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『パラサイト 半地下の家族』 "匂い"という刻印が物語る差別意識

2019年/韓国
原題:Parasite
監督:ポン・ジュノ


格差社会とは、収入や財産によって人間社会の構成員に階層化が生じ、階層間の遷移が困難である状態になっている社会。 このことは社会的地位の変化が困難、社会移動が少なく閉鎖性が強いことを意味している。 格差社会は社会問題の一つとして考えられている。(Wikipediaより https://ja.wikipedia.org/wiki/格差社会 )

(ネタバレ:ストーリーについて言及していますのでご注意ください)

格差社会の問題は社会的階層間の移動が困難なこと。

もし全員に平等にチャンスがあって、努力によって社会的階層を移動することが容易なら、格差はある程度許容されると思う。

でも現実はそうではない。
チャンスは平等に与えられるわけではないし、社会的階層の遷移は簡単ではない。そしてそれは悲劇が生まれる要因にもなる。


映画『パラサイト』では、異なる社会的階層で生きる半地下に住む貧しい家族高台の高級住宅に住む裕福な家族が出会い、そこから生まれる喜劇と悲劇が描かれる。

半地下に住む家族の長男ギウは、友人の紹介で高級住宅に住む娘の家庭教師になる。ギウはそれを足がかりに雇い主を騙し、父を運転手、母は家政婦、妹ギジョンを家主の息子の家庭教師として雇わせることに成功する。
もちろん家族であることを伏せ、身元は偽装している。

一方、社会的階層の上層である家主の生活は、恵まれているがある意味滑稽だ。
自分と似たような生活をしている人間に囲まれている彼らは、彼らの価値基準以外の世界を知らないし興味もない。
だから下層で生きる半地下家族に簡単に騙される。


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半地下家族の「パラサイト計画」は成功したように思えたが、思いもよらぬ展開が待ちうける。
実はこの高級住宅の「地下室」には彼らよりも前に「パラサイト」をしている住人がいたのだ。

地下室の住人は半地下家族が追い出した元家政婦の夫。
男は借金取りに追われており、妻である元家政婦が夫を地下室に隠し住まわせていたのだ。
有名建築家が建てたこの高級住宅の地下室の存在は、現家主が家を購入する前から住み込みで働いていた元家政婦だけが知っている秘密だった。


さて、半地下家族の詐欺が、元家政婦と地下室に住む男にバレたことで「半地下家族のパラサイト計画」は思いもよらない事態に陥っていく。

違う世界で生きていた会うはずもない各社会的階層で生きる面々が悲劇の出会いをするのだ。その舞台は家主の息子の誕生日会。
上層の人々が優雅にガーデンパーティーを行なっている最中に惨事が起きる。


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作品では登場人物の社会的階層の違いを住む場所の高さで表現している。

「高台の高級住宅」→「地上が半分だけ見える半地下」→「最下層である地下室」という具合に。


ところで、水は高いところから低いところに流れるものだ。

この自然現象も社会階層のメタファーとして描かれる。

劇中、大雨の中ずぶ濡れになって逃げる半地下家族や、その雨によって、低い土地ゆえに水没してしまう半地下の家がそれだ。


また、上流の水は清潔で美しいが下流に行くほど水は濁り、最下層に流れ着くころには泥水だったり汚染された水になる。

高い場所に住む「持てる者たち」は美しい水しか知らない。
もしくは美しい水しか見ないようにして生きている。

一方の低い場所に住む「持たざる者たち」にとっては泥水が日常だ。

そしてそこから抜け出すことを夢見ている。
時には身銭を切って美しい水で身を洗い体裁を整えてみても、泥水の匂いを消すことはできない。

この「匂い」がこの作品での格差の象徴となる。


雇い主は運転手である半地下家族の父の匂いを「古い切り干し大根のような匂い、あるいは地下鉄の乗客の匂い」と表現する。

この言葉を聞いてしまった半地下父は静かにそして深い怒りを覚える。

消すことができない「匂い」は言わば刻印。
一度ついてしまうと取り除くことは難しい。
そして悲しいことに、匂いをまとった当の本人は、馴染み過ぎたそれに気がつくことはない。

この下層特有の刻印は別の社会的階層への遷移を妨げ、それが絶望を生み、やがて怒りへと形を変える。
そしてその怒りは身近にいる自分とは異なる階層で生きる人間に向けられることになる。

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話を戻すと、惨事の始まりは半地下家族との争いで頭を打撲した元家政婦の死だ。

怒り狂った夫は長年潜んでいた地下から地上に姿を現し「持てる者たち」が集うガーデンパーティーで殺戮を始める。

まずは、ギウの頭を石でかち割り、主役である家主の息子の家庭教師としてパーティーに参加していたギジョンを刃を向ける。

そして男は娘を助けようとした半地下母ともみ合いになり、刺し殺される。

この恐怖の殺戮劇の中、家主は倒れた地下室男の背中の下にある車のキーを拾おうとする。その瞬間、男から漂う「匂い」に顔をしかめる。

地下室の男が放つ強烈な「匂い」は家主が内心蔑んできた下層への差別の象徴だ。
これを目の当たりにした半地下父は、衝動的に雇い主を殺してしまう。

殺人者となった半地下父は、事件が起きた高級住宅の地下室に身を隠した。
彼はついに、最下層であるその場所にたどり着いてしまった。



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惨劇後、地下室の男に石で頭を殴られたギウは脳に障害が残ってしまう。
ギジョンは刺された傷が原因で死んでしまった。
母とギウは数々の罪で起訴されたが正当防衛が認められ執行猶予になり、二人でひっそりと暮らしている。

そして父はまだ捕まっていない。

結局、半地下の家族は上層である高い場所へ這い上がることはできなかった。


多くを失ったギウは地下室で暮らす父に手紙を書く。

今日計画を立てました。
根本的な計画です。
お金を稼ぎます。
稼いだらまずこの家(父が隠れて暮らす地下室がある因縁の高級住宅)を買います。
父さんはただ、階段を上がってください。
その日までお元気で。


この計画を成功させるためには高いところに辿り着かなければならない。
「匂い」を身にまといながら進むしかない。どんなに険しくても、流れに逆い、下流から上流への道のりをただ行くしかないのだ。

ギウの決意が哀しくやりきれない気持ちになるラストだった。

トップ画像:パラサイト公式サイトより引用 
http://www.parasite-mv.jp


(day49)


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