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ひとりでも戦える。そんな強い「個」が集まった組織でありたい〈後編〉|MAISONETTE Inc. 山本雄平さん

こんにちは。美濃加茂茶舗です。

美濃加茂茶舗マガジン「三年鳴かず飛ばず」。今回のゲストは「メゾネット」代表の山本雄平さんです。前編では、起業のきっかけやメゾネットらしさについて、山本さんが物事を判断するときの基準などをお聞きしました。

後編は、メゾネットの組織論や、失敗の捉え方についてです。

山本雄平さん|MAISONETTE Inc.(メゾネットインク)代表/スタイリスト/クリエイティブディレクター
インテリアコーディネート、輸入家具・雑貨・食器販売、アパレル販売、 飲食業、カメラマンのアシスタントなどを経験。アートと音楽、DJイベントやファッションショーなどのイベント企画・運営を行う。2004年 ファッション、インテリア、プロップスのスタイリストとして事務所に所属。2007年 独立しフリーランスのスタイリスト/クリエイティブディレクターへ。2010年 自身とアパレルデザイナー西川容代を中心に、衣装、小物製作からスタイリング、デザイン、撮影やブランディングまでを生業とする集団、MAISONETTEとして活動。同年、株式会社MAISONETTE設立

聞き手は、美濃加茂茶舗の伊藤と松下です。

伊藤尚哉|美濃加茂茶舗 代表取締役/日本茶インストラクター/好きなお茶は東白川村の在来茶
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」を立ち上げ。

松下沙彩|美濃加茂茶舗 取締役/日本茶アドバイザー/ライター/好きなお茶は東白川村の萎凋煎茶
2007年より広告代理店にて国内企業のコミュニケーションプランニングに従事。2019年に独立し、美濃加茂茶舗立ち上げ期よりプロジェクトマネージャーとして参画。同年「日本茶アドバイザー」の資格取得。2020年伊藤と(株)茶淹を共同創業。なんでもやります。

あとちょっと良くするために。喜んでもらうために。納得するまでやり続ける人たちの集まり

伊藤:メゾネットの特徴として「諦めない」というワードを聞いたことがあるんですが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。僕がメゾネットに抱いていたスマートなイメージと違って、印象に残っているんです。

山本さん:経営者だったらきっと理解していただける部分があると思うんですけど、会社って大変じゃないですか(笑)。数字的なことも、仕事の失敗も、人間関係も。ネガティブな課題に対して諦めずにずっと向き合い続ける必要がありますよね。

大きな失敗をしてしまったときに、くよくよしてもしょうがないし、落ち込んでもしょうがないし、責任の追及をしてもしょうがなくって。どうしたらとにかくマイナスだったのを、プラマイゼロぐらいにできるかって考え続けなきゃいけない。むしろ失敗すらもポジティブに変換していくパワーがとても大切だったりしますよね。

そういう「諦めない・くじけない」もそうだし、一方で、ポジティブな視点の方もあります。クリエイティブでも飲食でも、一度“これがいい”ってゆう地点になったあとに、もうちょっと良くするために何ができるかっていうのを考え続ける

伊藤:しぶとく追求するってことですか?

山本さん:それがたぶん、僕らの中での「諦めない」です。みんなが「100点!いいね!」と思ってから、「これ、さらによくするためにあと何ができるかな?」と追求する。場合によっては “誰かの完成形”を、さらにブラッシュアップしよう!という話なので、角が立つこともありますが、「自分の100点は世の中の60点」という言葉を自分によく言い聞かせます。過去10年以上の経営の中で本当に会社がしんどい時期は何回もあったし、フリーランスの方が楽だったと思った時ももちろんあります。

でもやっぱり、フリーランスが流行っている今でも、組織であることの意味と価値を考え続けていて。自分たちの仲間とか一緒に働いてくれる人たちと僕は仕事を続けていきたいし、仲間の家族までも守れる自分でありたいから、諦めたくない思いがずっとあるんですよね。

それは僕だけじゃなくて、うちのスタッフみんながそうなんです。とことんストイックに頑張って働くのも、自分のためというよりはお客さんのためだったり、仲間のためだったり。スタッフの頑張りとかしんどさを見ていても、突き詰めていくと、少しでもお客さんにおいしいと思ってもらいたいとか、少しでも来てくれたお客さんに感動してほしいというのが理由です。

いい例とは言えないのですが(苦笑)、店内の装飾替えが夜中の3時までかかってもうまくいかない時でも、みんながもう一度やり直そうかってなるんです。「お客さんに胸張って見せられるところまでは突き詰めたい」」ってやり続ける人たちの集まりだから、そういう意味で「諦めない」集団ではありますね。

食を生業とする人たちの地位、飲食業の価値を諦めない

山本さん:全然別の「諦めない」で言うと、飲食という業界自体の扱いや価値をあげていきたいと思っています。食って、すごく大切なことだと思うんです。人類が存続していく上でものすごく重要なのに、食材を作る人も料理を作る人も、飲食店に関わる人が全体的に給料や世の中での地位が低い場合が多い気がしていて。

そのときその場にある食材で即興で料理を作れるのも、人が生きていく上で大切な栄養を学んで作るのもすごいことなのに、正当に評価されていない。丁寧に時間と手間をかけて、食材だっていいものを使って作っても、「高い」って一蹴されてしまうとしんどいですよね。

これはメゾネットというより、僕個人の夢かもしれませんが、そういった飲食業に携わる人の社会的地位を高めたり、そういう人たちがより豊かに暮らせる会社を作ることは諦めたくないと思っています。働き方の制度は会社が整えるべき課題だし、そもそもの飲食業の面白さとか見え方を変えていくきっかけを作りたいっていうのは、ずっとずっと、思ってます。とても難しい課題なんですけどね。

メゾネットを守るために仲間がいるわけじゃなくて、仲間を守るためにメゾネットがある

伊藤:想定できない方を選択するという決断をしていくと、ある種、失敗の回数も増えませんか?

山本さん:挑戦した回数分、失敗はあるから、どれだけ挑戦するか、どれだけたくさんの失敗を乗り越えていくかはとても大事。極論なんですけどメゾネットっていう会社を守るために何かを犠牲にしたいとは思わない。僕にとっては僕の家族、仲間達にとってはそれぞれの家族や暮らし、そういうそれぞれの大切なものを守っていくために会社が存在できるようになりたい。会社はこうです、その歯車を探してますみたいな考え方は、僕の性には合わない。

メゾネットはこういう場、こういう仕組みを作ります、だからここで力を試したい人どうぞ、一緒に挑戦してくれる方是非!というスタンスです。何かを表現したい誰かが入ってきて、僕はその人に、社内でクライアントワークをしているかのように一緒に考えたり悩んだりして、その結果、面白い出来事が起こり、お客さんの価値になる。そういう会社の方が面白いんじゃないかなと思います。

皆が不幸なのに会社が存在し続けるよりは、仮にいつか潰れてしまったとしても、その時点までずっと、関わった人が幸せなんだとしたら、それはそれで一つの正解かもしれないと思っています。僕が守りたいのは、家族や一緒に働く仲間、そしてお客様であって、お店も会社も、そのための手段の一つなんですよね。もちろん会社も、自分にとっては守り続けたいものの一つであることは間違いないんですが、目的と手段を間違えたくない。

伊藤:採用についても、そういった考えで?

山本さん:一般的には、お店を出店することが決まってからそのお店用にスタッフを募集しますが、うちはきっかけとしては逆のパターンが多いです。人を主役にした会社でありたい。メゾネットの山本ですっていうよりは、山本がいるメゾネットですっていう順番の方が僕が理想とする会社に近いですね。極端なこと言ったら、このスタッフが辞めたらお客さんがごそっと来なくなっちゃう、そういうお店の方が魅力的。いや、困るんですけどね(笑)。

伊藤:ポジションに人を当て込むのではないんですね。

山本さん:ゼロとは言いません。だから、「学びたい」姿勢だとたぶんうちでは何もできないです。情けない話、教える能力は高くない気がします。ただ、即実践です。ビジョンややりたいことが何かしらあって、うちの会社のこの十数年の歴史のいろんな資産を使って、メゾネットだったらこんな表現できそう、メゾネットで新しい店出すならこういうことをやらせてほしい、ぐらいに考えている人がうちに向いていますね。

伊藤:いい失敗とだめな失敗の差はありますか?

山本さん:難しい質問ですが、悪い失敗は、次の挑戦ができないこと。それ以外は全部「してもいい失敗」かな。PDCA的にサイクルを途切れさせることなく、その失敗を次の挑戦に向かうための糧にできるかどうかの差です。次があるのであれば、失敗はほとんどの場合検証と言えるのかなと。

自分の人生で一番大事にしている言葉は、好奇心なんです。好奇心と美学を持つことが、結構大事なことだと思っていて、いくつになってもどんなことにも、とにかく好奇心がある自分であり続けたいし、本当に美しいかどうかはさておき、僕の中での美学は持っていたいんですよね。

例えば森道市場なら、1年かけて僕らはこんなことを学んできましたっていうのを来た人に見てもらう場とも考えられるのかなと。今年はこうしてみよう、こんなことやってみよう、と。

去年このやり方でうまくいったから、今年も同じようにやるのって、PDCAを止めていることと変わらないですよね。ビジネスとしては正解だと思いますが(苦笑)。新しいことにチャレンジし続け、失敗し続けることに価値があるし、それが生きてるってことなんじゃないかなとも思います。メゾネットの「小さな失敗」が13年分蓄積されているから、今はだいぶ失敗する確率がぐっと減ってきたし、何が大切かってこともなんとなくわかってきました。変化は進化で、停滞は後退だ、って言葉が好きなんです。

9人いないと試合ができない、ではなくて、1人1人でも十分戦えるやつらが集まってチームになってる。そういう個の組織でありたい

山本さん:組織の作り方はずっと考え続けているのですが、例えば野球って、9人いないと試合ができないじゃないですか。そういう会社になるのはあまり好きじゃなくて、どちらかといえば陸上部とかに近いんですよ。1人1人でも十分戦えるやつらが集まってチームになっているような。もちろんこれは競技の違いなんですけどね。

メゾネットという組織じゃなくても戦えるし稼げるし、お客様を喜ばせることができるって言える人が集まった組織の方が面白いと思うんです。みんながいるからこれができる、とか、このお店だからこうできるっていう人の集まりは、それはそれで美しい話だとは思いますが、特に今の時代すごく弱くなりうる気がしています。それは会社創業時からずっと変わらない考え方です。いかに「個」でいられるかですね。

伊藤:組織図はあるんですか?

山本さん:人数もお店も増えたので作ろうとしてみたんですけど、組織図が球体になるんですよ。業務上の上下はもちろん規定していますが、誰が上、下でもないし、別に僕も自分が上だと思ってなくて。僕は会社の経営者という役割。この球体がどこに向かうかの道筋を考えて、みんなが出してくれる提案に対して、これはその道筋に沿ってるか否かのジャッジをするだけの役割であって。きっと作った方がスタッフは働きやすいと理解はしているんですが、単純な組織図が作れなくて、途中で作るのが止まってしまっています(苦笑)。

企画の出発点は常に好奇心。稼ぐことは、やりたいことをやり続けるための手段であって目的ではない

伊藤:新しいプロジェクトや事業を始めるとき、収益性と好奇心のバランスはどう考えますか?

山本さん:最初からは収益性はそこまで考えないです。もちろん事業計画を立てますけど、お金云々よりも面白いかどうかに僕は集中しがちだし、クライアントワークでも自社事業でも、面白い、かつちゃんとお金もついてくるっていうバランス感覚が僕の強みだなと今のところ思っていて。デザインでも飲食でも、唯一無二のものを作りたい、素晴らしいものを作りたいと思う部分と、それが世の中に評価されて売り上げがついてくる、そのバランスを整えていきたいんですよね。どう稼ぐか、ということへの好奇心とも言える気がします。

伊藤:最初に好奇心があってまず全力でやって、それに社会的な意味を見出すとか経済的な価値を持つのかというところを最後に詰めていく?

山本さん:はい。ビジネス化できるかどうかってのは最後に僕がちゃんと整えて成立させればいいと思ってるので、みんなには「とにかくおいしいもの作ってよ!」と。ただ、その「おいしい」がどういった意味を含んでいるかは、様々な手法や情報で事前に共有します。どうしたら収益化できるか、は同時進行しつつも後から考えることが多いです。経営者としてはダメなんですけどね。

会社って利益を出すために存在するものだから、そのためにどんな企画、どんな商品にするかが出発点になると思いますが、僕らは自分たちはどうしたらワクワクできて、それをお客さんとどう共有できるのかをみんなで話し合うことが多いです。僕らが面白いと思うものをお客さんに提供し続けるための手段が稼ぐってことであって、お金を稼ぐのが目的ではないんです。もちろん稼ぐことが大切なこともしっかり伝えますけどね。

伊藤:それも起業してから絶対ブレないところですか?

山本さん:話の出所がどこかっていうだけのことだと思うんですけどね。こんなこと言ってしまうと怒られそうですが、お金稼ぎからビジネスを考えてしまうと、そもそも飲食業じゃないよって思ってる自分もいて。時代に合わせて儲けようと思うんだったらテクノロジー系だったり、ほかにも面白くて稼げるものが色々ありますよね。

飲食業、むしろ「食」に向き合う仲間達が、わくわくしたり楽しんだりというのをお客さんと共有できる、そこに重きを置いているのはずっとブレていないと思っています。

🍵 編集後記 🍵

最後に、今後の展望を語ってくれた山本さん。東京にお店を作りたい、海外にも進出したい、名古屋で夜の時間帯をメインに営業する飲食店をやりたい、宿をやりたいなど、やりたいことは尽きないようで…。ただそれらは全て、スタッフが発信源。だからきっとスタッフの数だけやりたいことがあり、それだけのプロジェクトが発生する。スタッフにしろお客様にしろ、あくまで「人」が中心に動いていくのがメゾネットなのでしょう。

飲食業とスタイリング業の二足の草鞋が別々に存在しているのではなく、両方があることでむしろバランスが取れている。個人ベースで見ても複業という働き方がスタンダードになってきていますし、会社も個人も、たくさんの顔を持つ存在になっていくのかもしれません。

ひとつに固執しすぎずに、人も会社も貪欲に、柔軟に。苦しい状況のときだからこそ、そう在りたいと思いました。

伊藤曰く、———自分と異なる価値観や考え方を受け入れる人間としての懐の深さを持ち、仲間や組織を牽引していく人

(実は今回の原稿においても、本当に細かいところまで見ていただき、山本さんの仕事ぶりを垣間見ることができました!)

山本さん、ありがとうございました。


[文・写真]美濃加茂茶舗 |松下沙彩( @saaya_matsushita )

▼美濃加茂茶舗



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