります。

そこで求められるものは、まさに東京外国語大クオリティの情報や知見。すなわち「異文化とのギャップにどう対応するか」のベストプラクティスです。

また、国を挙げて推進している観光立国や留学生の受け入れ、アジアやアフリカ等に向けた国際協力など、「人肌レベルの交流」においても、同校(出身者)の活躍するステージはどんどん増えています。

では、今回の2校統合や『医工連携』においては、どうでしょうか。

必要とされる機能と人材供給を担える力は十分以上です。しかし「東京外国語大としてのブランドやポジションを残せるかどうか」は、なんとも言えません。今のままだと、機能として取り込まれてオシマイだからです。

今後益々グローバル化していく情報社会の中で、かつてGoogleの言った「地球がコンテンツ」に一番近い大学が、東京外国語大ではないかと思います。

インターネットで世界の様々なレイヤーの人々が繋がっていく。そうした広がりとコミュニケーションの中で、タスクフォース的に活躍する、語学に堪能な人材を育成する。『つながる』『世界のリアルを伝える』を仕事にする新しいタイプのメディア人材と言ったらいいでしょうか。

『世界で働く』をミッションとするのであれば、2校統合のフレームワークは東京外国語大にとって狭すぎる間口です。医療翻訳や治験・認可の手続、医療サービスのグローバルプロバイダーだけでは、いかにももったいない気がします。

看護や保健衛生、医療工学関連のエンジニアリングを海外に広めたり、日本で働く同分野の外国人材育成をサポートする等。それなりの役割があるにしても。。

そもそも、その程度であれば四大学連合のシステムの中でもどんどん踏み込んでいける話ですが、具現化の熱量が低かったのは、「四大学連合」が再編から逃れるディフェンスライン的なものだったからかもしれません。

いずれにしても、東京外国語大は、高いポテンシャルと将来価値、良質の学生層を持ちながら、一橋大ほど戦略的に「社会リソースとしてのポジション」を打ち出していないため、いろいろな角度から「取り込まれやすい存在」なのが残念です。

内外の国際戦略機関やシンクタンクとの産学連携を積極的に推し進めながら、日本再生を支える強大なグローバルヘルプデスクを担ってほしいと思います。


一橋大学


東工大と東京医科歯科大の統合に対する一橋大のスタンスは、「Good deal but no interest」(結構なお話ですね。でも遠慮しときます)といった感じでしょうか。

<理由その①>
「大学の生き残り」という意味では、東工大+東京医科歯科大の『医工連携』は一橋大の命綱(ライフライン)ではありません。筋目がまるっきり違うお話です。

<理由その②>
同校は、産業界との太いパイプや過去の歴史を通じて、組織再編の光と影を熟知しています。そうした知見と思惑の中で、アライアンスの関係にとどまる『合従連衡』を選ぶのが得策と判断しそうですね。

ですので、どうしたら『お隣さんの家庭の事情』に巻き込まれないようにしたらいいか、が対応のポイントになります。

もう少し細かい話をしましょう。

一橋大は国立ですが私学的な精神が強く、「アイデンティティ」を大切にします(同校のポジショニング戦略の8割は、地政学と差別化で説明がつきます)。

予算規模の大きな医工系大学に挟まれて、学生数も少ない同校がイニシアティブを取ることは難しいでしょう。更に、2023年度からスタートするソーシャルデータサイエンス学部」という、大学ブランドの大型アップデートも控えています。

「Size does matter」(大きいことはいいことだ)は20世紀で終ったモデルです。大きくなったからといって、成功するわけではありません。それが災いしたケースはゴロゴロあります。

組織が合体した際に生じる様々な摩擦と軋轢、不毛な権力闘争、山のような雑務といった消耗戦。。。そこにはお題目だけではどうしょうもない巨大な沼が待ち受けています。

もし独自ブランドとSmall but excellent 戦略で、今後20~30年間の食い扶持(フローとストック)を確保できるシナリオがあるのであれば、そっちを選択する方が賢いですね。

ただその場合、他者より頭2つ先を走っていないとブランドマーケティング的には十分なポジションと言えません。

この点については、「大学+大学院+研究所+ロースクール+ビジネススクール」といった、既成のスクールラインナップにソーシャルデータサイエンスを掛け合わせて、新しい価値を創出する動きが始まっています。

これを、学生だけでなく「社会人(企業や官公庁)のDX人材化」にも広げながら大きなムーブメントに育て上げていく。そうしたアプローチで、社会に向けたインターフェースを取っていく経営戦略とも見て取れます。

環境は常に流動的ですが少なくとも現時点では、今回の2校統合に対しては「シンパシーを持ちつつ遠くで応援」というのがベストアティチュードと思います。


四大学連合の行方は?


2校統合後も連合体制を残すとすれば、暫定的には『2つの惑星を持った太陽系』のようなバランスイメージになります。

内容的には見直す必要もなさそうですが、素人目にはどうしても「一緒にくっつくの?」といった点が気になります。

惑星(東京外国語大と一橋大)が、太陽(統合2校)の重力に引っ張られていくのか。微妙に独立性を保つのか。異なる次元へワープするのか。当事者や周囲の智謀知略も含めて、新たな変容が見ものですね。

余計な話ですが、この流れを読んでいくと、一橋大は端から「As you like」(お好きなように)といった姿勢ですが、ちょっと心配顔の東京外国語大はどうなるのでしょうか?

慶應大あたりが(ホントは一橋大をほしがっているようですが)、「海外留学や外国人学生を増やしたり、グローバル戦略に使っちゃおう」とかで、パクッといくか。

東京外国語大は入学定員が700人サイズですから、やってやれないことはないですし、初の『国私合体』は超級爆弾になります。

成功すれば、地方の国立大と地元私立大の再編テンプレートにもなりますね。

妄想みたいな話になってきましたが、大学版『少子化対応ソリューション』とか『国営事業の民営化(私学化)』として考えると、「えー、それって官僚の発想だよね」と、なんとなく思えてきます。

もしそうだとすれば、裏で利権と省益の争奪エンジンがブンブン回っているかもしれません。

四大学連合については、それぞれの大学をコア(実証モデル)にした大学改革プログラムも、裏筋として走っている気がします。

成長産業のための産学官金プラットフォーム(東工大+東京医科歯科大)
高度なリベラルアーツ人材のSPEC開発(一橋大)
国立大の私学化(東京外国語大)


<仮締め>


東工大、東京医科歯科大、一橋大、東京外国語大は、それぞれが得意で強いベクトルを持っています。

四大学連合は、そうしたものを非支配関係の中で共有しながら、「未来的な研究と学びの場を作っていこう」との筋書だったかと思います。

裏筋として大学統合のポンチ絵もあったと思いますが、上手くいきませんでした。

そうした中で、今回「ワケあり婚」で東工大と東京医科歯科大がくっつくことになりました(まだ確定ではありませんが)。

多くの人は「四大学連合が集約するのか、ふるい落としになるのか」との図式で見ていますが、個人的には、これは、思ったほど前進感なく経年劣化してしまったシステムへの「新たな号砲」との見方です。

東工大と東京医科歯科大は「大型統合の失敗をどう回避して成長に繋げるか」。

東京外国語大と一橋大は「新たな布陣をどうするか」。古老は「敵襲と兵糧攻めに備えよ」と言うかもしれません。

日本のどこもがコンサバ(守りの価値観)に流れていく中で、この2つのリトルジーニアス がどんな知恵をもって切り返してくるか、とても楽しみです。

<興味のある方は本編もご覧ください>

<追記> 東京外国語大+一橋大(SDS) 2023.1.4   

やはり一言触れておいた方がよさそうですね。東京外国語大と一橋大の統合について。

もしこの2校が一体化するのであれば、当然それは「アブレた2校が手をつなぐ」とか「デカい文系総合大学ができる」とかではありません。

これも空想レベルの話ですが、2校合体のシナリオは「一橋大のソーシャルデータサイエンス学部(SDS)に東京外国語大がひっつく」妙手です。そしてそこに、Google (インテリジェントな実働エンジン)にも入ってもらうと、爆発的に面白そうな大学が出現します。

東京外国語大の強みは、海外の国や地域の「言語、民族、国民性、宗教、文化、生活様式、価値観、歴史、政治、経済」等に関する幅広い情報と深い知見です。

これらに関わる統計(数値データ)、更には文字情報(テキストデータ)を、どうやってAIと結びつけて、社会の知とサービスに転換していくか。

東京外国語大は、長い歴史の中で海外志向の強い人材を集め育成してきました。そうした素地を、新たに社会科学とデータサイエンスの領域で深く浸透展開させていく流れですね。

特に自然言語処理』領域(GPT)の研究と人材育成を足場に、日本視点(日本語を母国語とした他言語対応)に立って、日本語(母語)で意思疎通と情報共有がはかれる異次元コミュニティを創造していく。そんな場所が出現すれば、Z世代の若者たちも、やりがいと手応えを感じてくれるのではないでしょうか。

そしてその延長として、子どもも大人もお年寄りも、都会の人も地方の人も便利に使える、日本人(と日本に興味のある外国人)のためのGPTができたら素敵ですよね。

*2023.10.14「自然言語処理」にリンクをつけました

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