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【掌編小説#9】夏の終わりをいつから感じていたんだろう|【夏の残り火 ストーリー】

夏帆かほはいつもの感じで夢中に質問してきた。

「ねぇねぇ!秋人あきとはいつまでが夏でいつからが秋だと思う!?」
「さぁねぇ、いつかなぁ」

ちょっと素っ気ない返事かなと気にしていた時期もあったが、夏帆はお構い無く話してくるので僕の返事がどうであってもあまり関係ないのだろう。とにかく夏帆の話したい事を話終わるまで僕は適当な相槌を打って聞くのが当たり前の様になっていた。

「だってさ、こんなに暑くてめっちゃ夏!って感じなのに、8月7日は立秋でさ、もう秋じゃん!季節ってよくわかんないよね!」
「確かにそうだなぁ」

夏帆と付き合って3年。毎年この話を聞いている。最初は熱心に僕も僕なりに考えた答えを夏帆に伝えたがあまり納得してくれなかった。夏帆にとっては『夏の終わり問題』は永遠のテーマなのだろう。

「わたしは『夏至』が1番好きで1番嫌いだったんだ。
だってさ、1年で1番お日様が出てるんだよ!これこそ夏!夏に至るでしょ?でもあとは下り坂。どんどん日は短くなっていってさ…終わりの始まりの日。だから好きだけど嫌い。なんか寂しいんだよ」
「そっか、それは寂しいなぁ」

多分この話は年に数回聞いている。夏至の時、冬至の時、桜の咲く頃、葉が紅く染まる頃。
夏帆は季節の変わり目を感じては話に夢中になって目を輝かせる。
でも今回はちょっと違った。「『夏至』が1番好きで1番嫌いだったんだ。」と。
いつもは「1番好きで1番嫌い!」と言い切っていたのに。

「秋人っていつもわたしの話を黙って聞いてくれるよね。ありがとう。今は秋が1番好き」

夏の終わりに、最初の頃の愛おしい気持ちとは違うけど、ずっと側にいて欲しいと思う様になっていた。


〈完〉
(698)



今回も誠に勝手ながら藤家 秋様の企画に参加させて頂きました。
楽しい企画をありがとうございます。

【解説という名の言い訳】
「夏の終わり」をテーマに書かせて頂きました。正直なところ、どの様に話を終えるかを迷いました。夏の終わりという事で、お別れすることを考えて最後のセリフも決めていたのですが、何だか2人が可哀想になりこの様な終わり方に変更しました。タイトルは最初に決めていたのでそのままにしています。どちらにしてもいいタイトルかと思いまして。

毎回小説として書いているものが小説と呼べるかは別として、小説っぽいものを書き始めてから今回は全く自分に経験がないところから話を書きました。夏至が好きなのは私の気持ちですが。
夏帆と秋人には幸せになって欲しいなと思います。別れさせようとしてごめんなさい。

読んでくれた全ての人へ!
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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『次の夏至を待ち侘びる者』
ミノキシジルでした。

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