ポートランドに学ぶ街づくり#1、街のスローガン“Keep Portland Weird”の3つの効果
こんにちは、「幸せに働ける人・地域づくり」をライフテーマにしているミノです。
私は過去3年間で全国22都市の働き方改革に携わらせてたずさわらせていただく中で、各住民が街づくりにおいてOwnership(主導権)を持ちづらくなっていると感じていました。
「じゃあ、どうしたらいいのか!?」という自身の問に、知識が入っていない頭をひねっていても何も出てこない。そう考えた私は、今年の年末にに住民参加型の街づくりで有名な米国ポートランドへ飛びました。
こちらでは、現地で感じたことを、全5回の連載で綴っていきます。
第一弾の今回は「街のスローガン“Keep Portland Weird”の3つの効果」についてです。
ポートランドの求心力となるスローガンとは?
ポートランドでは、街のスローガン的な言葉として、“Keep Portland Weird”というものがあります。
「ポートランド、ずっと変わり者のままでいようよ」という意味です。
このスローガンの誕生経緯を探ってみると、2000年ごろに他州のスローガン「Keep Austine Weird(オースティン、ずっと変わり者のままでいようよ)」という言葉がありました。
それを、ポートランド市内の事業者がもじって“Keep Portland Weird”という言葉を作り、2003年ごろに市内の広告で利用したのが初めと言われています。
当時は、単なる広告でしたが、徐々に住民への共感を得て、自然拡散していきます。例えば、市民は“Keep Portland Weird”と書かれたステッカーを、車や自転車の車体に貼ったり、公共施設やメトロの壁画でもデザインとして取り入れていくなど。
現地の知人いわく、わずか数年で街なかのいたるところで見かけるようになったとのことです。
ビジュアルでの拡散だけでなく、この言葉は、実際に人々の心にも浸透していました。
例えば現地でお会いしたポートランド生まれ・ポートランド育ちの知人の話があります。
彼がフェイスブックなどのSNSを、やっていないと言うので、私は「この時代にSNSをやっていないのは珍しいですね、あなたは変わっていますね^_^」というような言葉を口にすると。彼は「PortlandはみんなWeirdだから。大丈夫なんだ」と笑顔で返答してくれました。
些細な事ですが、このように“(周りと)変わってていいんだ”というようなコメントは、現地の方とお話していると多くのシーンで耳にしました。
街のスローガンが持つ3つの効果とは
私は、街にスローガンがあること、それが行政主導ではなく、住民主導で自然拡大した事例は、あまり聞いたことがありませんでした。
行政関係者からは、週350名の移住者がいるとも言われるポートランド。
それほど多くの人を魅了し、異なるバックグラウンドの人を受け入れられる背景には、このスローガンの効果があるのではと考えました。
1)自身が生きやすい
まずそのように考えた理由の一つ目は、それを口にする住民が生きやすくなるということ。この言葉は自身の「変わった特徴」も受け入れもらえるという雰囲気を生み出します。
ポジティブ心理学(幸福学)の領域では、幸せな人というのは、「自分らしくいられる」という要素が高く満たされるということが証明されています(※)
このことからも、「人と変わっていても自分らしくいられること」を肯定してくれる言葉は、多くの人にとって生きやすい街をつくることに繋がると思いました。
(写真:本屋で自宅のようにくつろぎながら読書にふける二人)
2)住民同士の共創がしやすい
2つの目効果として、共通のスローガンは、人々の心のベクトルを同じ方に向ける効果があります。
ポートランドは、中小企業が多くいる街です。
小さなコミュニティーに、新しい人が多く入ってくると、ビジネス上の利害の衝突が起きやすい状況はイメージできます。
しかし、同じスローガンを持つことで、共通の価値観を確認でき、共創できる基盤が生まれます。そして「(人が言うことではなく)俺達が本当にやりたいことをしよう」と、ベクトルが整いやすいのではと考えています。
3)他の地域との差別化を生み出す
3つ目の効果として、Weird(変わり者)であれというのは、他の地域と差別化も目指そうということができます。
実際に、市内の知人は「経済を元気にすることはシリコンバレーやシアトルに任せて、僕たちポートランド人は、やりたいことをやればいいのさ」と言っていました。
日本の地域の場合は、一番になること、他市に負けないことを良しとする風潮があります。例え札幌市は、同じ政令指定都市て福岡をライバル視しているなど。私はそのような街づくり担当者のコメントを多く耳にしていました。
一方のポートランドは、この言葉があることで、他の地域とは違う豊かさを認め、肯定している。そして、自分たちらしい豊かさを深めていくことを優先しているように思えました。
では、日本でスローガンがある街は?
一方わたしたちの地域では、このようなスローガン、つまり価値観が言語化されたものはあるのでしょうか?
もちろん、企業は、社訓という形で言語化していることは明らかです。しかし、地域サイズでこのようなモットーを持っているエリアはあまり多くないのではないでしょうか?
街のスローガンとは、地域住民の価値観を見える化です。これがあることで地域内の人に共通の価値観を生み出し、共創をサポートできます。
それだけでなく、街のスローガンに共感した人が、外から集まってきて新たな共創を生み出していく。そんな流れがとてもおもしろいと思いました。
日本では、地域外から移住者を呼ぶ際には、子育て手当の充実や、土地代などの提供をアピールする事が多くあります。
もちろん、実際に移住しようと考えると、そのような生活インフラへの手当ても重要です。
しかし現在は、手当(補助金)過多の時代とも言われており、他の地域との優位性や差別化をお金(支援策)で強調することは難しくなってきていると言われます。
そんな時代だからこそ、街のモットーや、そのモットーを信念に持ち活動している人を打ち出していくことは、新しい地域の可能性となるかもしれません。また、そのほうが住民と移住者でのミスマッチも少なくなるかもしれません。
ポートランドの課題
もちろん、今ポートランドは世界中から注目される光の部分だけでなく、多くの影(課題)もあると言われています。
例えば、ポートランドがあるオレゴン州は、消費税のない、全米でも数少ない州のひとつです。しかし近年の人口増もあり、物価や住宅価格が急上昇しています。なんと住宅価格指数の上昇率は全米1位の12.6%。
現地の知人は「今のポートランドでは地元の料理人が、どんなに頑張っても独自資金で市内にお店を開店させることは不可能だ」といいます。
(写真:ダウンタウンにある、老舗のレストラン)
そんな状況になるまでも、全米から多くの人を惹きつけるポートランド。
新しいメンバーがいるからこそ住民が大切にしている価値観を言語化することで、既存の住民も新しい住民も自分たちらしさに気づくことが出来る。そして、さらなる共感者が地域外から集まってくる。
自分たちが当たり前に思っている空気のような雰囲気や価値観を言葉にするなんて、かなり難しいことなのかもしれませんが、そんな流れが、日本中の地域にも生まれたら素敵なだと思いました。
ではでは、最後まで目を通してくださった皆さま、ありがとうございました!今日も素敵な日をお過ごしください(^^)
※幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書) 新書 — 2013
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