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巨大なデジタル赤字は円安を促進するがビジネスチャンスでもある

 デジタル赤字とは、その国におけるデジタル関連のサービスや商品を輸入する額が輸出額を上回り収支が赤字状態になることです。日本の企業や個人が海外のITサービスに支払うお金が膨らんでいます。それをデジタル化の加速につなげ稼ぐ力を高めなければ日本からお金が出ていくだけになってしまいます。
 GAFAMが提供するネット広告やクラウドサービスへの支払い、いわゆる「デジタル赤字」は約5.6兆円と5年でおよそ1.7倍に膨らみました。生成AIの活用が本格化し、デジタルサービスの需要は今後も拡大します。こうした事業を手掛けるのは多くが海外のIT企業です。これらを使えば使うほど日本の国富は国外に流出していきます。
 重要なのはこうしたデジタル化に伴う海外への支払いが増えても日本企業がそれを活かして労働生産性を高め付加価値の高い製品を生み出すことです。日本発のイノベーションで新たな稼ぎ手を育てていかなければなりません。持続的なイノベーション低収益国で日本は稼ぐ力が欧米に比べて劣っていることが問題です。中国や他の新興国がITの力を利用して世界に通用する工業力・サービス力を身に着けたため、日本製品の輸出力は相対的に低下し、日本製品・サービスを買う理由が見つからなくなってきています。
 日本企業が取り組むべき課題は、業務の効率化や生産性の向上、新規ビジネスの創出です。自社に必要なソリューションを見出し、高い競争力をデジタル化によって推進し、魅力的な製品やサービスの創出、日本市場や海外市場を魅了できるITサービスの提供を進めるべきです。新しいビジネスモデルを構築するためにもDXによる高度な効率化を進め高い生産性を獲得することが必須です。
 日本企業が市場からPBR1倍割れと評価されているのはデジタル化で稼ぐ力が他国企業と比べて劣っていることに原因があります。日本人や日本企業が海外のデジタルサービスを利用する際には日本円で決済が行われ、その後海外企業は最終的に日本円を米ドルなどの外貨に換えます。「日本円を米ドルに換える」ということは「円売り・ドル買い」が起きることを意味します。このデジタル赤字が大きくなればなるほど円安が進行し加速しやすくなります。
 デジタル赤字を稼ぐ力に変えるカギはインバウンド消費だと考えます。海外のITサービスを利用するのは基本で今後もこの流れは変わらないでしょう。日本の輸出産業は自動車が約20兆円で断トツです。2位の半導体製造装置で約5兆円です。3位のインバウンドが今年、半導体製造装置を抜いて2位の浮上する可能性があります。世界からみた観光魅力度の世界一は日本です。現在、日本の強みはインバウンドにあります。
 ITサービスを活用してインバウンド消費を増やす施策は多いです。現在、人手不足が制約要因になりつつありますが、デジタルを活用することで人的リソースが限られる中でもサービスの付加価値を高めることができます。例えば宿泊施設などを運営する陣屋グループではSalesforceのクラウド基盤をベースに「陣屋コネクト」を自社で開発し、データの自動収集や共有による業務効率化を実現し人が強みをもつ「おもてなし」に注力できる環境をデジタル技術活用で実現しています。さらに、「陣屋コネクト」を外販し現在では500施設以上に導入され宿泊業という業態にとどまらず事業拡大を進めています。
 海外ECサイトのプラットフォームを活用することで中小企業なども海外市場に容易にアクセス可能で販路拡大の機会につながっています。日本を訪れる外国人観光客に帰クラウドなど安全性やセキュリティが担保されたサービスを自社でサーバーなどを整備する場合と比較し低コストで利用できます。円安を追い風に訪日外国人観光客に日本の良さをアピールし帰国後も日本の製品を買ってもらうのです。訪日観光をきっかけにすることで日本の良さを知っていただき、帰国後も継続的なビジネスへとつなげ、口コミをつくるほどの継続的な長期的関係構築に努めるのです。
 日本が目指すべきはデジタル赤字の解消ではなく、日本の強みとデジタルの融合です。海外事業者のデジタルサービスを活用し、付加価値の高い製品・サービスを提供できればデジタル赤字が拡大してもデジタル基盤分野以外の貿易で稼ぐことができます。海外事業者のデジタルサービスが日本では使えないものであれば日本のIT企業は真剣に日本に見合ったITツールを開発すべきです。単なる生産性の向上や既存ビジネスの変革といった守りのDXにとどまることなく、新規事業・自社の取り組みの外販化や新製品・サービスの開発/提供といった攻めのDXが求められています。日本版ITツールが海外でも通用するものならデジタル赤字の解消にもつながるはずです。

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