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いち、にい、さん...外国の空手道場

私の長男は空手道場に通っている。
サッカーや、こっちで人気のホッケーみたいな団体スポーツは性に合わないようだったし、よくひとりで空手のような、カンフーなような、ボクシングのような、とにかくアニメやゲームで習ってきた動作を真似してケンカごっこをしていたので、空手に行かせてみたら、案外気に入っている。

日本独特の規律、先輩と後輩の関係性、先生を敬う態度なども大切にしている道場だ。お稽古の始まりと終わりには、先生ひとりひとりに生徒ひとりひとりが挨拶しにいく。これは、日本の学校で部活に通っている方々や、道場で空手のみならず、剣道でも柔道でも、いわゆる道場では日常的な場面なんでしょうか? そうなんだろうね。

中学卒業を機に日本を後にした上に、中学時代もなるべく出席日数が少なくて楽な文系の部活をやっていた私にとっては、未知の世界だ。でもどこかとてつもなく、懐かしい。なんせ私は日本生まれで日本育ち。
もし、日本とスイスがサッカーで試合することになったら、どちらを応援しますか? と聞かれて迷ったことなど一度もない。私にとっての故郷は日本だ。

だから自分のボーイズ2人にも、日本語学校に通わせているし、なるべく日本と関わりを持ってほしいと思っている。日本が好きだから。何が好きって具体的に聞かれると、食べ物とか、礼儀正しさとか、そんな感じの平凡な答えしか浮かばない。でも本当はそんな薄っぺらいものじゃない。
ただ日本って国が好きなんだ。この国の難しさ、裏表がある人間関係の怖さ、政治が腐っているところやおもてなしの裏側の日本人たちの冷たさ。
日本が侍と忍者だけの国じゃないってことは、わかってはいる。
わかっているのに、愛おしい。理屈じゃなく、心で好きなんだ。

そんなこんなで昨日の夜は、長男を空手道場まで車で送り、夫が出張で留守にしているので次男も連れて、買い物した後にまた長男を迎えに行った。
次男くんは小学1年生。小6の兄とは四六時中ライバル関係で、何をするにもどうにかして兄ちゃんに追いつきたい、スキあらば兄ちゃんを超えたい、と躍起になって日々を過ごしている。男の子ってみんなこんなもんなんだろか。
この日も兄の空手の稽古を一生懸命見学していた。
すると突然、次男が言い出した。

「この空手の先生、四の言い方間違ってるよ!」
「え~、そんなことないでしょ。」
先生の数え方に耳を澄ましてみた。

「いち、にい、さん、チィ!」
「ほら! あの人チィって言ってるよ。ねえママ、いち、に、さん、し、でしょ?」
「え、でもさ、しい! って言ってない?」

周りには自分と同じく子供を待つお父さんがいて、私はなんだか先生に対して失礼だなと思いつつ、次男が言っていることも間違っていなかったのでどう対応してよいか迷ってしまい、なんとかこの場をはぐらかそうとした。

そうすると、隣に立っていたそのお父さんが言った。
「そうだよな。君は正しい。それにさ、聞いたか? ここの先生、はじめって言わないでな、はちめ、って言うんだぞ。間違ってるよな?」

もちろんそのお父さんも日本人ではない。
どこかで日本語を学んだんだろうか。
いいおっちゃんだったな、と隣で聞いていた母は思ったのだった。

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