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『Love Letter』 忘れたくない想いとか

Love Letter
監督:岩井俊二 主演:中山美穂・豊川悦二
1995年 映画( フジテレビジョン・ヘラルドエース )

Prime Videoで「Love Letter」を鑑賞。

この映画、いったい何回観ただろう。
鑑賞するたびに号泣してしまう。

物語の主人公は、亡くなった恋人「樹」を忘れられない博子。
そんな彼女を愛するアキバは樹の登山仲間で、共に登った山で彼を失った。
二人の関係は痛くてせつない。

そして、この物語にはもう一人の樹(イツキ)が登場する。
彼女の存在が物語の重要なカギとなるのだ。

彼女は樹と同姓同名で中学時代の同級生。
この二人、「イツキ」と「樹」の思い出がこの物語のもう一つの柱だ。
(ややこしいので、ここでは博子の死んだ恋人は「樹」、もう一人の同級生の女性は「イツキ」と表記する)

樹つながりの博子とイツキ。
出会うはずもなかった二人が奇妙な文通で繋がっていく。
しかし、博子は樹が亡くなったことをイツキに伝えず、よって彼女は樹がこの世に既に存在しないことを知らぬままに、中学時代の樹の記憶を掘り起こす。

この映画が公開された1995年はもちろんスマホなんかなくて、携帯電話も持っている人の方が少なかった時代だ。手紙でのやりとりが特別なことではない。

ところで、手紙のすごさは伝えたいことが相手に届くまでタイムラグがあることだ。相手に気持ちを伝えるのに時間がかかるからこそ得るものがある。
タイムラグが様々な思いを育てることに貢献し、自分の気持ちを見つめ直し、他人の気持ちを思ったりする時間が生まれるのだ。

SNSなどで容易に他者との繋がることのできる今とちがって、それらがなかった時代はすれ違いが起きやすい。人と丁寧に人と向き合う必要があり、そしてそれは関係に深みをもたらした。


ともあれ、博子の傷はなかなか癒えない。
それでもゆっくりと流れる時間の中で、深い喪失感を抱えながらも、少しづつ前に進んでいく。

「おげんきですかー?」


博子が樹が死んだ山に向かって叫ぶシーンは涙なしでは観られない。

博子の恋人だった樹、つまり成人した樹は映画には登場しない。
だからこそ鑑賞する側は樹がどんな男だったのかものすごく想像する。
博子がイツキを通して中学時代の樹を知ろうとしたのと同じように。

一方、イツキは博子のために同級生だった樹との思い出をたどる。
その過程で、彼が実は亡くなっていたことを知るだけでなく、いつもそっけなかった「あの」樹が中学時代に自分に寄せていた想いに気づくのだ。

樹はイツキに恋をしていた。

樹の想いが遠い昔の想いが時を経てイツキに届く。
今更だけど、いや今更だからだからこそ心を締め付ける。


一方、樹に「一目惚れ」だと口説かれ恋人となった博子は、イツキの容姿が自分と良く似ていると知り、なんとも言えない複雑な気持ちになる。残された博子の心の揺れもせつなく心に染みてくる。


この映画は刺激的な映像や劇的な展開があるわけではない。
ただ、静かに、亡くなった人物への想いや思い出が綴られる。

そして映像が美しい。
博子とイツキ二役を演じた中山美穂も美しい。

「Love Letter」
今回も、心の柔らかいところに静かに触れるかんじ。
私にとって、日頃忘れがちな、でも忘れたくない何かを感じることができる作品のひとつなのだ。



写真:あのころの桜

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