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【子どもの貧困vol.1】子どもの貧困って一体なに?

学校は教育の場であると同時に、極めて重要なセーフティネットの場でもある。そのことが、コロナによる休校によって多くの人に認識されました。みんなのオンライン職員室では、子ども達の生活背景をキャッチできる感度を高めると共に、子ども達の苦しい状況を生み出す社会構造について学び、教師として、1人の大人としてできることを考える機会として、「子どもの貧困」をテーマにした講座を開催しました。

参加者からは、このような感想をいただきました。

学校で過ごしていると、把握している貧困家庭の他にも隠れた貧困家庭があることに気がつきます。貧困家庭に私たちが直接補助したりすることはできないけれど、家庭にアプローチをかけたり、平等に子どもに教育できたりすることは子どもの貧困の解消にも繋がるのではないかと少しは希望が持てました。

全3回シリーズの第1回目のテーマは、「子どもの貧困って一体なに?」。明石書店「シリーズ・子どもの貧困」(全5巻)の内容や考え方をベースに学びを深めていきます。この記事は講師の武田緑さんのお話をまとめた内容となっています。

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武田緑さん
Demo代表 / 教育コーディネーター / 人権教育・シティズンシップ教育ファシリテーター。民主的な学び・教育を日本中に広げることをミッションとして、教育関係者向けの研修の企画運営、現場の課題解決のための伴走サポート、教材やツールの開発・提案、キャンペーンづくりなどに取り組んでいる。シティズンシップ教育、人権教育、オルタナティブ教育、学校と学校外の協働、子どもの参画、ファシリテーション、ワークショップデザインなどが専門。

私たちが持つ貧困のイメージ

まずは貧困状態のイメージを掴むために参加者全員で動画を視聴。この動画は、居場所作りをする団体が色んな事例をアレンジして作成したものです。

ここ20年で、「子どもの貧困」については社会全体の中で関心が高まってきました。戦後は家計を支えるために働く子どもの存在が社会的な関心事。それが、高度経済成長の中でスポットが当たらなくなりました。2000年前後に年越し派遣村ができ、それがきっかけの一つとなり再び貧困問題に焦点が当たるようになったのです。

今、子どもの6,7人に1人は相対的貧困の状態にあると言われています。日本全体の子どもの貧困率もずっと上がり続けています。

シリーズ・子どもの貧困」は、貧困を個人の問題ではなく、社会の問題として捉えています。なぜ日本は貧困が生み出されてしまう社会なのでしょうか?この問いは、子どもの貧困について議論していく上でのポイントとなります。以下、この本の特色を5つのポイントに分けてご紹介します。

1.経済的問題から離れない。経済的困窮を基底において貧困を把握する。

子どもの貧困ハンドブック」によると、貧困とは社会生活をいとなむための『必要』を充足する資源が不足・欠如している状態と書かれています。今の社会では、必要を充足するためにものやことをお金で買うというのが一般的だと思うので、現代社会においては「必要を充足するお金が不足・欠如している状態=貧困」となります。

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そもそも、『必要』なものとは一体何でしょうか?車、新聞、スマホ、旅行に行くこと、これらは『必要』でしょうか?例えば、高校生になって友達同士で「遊園地に行こう!」という話になったとします。その時に、遊園地に行くことは『必要』なのでしょうか?

絶対的貧困とは、生存が脅かされるくらいの貧困のこと。それに対して、相対的貧困とは、生活する上で多くの人が享受していて、一般的には経験できたり持っているものを経験できなかったり持てなかったりする状態のことです。そんな状況に陥ることで、家庭や子どもにはどんな影響が出てくるでしょうか。多様な経験ができず可能性が広がりづらくなる、学習に向かう土台が整いづらく学力に課題を抱えやすくなる、親の心身の状態が不安定になると虐待リスクが高まる・・・など、経済的な困窮から負の影響が派生して起こりやすくなります。

子どもが自分の進路を考える時に、学費を払うことができなくて進学を諦めたり、奨学金をもらって大学に行ったはいいけどその返済が大人になってからの制約になることもあります。一つ一つは小さなことだけど、「どうせ自分はダメなんだ」という気持ちが蓄積されていくのです。それが親になっても続いていく。つまり、貧困の再生産につながっていきます。もちろん貧困家庭に生まれても、周囲の環境に恵まれていろいろな機会があったり、本人が頑張って脱出することもあるけれど、脱出しにくい環境にあるということを認識しておくこと、自己責任に帰結させないことが重要です。

2.社会問題としての貧困という観点をとる。個人的問題にしない。

貧困を生み出す社会構造が日本社会にある。それを変えていきましょうという観点が、「シリーズ・子どもの貧困」の特色の一つ。

障害者教育の分野では、社会モデルと個人モデルという言い方があります。個人モデルとは、「あなたの足が動かないことが問題。だからあなたは車椅子なんです」という考え方。それに対して社会モデルとは、「あなたの足が動かなくても、段差がなければそれは障害じゃない。環境側に問題があるから、足が動かないことが障害になっている」という考え方です。

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これは、あらゆるマイノリティに当てはまります。障害と社会の格差や不平等は繋がっていて、変わる必要があるは社会の側なのです。

3.貧困問題を分断しない。子どもの貧困は貧困の理解と対策を広げる言葉である。

よく言われるのは、「子どもは生まれる環境を選べないから助けてあげないといけないけど、大人は自己責任だからその必要はない」という意見。でもそうではありません。子どもの貧困が放置されたことが大人の貧困を生み、大人の貧困が支援されないことによって子どもの貧困が生まれるのです。

「子どもの貧困」という言葉は、大人の貧困と子どもの貧困を分断するためではなく、この言葉をつくることによって、貧困の理解や、どんな手立てを講じていけばいいのかという議論を呼び起こそうとするものです。子どもの貧困は親の貧困でもあり、経済問題です。

外国人の労働条件が悪かったり、女性が子どもを産むとその後働きづらくなったり、様々な不利な状況の人たちが存在し、社会全体に格差があります。不利な人たちと有利な人たちがいるのは当たり前だという考えだと、社会全体は良くなりません。

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これは、所得再分配前と後で子どもの貧困率について比較したグラフです。なんと2000年代半ばの日本は、再分配後の方が貧困率が上がっています。ちなみに今は状況が改善され、再分配後の方が貧困率は少し下がっています。ただ、北欧諸国に比べると、再分配がほとんど機能していない。それが、日本の特徴です。

特に、収入が低い子育て家庭に対する公的な手立ては全く足りていません。そういう意味でも、社会全体の問題として貧困を捉えていく必要があります。

貧困状態にある子どもや家庭が学校教育や地域コミュニティの中で発見され、必要な公的機関や社会保障につながれていくというセーフティネットが多重的に構築されてほしいと思います。ですが、実際には日本の公的に整備されているセーフティネットはかなり脆弱と言えます。子どもの貧困を解決するために、各セクターがすべきこととは、一体なんでしょうか。

4.反貧困としての「脱市場」と「脱家族」の観点をとる。

市場原理の中では、弱い立場にいる人たちは切り捨てられていく仕組みになっています。雇用の側が強く、労働者は虐げられてしまう。サービスを買える資源を持っている人だけが、サービスを受けられる。そんな市場化の波が、教育や福祉の領域にも押し寄せてきています。その流れにNOと言っているのが「脱市場」の考え方です。

また、貧困を親や家庭の責任にしても解決しないので、社会モデルとして考えていく必要があります。社会全体で子育てをしていくのが「脱家族」の考え方です。

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5.子ども期の発達・社会的特徴と関係させて構成する。

子どもの貧困は、子ども期だからこそ生じる問題の特徴があります。大人の貧困との違いとして、具体的に4つの点があげられています。

①身体的脆弱性
特に低年齢であるほど、他者に依存する度合いは高くなります。当たり前ですが、赤ちゃんは誰かに世話をしてもらえないと生きていけません。子どもが貧困状態にあると、発達を阻害する恐れがあり、時には命の危険にさらされることもあります。

②成長と発達の過程にあること
子どもにとっては、貧困が成長と発達を阻害してしまうことが多くあります。環境要因と日常的な経験の蓄積や質に、成長や発達は影響を受けるからです。

③学校制度との関わりが深いこと
教育課程が市場化されて、より選別されると貧困状態にある子どもが排除されやすくなります。また、学校教育の中で「できなかった」という経験をしやすい立場にあります。

④アイデンティティ形成の時期であること
自己形成をしていくにあたり、貧困に伴うスティグマ(ネガティブなレッテルみたいなもの。社会的な烙印)がマイナスに作用されやすくなります。さらに、「色んなことができなかった」「選択肢がなかった」という制約のある経験が、意欲を削いでしまったり、自己意識にマイナスの影響を与えることがあります。

教員として、一人の大人としてできること

講座の途中には、少人数のグループに分かれて意見交換をする時間が設けられました。参加者同士で対話をすることで、更に様々な気付きのある講座となったようです。

ブレイクアウトルームでリアルな話も聞けて、なるほど~な時間でした。社会問題、実感しました。普段あまり考えないことなので・・・。本当、自分には何ができるのだろう?そう考えることも大切ですね。
後半のセッションで各セクターがすることを考えるときに、教育と連携とでましたが、連携先を考えたときに、私自身もそうですが学校が知っている協働先(社会資源)が少なすぎるなぁと感じました。積極的に校外と繋がっていく必要を改めて感じました。
子どもの貧困を家族・親のせいにしない【脱家族】という視点は意識しないと陥りやすい考えだと感じました。現場にいる以上、目の前の子どものためにできることをしてきましたが(親・家族だけでなく地域の支援につなげるなど)今の子ども達が社会を作る際に貧困を少しでもなくせるような【教育】が必要だと思いました。


みんなのオンライン職員室は、現役の学校の先生た、教員を目指している方、これからの教育に関心の高い方々を対象にした新しいタイプのオンラインの学び場です。ご興味のある方は、以下のリンクより最新情報をチェックしてみてください。

https://minnano.online/

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(文:建石 尚子)

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