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読書記録:旅の断片 若菜晃子

旅先を決めるときって、ここに行きたいだとか、あれがしたいだとか、だいたいにおいてメインとなるものがある。でも行ってみたら、それとはまた別のところで不意に感動する景色に出会ったり、人の優しさに触れたり、はたまたトラブルが起こったり、旅のハイライトは意外とメインにしていたものと違った、ということが往々にしてある。
この本には、著者にとってのそういう”断片”たちがいっぱい集まっていた。華やかさはないけれど、すっと心に沁みるような景色。人々との心温まるやりとり。注意しておかないと通り過ぎてしまうような、ささやかな心の動きまで。著者の優しい心のフィルターを通してみるその断片たちが、すーっと心に流れていって、ああ、旅っていいなあ、と思う。そこにしかない景色があって、そこに住む人々がいて、それらに出会って湧き上がる自分の気持ちにも、そこでしか出会えない。とてもシンプルだけど、なんて素敵な断片なのだろう。

すごく心に留まった言葉があった。

なぜ私は今、この駅を後にして先に進まなければならないのだろう。(p.312)

本文より

単純な、素朴な疑問。わたしの中にも幾度となく現れた類の疑問だけど、現実的な答えがすぐに浮かぶから、いつも一瞬で消えてしまっていた。著者がその一瞬の思いを書き留めて、教えてくれた。過去も未来も切り離して、立ち止まって今だけを見つめると、思うのだ、この幸せな時間を置き去りにして、なぜ進まなきゃいけない?現実はそんなこと言ってられないってわかっている。これは、その瞬間だけの気持ち。自分の立っている場所を確認しているだけ。忙しなく過ぎていく時間に流されて、自然に湧き上がる自分の気持ちを見過ごさないようにしよう。


ただ美しい。ただそれだけで美しいものなんて人間にはつくれないでしょう。(p.165)

本文より

美しい自然を目の前にしたときのあの虚無感って、こういうことなのだろうか。なんの計算もなくできあがった、美しさ。でも人間がつくったものには、その人の思いが込められていて、それもまた美しいと感じる。それらが融合したりすると、何乗にも素晴らしい。そういうものたちが地球には無数にある。それらを見尽くしたいのだけれど、ううん、人の一生って短いものだなあ。

もっともっと、いろんな世界が見たい。

でも、こうやって本を読むことも、いろんな世界を見ることとほとんどイコールですよね。

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