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メリークリスマス フォーユー 【短編小説】扉①

となりの扉①


メリークリスマス

季節外れのこんな時期に何を言ってるんだ。


もう何もかもめんどくさくなって、

部屋の片隅でほこりにかぶったままの

小さなクリスマスツリーを見て思う。



それは11月のことだった。

「ねぇ?可愛くない?」

そういって私はクリスマスツリーを手に取った。


よくある卓上のタイプで

電源を入れるとブルーのライトに光る。


「お!いいじゃん、買おうよ!」




部屋でほこりをかぶったクリスマスツリーを見ながら、

古い記憶を呼び覚ます。


「嘘つき!」


よくあるパターンで、


よくある展開。


誰に話しても記憶に残らない。



彼には大切な人がいた。

そうわたしよりもね。


クリスマスツリーの精がいたら何ていうんでしょう。


長い間愛してくれてありがとうございます


とか?

皮肉でしかない。



それからクリスマスツリーは、7ヶ月以上この部屋にいる。



「ブルーでよかったじゃない、ピンクよりマシ」

仕事場で唯一事情を知っている優羽が、そういった。

「どういうこと?」


「どういうことって、1人で部屋にいる時にピンクのクリスマスツリーが置いてあるとこ、想像してみて?」




返す言葉がなかった。


「7ヶ月前の自分にお礼言っといたら?冷静な選択をありがとうございましたってね」



頭の中がハピハピしてなかっただけマシよ。


落ち着いた声で優羽にそう言われた。





私はハピハピしてたんですけどね。


ちょっとムッとしながらも、

冷静な自分が優羽の指摘に、確かになと納得した。



それが、

なんか悔しかった。





それとも7ヶ月前のハピハピした私は


すでに気づいていたのだろうか。



このハピハピは長く続かないと。




ブルーのクリスマスツリーを思い出しながら、


空想にひたる。


ピンクのクリスマスツリーにしなかったのには訳がある。

正直、
4つ年下の彼に引け目を感じていたところもなくはない。




ハピハピ脳の私は

ピンクのクリスマスツリーにひかれなかったわけではない。




ただ、ピンク イコール 子供っぽい


に、年上のプライドが抗えなかった。




こんなことなら、

もっとわがまま言っとけばよかった。





事務机を見つめながら、


ふとため息をついた。








もう暑いからと、つけはじめた仕事場の冷房が、思考から私をはぎ取った。



考えても仕方がない。


もう終わったことだもの。




彼と私のことを思って決めた


ブルーのクリスマスツリーを思う。






早く帰りたい。


誰もいなくても、


あの部屋へ。


sub title 茜のクリスマス




続き


ささいすぎる出来事をつないでく小説

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