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映画・ドラマのレビュー

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映画・ドラマ・ドキュメンタリーなど鑑賞した映像のレビューと、作品から感じたことを綴ります。(ネタバレあります)
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2020年5月の記事一覧

『レイトオータム』 伝えたいことは言葉では伝わらない

2010年/韓国・香港・アメリカ合作 原題:Late Autumn 監督:キム・テヨン 「愛の不時着」からの韓国映画。 ヒョンビン主演の別の作品を見たいと思い鑑賞した「レイトオータム」 こちらは「愛の不時着」とはまったく別の世界観。 とても静かで大人の作品。 --- アンナは夫を殺害した罪で服役している中国系アメリカ人。 ある日母親の訃報が届き、模範囚だった彼女は葬儀のために3日間だけ外出が許される。 そして実家があるシアトルに向かう途中のバスで「エスコート・サ

『息もできない』 涙とくそったれ

2008年/韓国 原題:Breathless 監督:ヤン・イクチュン 「息もできない」 心にズシリと重たい作品。 幼い頃、父親の暴力によって母と妹を失った借金取りのサンフン。 暴力的な父、弟と暮らす女子高生ヨニ。 社会の底辺で生きる傷を負ったこの二人が偶然出会い、少しづつ心を通わせる。 そして、心を開ける相手がいない二人にとって、お互いの存在は闇に現れたかすかな光となっていく。 しかし、これは束の間の喜び。 負の連鎖は止まることなく、最後は悲しい結末を迎え

『愛の不時着』にハマる理由と、ドラマからみる理想の男性像

今まで韓流ドラマはほとんど観たことがなかった。 長きにわたりNetflix人気TOP10入りの「愛の不時着」もいかにもメロドラマなタイトルで敬遠していた。 でも巷であまりに評判なので興味本位で観始めたら最後、どっぷりと「愛の不時着の世界」にハマってしまった。 そして鑑賞し終えた今、胸のざわつきが止まらない。「愛の不時着」のメイキング映像やハイライトシーンのダイジェストまで、Youtubeでほとんど見尽くしてしまう典型的ロス症状だ。 ともあれ、この熱が冷めないと他

『LIFE!』 今いる場所から見える景色は、本当に見たい景色なのか

当たり前だが世界は広い。 だけど、日々の生活に追われ狭い世界で日常を生きている。 未知の世界へのことを考えるとワクワクするが、つい行動は後回しになる。 そうしているうちに無為に日々が過ぎていく。 最近、巣ごもり生活が続くせいか少しエネルギーが低下しているので、元気がでる映画をと思い「LIFE」を観た。そして思いの他心を揺さぶられた。 映画を観て感じた気持ちを忘れないためにも、熱が冷めないうちに書いておきたいと思う。 『LIFE』2013年/アメリカ 原題:The S

『シュガーマン 奇跡に愛された男』 人生はだから面白い

2012年/スウェーデン・イギリス合作 原題:Searching for Sugar Man 監督:マリク・ベンジェルール 伝説のシンガーソングライター、ロドリゲスのドキュメンタリー映画。 1970年代、ロドリゲスは類希な才能を認められアメリカでレコードデビューを果たす。が、曲はまったく売れず。 しかし、地球の裏側で奇跡が起きていた。 アメリカで誰に知られることもなかったロドリゲスの曲が、遥か彼方、アパルトヘイト下の南アフリカで絶大な支持を得ていたのだ

『キューティー&ボクサー』 愛と憎 そして戦いは続く

2013年/アメリカ 原題:Cutie and the Boxer 監督:ザッカリー・ハインザーリング (トップ画像:by 篠原乃り子) NY生活40年の前衛芸術家「篠原有司男」と、その妻「篠原乃り子」の日常生活を4年に渡り密着したドキュメンタリー映画。 この映画は、芸術家夫婦の風変わりなLOVE Storyと銘打っているけど、個人的には妻乃り子の苦難に満ちた人生を表現した、彼女のためのドキュメンタリーだと思っている。 愛すべきキャラクターとして登場する夫の有司男は、

『歩いても 歩いても』 家族というカオスについて

2008年/日本 監督:是枝裕和 出演:阿部寛・夏川結衣・樹木希林・YOU 他 15年前に他界した長男の命日。 年老いた両親が暮らす実家に、次男・長女の家族が帰省する。 長女(ちなみ)は、実家を二世帯住宅に改装して一緒に住みたいと考えていて、母親のご機嫌をとることに余念がない。 次男(良多)は、夫と死別した子持ちの女(ゆかり)と結婚し家庭を築いたものの現在失業中。そして失業の事実を両親、特に父に知られたくないがゆえにつまらない嘘をつく。 一方、町医者だった父は相変わらず

Netflixオリジナル 『マイ・ストーリー』 希望は変わり続けることで生まれる

マイ・ストーリー 監督:ナディア・ハルグレン 2020年 ドキュメンタリー( Netflix ) 前米国大統領夫人であるミッシェル・オバマの自叙伝「マイ・ストーリー」の出版講演ツアーを密着したドキュメンタリー映画。 「米国大統領夫人という立場がどれほどの重責で、どれほど自分自身と自分の日常を犠牲する必要があるのか。」 そのことについて真面目に考える機会もなければ関心もなかった。 しかし、夫のキャリアによって激変した彼女の人生を垣間見るにつけ、彼女が激しい葛藤の

『パーマネント野ばら』 心やさしい女たちの、逞しくも切ない物語

2010年製作/100分/日本 原作:西原理恵子 監督:吉田大八 出演:菅野美穂・江口洋介・夏木マリ・小池栄子・池脇千鶴 他 主人公なおこ(菅野美穂)は、バツイチ、子持ち。 お母ちゃん(夏木マリ)が経営する田舎町の美容院「パーマネント野ばら」を手伝いながら暮らしている。 「野ばら」は近隣の人々の社交の場だ。 世間話のみならず、恋の話や男の話(かなりエグい)をあけすけに語り、皆で笑あう。男で苦労しているくせに恋せずにいられない懲りない女たちが集う場所なのだ。 その中に

「ジュリエット・ビノシュ」が出演する映画 おすすめの3作品

ジュリエット・ビノシュは1964年生まれのフランスの女優。 「ポンヌフの恋人」「トリコロール青の愛」「存在の耐えられない軽さ」「イングリッシュ・ペイシェント」などの代表作の他、数々の映画に出演しています。 ここではこれらの代表作ではなく「日本ではあまり知られていないけどオススメ」な作品を3つ紹介します。 1. トスカーナの贋作『トスカーナの贋作』 2010年製作/106分/フランス・イタリア合作 原題:Copie Conforme 監督:アッバス・キアロスタミ 物語

Netflixオリジナル 『ハリウッド』 語るべき物語は誰もが持っている

ハリウッド Season 1 監督:ライアン・マーフィー 2020年 アメリカドラマ( Netflix ) Netflixのドラマは見始めると止まらない。 5月の新着ドラマ「ハリウッド」も御多分に洩れず。 このドラマはテンポがよくて軽快。 「夢を叶える」「自分に正直に生きる」というテーマが物語の軸となる。 舞台は第二次大戦後のハリウッド。 映画スターを夢見たり、監督や脚本家として映画を作ることに情熱を注ぐ人々が登場する。彼らはダイバシティに富んでいて、白人は

『さざなみ(45Years)』失望に似た悲しみについて

『45 Years』(邦題:さざなみ) 監督:アンドリュー・ヘイ 2015年 イギリス映画 出演:シャーロット・ランブリング, トム・コートネイ 結婚45周年のパーティーを控えたある日、穏やかに暮らす夫婦の元に一通の手紙が届く。その手紙によって、夫ジェフは過去に引き戻され、妻ケイトは心が乱されていくというお話。 この手紙がきっかけで、ケイトはジェフの過去やそこに秘められた気持ちを知るだけでなく、過去を未だに引きずっている夫の姿に打ちのめされることになる。 45Ye

Netflixオリジナル 『ザ・クラウン』 王女の孤独 心の叫びがせつない

ザ・クラウン THE CROWN Season3-10 心の叫び 原作・制作:ピーター・モーガン 2019年 ドラマ( Netflix ) Netflixオリジナルの中で一番好きなドラマが「ザ・クラウン」。 英国王室を舞台に、女王エリザベス2世とロイヤルファミリーの人生を描いたこのドラマは、Season3からキャストを刷新。 在位中の女王をはじめ、現在活躍しているロイヤルファミリーをこうも忖度なしにドラマ化するのは日本の感覚から考えると驚きだが、王室の人々の内面を