学校の方向性:IBという選択肢

前回の記事はこちらから

前回整理する中で、私には手放せない3つのこだわりがあることを書きました。
①キャリアパスが保証された学校であること
②多言語多文化の環境が当たり前の学校であること
③学習者中心の学習環境がある学校であること

この3つが明確になる中で、具体的にどんなプログラムを提供したいかが見えてきました。それが、「IB」です。
今回はIBって何?というところから、何がいいの?というところまで書こうと思います。


IB(国際バカロレア)という選択肢

ここまで、私はたくさんの教育関係のキーワードについて調べたり考えたりしてみました。どれも共感できるカリキュラムやプログラム、指導法、アプローチ方法なのですが、経験上、こうしたキーワードを切り貼りしたところで学校として一貫性のあるカリキュラムを構成するのは非常に難しい。

自らのこだわりを守りながら、説得力のあるプログラムを提供したい・・・

そこでふと、「これだけは無理」と思って避けていた国際バカロレア(以下、IB)に戻ってきたのです。

IBとは

ここで、IBの基本的な情報を引用を用いながらご紹介します。(太字は筆者付)

国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム

国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)は、1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成し、生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置されました。

現在、認定校に対する共通カリキュラムの作成や、世界共通の国際バカロレア試験、国際バカロレア資格の授与等を実施しています。

文部科学省IB教育推進コンソーシアム
https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/

IBとは、
①世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成する
②未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせる
③国際的に通用する大学入学資格を与え、大学進学へのルートを確保する

ことを目的とした国際的な教育プログラムです。

発祥はスイスのジュネーブ。
世界の中立国であるスイスで発祥したのですが、もともとは世界各地を転々としなければならない外交官の子女たちが、どこに行っても一貫した教育が受けれるように、進学に困らないように、と作られたプログラムです。
ゆえに、『IBはエリート教育だ』と評価されることもあります。(なーんだエリート教育かと思った方!ここで読むのやめないでくださいね!笑)

Xにて対象の学齢についても質問をいただいたので、それに回答したのが下記の投稿です。

上記のXの投稿をより丁寧に解説しているのが下記の引用です。(太字は筆者付)

グローバル化に対応できるスキルを身に付けた人材を育成するため、生徒の年齢に応じて、以下の教育プログラムを提供。

PYP (Primary Years Programme)3-12歳
精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能

MYP (Middle Years Programme)11-16歳
青少年に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラムどのような言語でも提供可能

DP (Diploma Programme)16-19歳
所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

IBCP (Career-related Programme)16-19歳
生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

文部科学省IB教育推進コンソーシアム

もともと高校生程度の子どもたちの大学進学を目的として発足したプログラムだったのですが、今では3歳から19歳まで、それぞれの年齢発達に応じたプログラムを提供しています。

インターナショナルスクール等で実施されているプログラムだけに「英語で受けなければならないもの」「英語がネイティブになるもの」思われがちですが、PYP~MYPに関しては「どのような言語でも提供可能」とされています。

IBは決して英語を学ぶ手段ではなく、またPYP、MYPは母語での修得が推奨され、更にDPに関しても多くの科目を日本語で学べ、卒業試験も日本語で受けられる。(「坪谷先生ご発言要旨」より抜粋)

日本におけるIB教育の展望と課題,江里口(2017)

その上で、下記のように多言語教育に関する考え方も明記しています。

PYP校のすべての教師は言語の教師であると認識されます。指導言語が児童の第一言語ではないことがある学校では、言語学習は取り分け重要な役割を担います。母語の発達は認知発達と文化的アイデンティティーの保持においてきわめて重要であるという研究結果があります。また、児童が異文化に対する意識と理解を発達させる可能性を確保し、母国の言語、文学、および文化との接点と誇りを維持することを可能にします。母語の発達度は、他の言語の習得を含め、長期的な学問的達成度の予測における強い指標になります。各言語間の違い、および各方言間の違いに対して敬意を払うように奨励するべきです。

PYPのつくり方:初等教育のための国際教育カリキュラムの取り組み
言語における信念と価値観

PYP校では7歳以上の児童に指導言語以外の言語教育を提供することが必須となっているということです。母語以外の言語に児童が触れることで、異文化理解が広がり、多様なものの見方を認識できるようになります

PYPのつくり方:初等教育のための国際教育カリキュラムの取り組み
言語における信念と価値観

低学齢期の子どもたちにとって、母語がどれだけ重要な役割を果たすかを述べながら、かといって多言語に触れることを否定していない。これはかなり大切なことですが、ここまではっきりと立場を明記しているプログラムはあまり見かけません。

IBは「探求学習」や「全人教育」という点に焦点がおかれがちですが、その最大の特徴は言語に対する姿勢がはっきりしていることでしょう。(私が日本語教師だから余計に気になるのかな…?)

IBプログラムの変遷

IBは高校生向けのプログラムから発足した、と何度か書いてきましたが、ここでどのような変遷で発展してきたのかを簡単にまとめます。

Established in 1968, the International Baccalaureate® (IB) Diploma Programme (DP) was the first programme offered by the IB and is taught to students aged 16-19.

Key facts about the DP

まず、ディプロマ(DP)と呼ばれる16-19歳向けのプログラムがIBの始まりです。初めに述べたように、海外を転々としなければならない外交官子女たちの一貫した教育と大学入学資格の確保のために1968年に生まれました。

The second programme introduced by the International Baccalaureate® (IB), the Middle Years Programme (MYP) was adopted by the IB in 1994.

Key facts about the MYP

つづいて誕生したのがミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)です。1994年に展開されました。日本では平成初期の頃です。(筆者は当時保育園児でした)

The International Baccalaureate® (IB) Primary Years Programme (PYP) was introduced in 1997.

Key facts about the PYP

そして3番目に発表されたのがプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)です。1997年、MYPの3年後です。日本ではこの時期、学校が完全週五日制になったり、いじめ対策が主な教育の話題だったようです。インターネットの接続が始まったり、心と体の健康への関心も高まった時期のようです。いわゆる「ゆとり教育」が実施され始めたのがこのすぐ後でした。(筆者はちょうど小学校に入学した頃。がっつり「ゆとり世代」です!キリッ)

It began in 2006, as the IB Career-related Certificate (IBCC), and was re-launched as the CP in November 2014.

As of September 2023, there are 370 schools offering the CP in 52 countries.

Key facts about the CP

そして最後にキャリア・リレイテッド・サーティフィケイト(IBCC)がスタートし、2014年にCPとして再スタートしたようです。

IBと日本の教育

日本では主にDP、MYP、PYPが主な実施プログラムとなっています。実施校の状況は以下の通りです。

国際バカロレア認定校等数:229校(令和5年12月31日時点)
PYP  認定校 60校 候補校 38校
MYP  認定校 37校 候補校 17校
DP   認定校 67校 候補校 9校
CP   認定校  0校 候補校 1校
*上記はIB認定校等を学校・プログラム単位で数えたものであり、IB機構が公表している校数とは異なる

文部科学省IB教育推進コンソーシアム、「認定校・候補校」

平成25年(2013年)度には、国としてもIB教育を盛り上げようと「日本語DP(日本語で履修できるDPの科目が多いプログラム)」の開発や導入を進め、この時期には公立の先生方も参加できるようなIB教員養成のための研修が多く開かれました。その結果、その直後にはDPの候補校や認定校がぐっと増えました。
おそらく、「IBって聞いことある!」と思った方はこの時期のニュースや新聞から見聞きされた方が多いのではないかな?と思います。

大学入試改革(いわゆる「センター試験」が廃止、「共通テスト」が始まった)が2020年からスタートしていますが、大学の側でもそこに向けてどのような入試をしていくのかという模索がされていた時期です。大学入試においてIB資格やそのスコアを活用するようにと、文部科学省から大学へお達しがあったのもこのくらいの時期だったと思います。

(ここからは肌感覚になりますが、DPが広まってきた後、とにかくDPの認定が厳しくて、まだ手探り状態&比較的自由度の高いPYPの認定に多くのインターが目をつけたという印象があります。まさか国内で60校も認定があるとは思いませんでしたが、同じインターの別校舎での認定も多く、一度認定を勝ち取った学校がそのノウハウを持って各校舎を展開していったのかな、と分析しています。最近では幼稚園でのPYP認定も見かけるようになりました。英語教育をごり押ししているように見える学校も確認できるので、早期教育に乗っかったやつかな…と思っていますが、引き続き動向を見ていきたいです。)

ちなみに、神奈川県内について、参考したサイトの一覧から数えてみると下記のようになります。

  • PYP5校

  • MYP 3校

  • DP 6校(内 日本語DP 3校)

所在地は横浜、川崎、横須賀です。(住所上は東京都内になりますが、小田急線沿線の学校として玉川学園もIB認定校です)

残念ながら、秦野市をはじめとする丹沢地域、ひいては神奈川県西部の住人にとって「通いやすい」範囲にはIB校はありません

なぜ今ここでIBになのか

筆者はこのIBが日本国内で大盛り上がりしていた頃、大学院生としてバイリンガル/バイリテラシーの分野から、多言語話者の批判的思考の研究をしておりました。縁あって1校目のインターナショナルスクールへの就職が決まったのもまさに国内のDP推進期の真っ只中で、勉強会や学校見学、IBの教員研修に参加したりしていました。

業界内での現実を見聞きしていたので、ぶっちゃけ日本国内でIB、IBと騒ぎ立てるのは教育格差を生むだけなんじゃないかな…という懸念が生まれたのは間違いありません。(その理由は後述)

しかし、改めて自分が創りたい学校の方向性がはっきりと見えてきて、「ゆずれない3つのこだわり」がIBの示す使命や目的と合致する部分が多いということに気が付いたのです。

特に、私は多言語環境で生活する子どもたちを国籍に関わらず見てきました。子どもたちが抱える課題は想像以上に根深く、その多くが母語教育の軽視(これは早期バイリンガル教育の罠だとも思っています)に起因していると思うようになりました。

世の中にはたくさんの魅力的な教育プログラムがありますが、発足当初から多言語多文化環境で教育を受ける子どもたちのためのプログラムであったIBだからこそ、言語教師として子どもたちと接している私の考えと合致する点が多いのかなと思います。

言語の教育は、みんなに関わることです。
冒頭で「エリート教育だと思った人こそ、ここでやめないで!」と心の声が出たのですが、もはやIBが目指している教育理念はエリートたちだけものではありません

私のモットーは、「言葉は思考、言葉は心」です。

人間であり、思考する脳と感じる心を持っている以上、それらのインプットとアウトプットの両方に影響力をもつ言葉を丁寧に考え、扱っていくことが重要だと私は考えます。
そして、その言葉には多様性があり、柔軟性があり、変異性があるということを学ぶ必要があります。なぜなら、人間そのものの多様性に社会が気づき、需要を求めるような時代になったのですから。

IBに踏み切るのが困難と言われる最大の理由

O・KA・NE!!!!
お金ですー!!!

もう太字にしても足りないくらいお金がかかります。
プログラムの認定費用等はもちろんなのですが、このプログラムを遂行するための環境整備にもお金がかかる。
十分な図書館設備、十分な研究設備、十分な運動設備、そして十分な指導スキルと知識を持ち合わせた人材確保・・・
学校としてお金がかかるということは、つまり、通学させる保護者の方にその分の学費がかかるということです。

だから、前項で述べたように「ぶっちゃけ日本国内でIB、IBと騒ぎ立てるのは教育格差を生むだけなんじゃないかな…」と思ったのです。

残念ながら、日本国内ではあらゆる子どもたちが多様な学校の選択肢の中で教育を受けることができるだけの、充分な資金も、充分な教育制度もありません。高校無償化、中学校給食無償化と騒ぎ立てても、実情は所得制限はあるし、なんなら「無償」ではなくて上限ちゃんとついてるしなど、制限だらけの支援です。そのため、こうした教育に関心があるご家庭であっても「うちは学費なんて払えない・・・」となってしまうのです。(我が家もです。つらい。)

外国籍児童にいたっては「義務教育」からは外れており(つまり、学校に行かなくても国としてはうるさく言わないし、学校に通わないことで問題があっても国の責任ではないよと言っている)、議論の対象となっています。

学校に通えない、通わない選択をした子どもたちについてはここ数年でフリースクールやホームスクールといった選択肢が増えてきましたが、小中学校卒業とはみなされないなどの問題でどうしても学校へ行かなければいけない状況になってしまったり、支援している側も資金的な問題で常に自転車操業といった現状もあります。

では実際、秦野でIBスクールを開校したいとなったらどうなるのか
これはまた長い記事になりそうなので別記事にしようと思いますが、参考までにIBの認定プロセスでかかるお金の公表されている部分について、2023年11月に私がまとめたものをこちらに載せておきます。

IB運営資金:
*申し込み段階
・教師研修 (1人ごと): 約8万(20人いたら160万。1教科3コース、その他教務運営なども研修がある)
・候補校への申し込み (1回のみ): 約60~70万
・候補校としての登録費用 (1回のみ): 約150万
*認定後のプログラム費用 (年額)
・PYP: 約120万
・MYP: 約140万
・DP: 約160万
・CP: 約20万
※IBの難しいところは、プログラムの認定を受けたあとも毎年年額を納めなければならないところです。学校の運営資金はプログラム運営費だけではないので、その分IB校は学費が高いという結果につながっています。

いつか他のインターナショナルスクールの認定機関との比較も書こうと思いますが、このIBにかかる資金は他の何倍も高いです。

最後に

こうして、結局戻ってきたのがIBという選択だったということをここまでお話してきました。「子どもたちやその家族が安心して通える学校にしたい」「多文化多言語があって当たり前のカリキュラムを作りたい」「子どもたちが『なぜ?』『どうやって?』とクエスチョンを出し続けられる学校にしたい」「子どもたちの母語(や継承語)が尊重される学校環境にしたい」という理想は、どーーーーーしても外せませんでした。そして、やはり学習環境における言語の意義についてしっかり定義しているIBは自分が目指す学校像に一番近づけるプログラムだと再認識したというわけです。

日本の学校としてスタートするなら、文科省の学習指導要領準拠を目指したフリースクール等の形で始め、何年か経って学校法人を目指せるようにする、これが一番形としては目指しやすいとは思います。
(いやこれもお金かかるから超大変なんです。一朝一夕には無理です。大日向小学校の中川綾さんの本を読んで、うげえええ学校法人もめっちゃ大変すぎるううううと泣いた)

でも、「文科省の学習指導要領準拠」「日本の学校法人」にこだわるなら、公立小学校があるからいいじゃん、と私は思うのです。

はっきり言って、私は公立学校を否定していません公立学校の最大の役割は、費用かけずに、一定の質のある教育を、みんなに受けられるようにしているという点です。細かな配慮が必要なケースについては「足りない!」となる部分はもちろん出てくるとは思いますが、その性質の中でやっていける場合は社会に出る第一歩としてこの小さな社会に足を踏み入れることに意義があると思っています。

注※最近の文科省の動きを見て、教員の質の低下とか、人手不足とか、詰め込みすぎカリキュラムとか、部活動の意義とか、働き方改革とか、現場でのごたごたは確かにあるけど、それ言い出したら公立だけの問題ではないので。

もちろん、オルタナティブスクールとしていっそカリキュラムは前提としないとか、自由なカリキュラムを売りにやっていくという方法もあります。しかし、根拠となるプログラムなしに教育活動を行うというのは、やはり自分も不安があります。「独自のカリキュラム!」としていろんなプログラムの良いとこどりという方法の学校は案外多いものですが、各プログラムはそれそのものの通りに使うことで意義が生まれるように組まれている。それだけ研究され、実践が繰り返されてきたものなのです。それを素人が「いいとこどり」したって、いいことはありません。突貫工事の家が崩れやすいのと同じで、基礎・基本がなんども試されて確立されてあアプローチに準拠した方法を以て、そこに独自性を乗せていくことでプログラムの効果が発揮されるのではないでしょうか。

この目標を立てたことで、踏ん張らなければならないことが見えてきたように思いますが、1人でも共感、応援してくださる方がいたら嬉しいなと思います。

長くなりましたが、IBについて興味もったよ、もっと知りたいよ、という方はぜひ♡やコメントをよろしくお願いいたします。


→勉強しなおし始めた→金かかるーTT→認定目指すならどんなふうにスタートしたらいいだろう→学校見学行くのハードル高杉なんだが→そもそも、自分が学校作りたいと言う理由で見学させてくれるとこなんかあるの?→入学目的以外の見学って迷惑じゃないの?
別の分野の疑問で、これって市の誰に相談すればいいの?

進めたい。進みたい。息子たちの就学期が終わる前に始めたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?