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【長崎新聞連載③】 あなたの福祉を教えてください

東京の無印良品で買い物をしていたとき、レジ横の小冊子を思わず手に取った。「きみも福祉の仕事してみない?」というタイトルで、世田谷区が発行したもので、編集は雑誌のBRUTUS。その冊子を読みながら、福祉の仕事の重要性だけではなく、魅力をもっと理解したいと思った。

長崎に戻って、長崎みんな総研の福祉担当リサーチャー貞松徹さんにその冊子を手渡しつつ、改めて福祉について話を聞いた。貞松徹さんは社会福祉法人ながよ光彩会の理事長をつとめている。特別養護老人ホームなどを運営しているだけでなく、福祉のことを身近に感じてもらうために様々なことに取り組む人だ。

左から貞松徹さん、その息子、筆者

取り組みのひとつが、グループホームの一階で運営している「みんなのまなびば み館」事業だ。み館では、施設のスタッフや利用者、そして地域の人たちだれもが先生にも生徒にもなれる「きょうしつ」が開かれている。ある時はタイ出身のスタッフがタイ料理の先生をつとめ、別の日は華道の先生だった施設の入居者が華道教室を開く。魚を捌くのが得意な中学三年生が先生となり「さかなを三枚におろす教室」を開く日もある。

だれもが教え合い、学び合い、楽しみ合いながら、そこで身につけたスキルは、生徒たちの各家庭で実践される。そうやって自然と、困ったときに助け合う土壌ができていく。その取り組みの話を聞いたとき、これも福祉なのかと自分のなかで福祉の概念が広がった。

ほかにも数年前に貞松さんが視察で訪れたスウェーデンで経験した、印象的な出来事を教えてくれた。福祉について街頭でインタビューをしていたときにたまたま出会った23歳の女性に自国の福祉について意見を求めたところ、意外なこたえが返ってきた。

「スウェーデンはこれまで移民を受け入れてきたが、今後は受け入れないという姿勢を示している。隣国がSOSを出しているときに助けない。スウェーデンの福祉はそれでいいのか?」

彼女にとっては、移民を受け入れることも福祉なのだ。その根底には、誰かがSOSを出しているときに助けることが福祉なのだと、彼女なりの定義がある。翻って、日本は、長崎は、私はどうか。「あなたの福祉を教えてください」そう問われたときに明確なこたえを返せるだろうか。

そんな経験から、貞松さんは長崎で「あなたの福祉を教えてください」と問いかけたいと考えている。問いを通じていろどりゆたかな福祉の事例が集まることで「それも福祉、これも福祉」と福祉の概念が広がれば、多くの人が福祉と自分とを結びつけて考えることができるはずだ。

100人100通りの福祉があるまち。そんなやさしいまちになれば、住みたい人も増えるのではないか。少なくともわたしは、そんなまちに住みたい。

どうでしょう。それもアリだと思いませんか?

長崎みんな総研 所長の鳥巣智行が長崎新聞で連載している「それもアリ研究所 長崎の魅力を磨け」に寄稿したものです。


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