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Vol.1 私たちと鯉食文化

記念すべきVol.1では、鯉食文化の現在地と未来について追加取材を行いました!
郡山市では馴染みのある鯉食ですが、馴染みのあまりない方も多いはず。
ぜひ記事を読んで一緒に鯉食について考えてみてください!

そもそも鯉食とは?

鯉食の歴史
海に面していない郡山市では農業用の「ため池」が多く存在した上、明治時代に安積疏水が完成したことで猪苗代湖からミネラル豊富で綺麗な水が引かれるようになりました。
同時期に、養蚕業も盛んだった郡山市は繭は糸に、サナギを鯉の餌にすることで鯉食が盛んになっていきました。
お祝い事や晴れの日の料理として「あらい」と呼ばれる刺身や「鯉こく」と呼ばれる味噌汁にして振る舞われたそうです。

地元の人は食べたことがあるのか?

実際に鯉食について地元の身近な人たちにヒアリングをしてみました!

・福島民報郡山本社営業部Sさん(30代男性・郡山市田村町出身)に聞いてみた
⇒料理が好きな祖母が作っていた思い出がある。しかし、実際に食べたことはない。
・友人Hさん(20代女性・郡山市富田町出身・在住)に聞いてみた。
⇒甘煮は好きで買うことはある。高校の頃は家でも月に一回は出てきた。おじいちゃんが好きで一緒に食べていたが、おじいちゃんが亡くなってからは私だけ3ヵ月に一度くらい食べている。すでに調理されてるものを食べています。
・Hさんの友人Aさん(20代女性)
⇒甘煮やあらいは年に一度食べるかどうかです。
・Hさんの友人Bさん(20代女性)
⇒学校の給食以外で食べたことはないです。

と鯉への馴染みはまちまち。地元の人でも食べるかどうかは家庭によるのかもしれません。

鯉食の未来を考える

私たち消費者は「鯉食」とどのように接していけば、向き合っていけば良いのか? 〜結局鯉をどうしたいのか問題〜

「2032年の福島民報」では鯉が人気となり、サーモンやマグロと並ぶ人気の魚になり、鯉料理を扱う飲食店が倍増!などといった地域の人に身近で愛される魚となる未来が描かれました。これは、郡山市で生産量一位である鯉が、もっと郡山市民や福島県民に愛される魚になってほしいという願いを込めて作った「決意表明」の記事です。
記事を世に出して半年。願いを現実にしていくため、鯉食に関わる人たちに半年でどんな進捗があったのか、どんな課題と直面しているのかを取材しました。
(取材者:福島民報社郡山本社営業部兼未来創造局 藤沢美沙)

聞いてみた

①:飲食店と鯉食

2032年の福島民報にも登場していただいた「居酒屋安兵衛」の店長早川さんにお話を伺いました。

藤沢:「2032年の福島民報」では新しいレシピを考案する姿が暗示されています。直近で新しく開発したレシピはありますか?
早川:不定期メニューですがつくねやさつま揚げにして提供しています。意識したのは「骨っぽさ」や「生臭さ」が出ないようにすることと、居酒屋らしいメニューであること。新しい食文化になってほしいと思いながら日々創作しています。

藤沢:鯉メニューの開発にかける情熱はどこから出てくるのでしょうか。
早川:正直「鯉食の文化を広めたい」という気持ちがないと難しいと思います。私は地元郡山の飲食店だからこそ郡山で「一番」生産されている鯉を提供して、食文化として伝えていきたいという気持ちがあります。福島で「一番の物」って珍しいんですよ。それを使わない手はないと思う。調理法が難しいとか価格が高いとか、色々デメリットはあるけど飲食店の人は一回食べてみてほしい。その上で勉強になるかどうかは料理人の腕にかかっているとも言えるし、お店のカラーになってお客さんに愛される可能性もあると思います。

藤沢:長年鯉を提供してきたと思います。お客さんからの反応に変化はありましたか?
早川:認知度は年々高まっていると思います。駅前に立地していることもあり、地元以外の人にも「食べたことないから」という理由で老若男女問わず食べてもらっています。知らない人に知ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。

②:郡山市と鯉食

郡山で鯉食を推進して7年という大ベテラン!郡山市農林部園芸畜産振興課6次化・輸出推進係兼鯉係(取材当時)小林さんにお話を伺いました。

藤沢:ここ数年で飲食店で鯉を提供するお店も増えているとは思いますが、そのあたりについてはどうでしょうか。
小林:実際浸透はしてきたように思いますが、まだまだランチで気軽に食べられる感じではないですね。もっと気軽に食べられるところを増やしていきたいなぁと思っています。

小林:鯉を普及させるカギは「インド」にあるんじゃないかと個人的には思ってます。
藤沢:インド!?
小林:ベンガル地方ではよく鯉がカレーとして食べられるんです。鯉がブツブツ切ってあって、手で食べるみたいな。骨も手で取っちゃうから食べるのも簡単。「鯉のジョル」っていって、最近オンライン販売も始めました。カレーが好きな方はスパイス調合して自分で作るじゃないですか、だから今度は鯉の切り身だけを販売しようと動いてます。(参照:こちらで販売予定です。https://kumadasuisan.base.shop/items/61788420
小林:スパイスカレーと鯉って合うと思うんですよね、ここに新たな可能性を見出しています。今の方って甘露煮って、あんまり馴染みがないと思うんです。コンビニなどでカレーフェスをやっていたりしますが、スパイスカレーってここ数年で一気に身近になったっというイメージがあって。インドの流れが来ているんじゃないかなって個人的にですが思っています。この間もベンガル人で埼玉に店出してる人が郡山の鯉買いたいって連絡あったんです。

藤沢:つながりは県内外に広がっているんですね。海外といえば欧州でも鯉を食べていると聞いたことがあります。
小林:ハンガリーですね。鯉をスープで食べたり、クリスマスに食べる文化があります。そういう文化があるので、日本伝統の食文化はもちろん大切にしつつ、鯉の新しい食べ方として、各国の料理を紹介して、新たな鯉の魅力というか、食文化が根付いていけばと思います。
藤沢:全世界の鯉料理が一堂に会するみたいな機会があったら面白いですね!他の国の方の鯉との距離感も知りたいですね。

③:食の研究と鯉食

これまでたくさんの鯉レシピを開発してきた郡山市の日本調理技術専門学校の田中先生(日本食担当・左)と広報の石井さん(右)にお話をお伺いしました。

藤沢:これまで開発した鯉のレシピの中で、一番皆さんに食べてもらいたい!というレシピは何ですか?
石井:給食でも人気だったんですけど、揚げるやつ※ですかね。あれかな。スパイス風の衣であげるのが1番食べやすいし。
ただ、そうなるとこういうのって切り身で売ってるの?みたいな話になるんですよね。
アジフライは家でやるけど、鯉フライはそもそも鯉が売ってないからやらない。でも、食べ方としては1番食べやすいかな。
※2022年8月に開催された「サマーフェスタ」で実際に「スパイシーフライドカープ」として販売されました。この半年でもイベントや催しのたびに新たなレシピが開発されているようです。

藤沢:逆に「特別な料理」として年に一回くらい食べるとしたらどんな調理法がありますかね。
石井:年に1回とかだと、個人的な感想ですけど、中国の一匹まるまる使う鯉の料理ありますよね。ああいうのかな。
田中:それこそ鯉は中国では縁起のいい魚として食べられています。「登竜門」って鯉が滝を登って竜になったっていう伝説もあります。食文化を残すという意味ではいいですよね。
石井:鯉はダシは取れるんですか?
田中:それが、鯉こくなんです。
石井:鯉だしを使った鯉ラーメンとか、鯉ブシにするとか…。そういうのを研究する会があってもいいかもですね。

藤沢:鯉食について日々レシピを更新されていると思います。そんな中で課題だと感じるところはありますか?
田中:鯉に限らずその郷土料理、その土地に根付いた料理ってあるじゃないですか。それって歴史的な背景とかあるべくしてある理由があって、それが鯉はなんなのかっていうところがはっきりしてない。本来だと、鯉はもっと生産量があって、もっと日頃から地元の人が食べてってなっているはずなんです。実際に「イカ人参」とかはそうじゃないですか、お正月にはみんな誰でも食べるし。これが同じく鯉食が盛んな長野にいくと、スーパーではいつも「あらい」で売られていて、食べられている。 長野は海がないからっていう理由で根付いてるんですが。郡山は疏水が背景にあると思いますけど…。
石井:郷土食という割には、郷土食として昔ながらの食べ方がもうなくなってきて、逆に違う食べ方の提案になってくると、鯉じゃなきゃいけない理由がだんだんなくなってきている感じがしますよね。郷土食だから、今までの歴史文化背景があるからという理由で鯉を食べているっていう地域が残っているけれども…。新しいレシピってどうしても鯉である必要性がない。ちゃんと「郷土食」としての鯉を発信する機会があってもいいのかもしれないですよね。
郡山の開拓の精神で新しい物の方が流行るのかもしれないですけど…。

藤沢:実際に鯉を使って授業をすることはありましたか?
田中:今年の夏に5、6人で鯉をどういう調理法にしたらよいかっていう授業をやってみました。塩やきやつみれにしてみたり、煮たり揚げたり…。新しい素材の研究っていうテーマで鯉を使いました。

鯉への探究心は未来のシェフにも受け継がれているようです。

④:流通と鯉食

郡山で鯉を養殖している郡山市の熊田水産社長、熊田さんにお話を伺いました。

藤沢:活魚は郡山市内で卸しているんですか?
熊田:基本的には卸していない。震災前は一番高い鯉だったのに価格が風評被害もあって下落しちゃって。それ以降は加工品を中心に卸している。震災から10年以上経ってやっと戻ってきたと思ったら餌代が高騰して…。余計に卸しても採算合わないんじゃないかって思います。

藤沢:ひとつ解決したら、またひとつ問題が増えてという感じなんですね。
調理法について、食べられ方についてはどう思われますか?
熊田:鯉の「あらい」は九州から関西でよく食べられていたなぁ。逆に東北は煮魚。でも最近はそもそも魚離れだから…。

藤沢:確かに子供は肉を食べているイメージありますね。
熊田:煮物とかってあまり食べないし、骨があるからさ。 なかなかみんな食えない、食わないよ。食い方がわからないもん。子供さんが食べてないから。子供の時食べたものって大人になっても食べるでしょ。だから食べ方にこだわらないで時代に合わせて食べてほしいとも思います。

藤沢:郡山市内で鯉を買うためにはどこに行けばいいんでしょうか?
熊田:あんまり流通してないかな。鯉の場合調理も難しいし。昔は料理教室みたいなのもやったけど…。なかなかやる人少なくて。

藤沢:でも、オンラインで切り身を売るそうですね。
熊田:最初は少しでもだんだん増えればね。

オンラインショップで切り身が買える時代がもうすぐやってきそうです。

作ってみた:私と鯉食

普段は全く魚を調理しない私ですが、熊田水産さんからご厚意で鯉(煮付け用・骨・鱗あり)をいただきました!(ありがとうございました)
3月の怒涛の忙しさ故、昼休みに調理を決行!!

昼の12時に調理を開始し、13時には次のお客さんのもとに行かねばなりません(移動時間約25分)。

とりあえず下茹で。臭みが取れるかなくらいの気持ちでやってみました。
程よく煮えたらザルにあけて鱗を取ります。

ここで、鱗を取っている間に12時30分になってしまいました…。
一旦この場を離れます。バタバタしすぎて写真がありません…。

そして戻ってきたのが夕方6時ごろ。
な、なんと…。

色づいています…(心配した会社の大先輩が味をつけてくださいました。本当にありがとうございました)。

ちなみに味付けはすき焼きの割下(のみ)です。
鱗を取った鯉に割下を好きなだけ入れて20分煮て、火を止めて終了。

何となくそこに焼肉のたれも投入し、さらに20分くらい煮ました。

気になる
お味は…。

意外とこんなに雑なのに美味しい!!
手間もあまりかかりません。

独特のニオイのあるイメージの鯉ですが、全く気になりません。
程よい味の染みで、これだけでパクパク食べられます。
骨が多いのは難点ですが、美味しい!!

皆さんもぜひご賞味ください!

まとめ

進捗
・流通に向けて一歩前進(熊田水産のオンライン販売)、
レシピ開発など
・関わる人は各々の立場から、広めるために工夫している。
意外と鯉の調理は簡単なのかもしれない。
課題
・流通させたいが、価格を下げることが難しいというネック
・鯉VS他の魚で負ける(価格によるところ大きい)
・「鯉じゃなきゃいけない」を考えた方がいいかも(昔は薬魚と言われていたらしいが…)。→そのためにできることは何か?
・スパイスや味付けで鯉の特徴を消すレシピが多い

オンライン販売などによる販路拡大や味付けを工夫したレシピなど、馴染みのあまりない層に普及させる取り組みがなされていました。
一方で、やはり価格面や鯉をあえて使うハードルなど課題もまだまだある現状にあります。
2032年の紙面が現実になるよう、まずはひとりひとりが鯉食について考えてみる機会が重要です!
ぜひ、下記リンクから鯉食についてのご意見ご感想をいただければと思います!
未来創造局では今後も「鯉食文化」について引き続き追いかけていきたいと思います!


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