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読書記録:試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。 尾形真理子

ストーリー:恋に悩めるレディたちが、とあるセレクトショップを訪れる。そこで、魅力的なオーナーと、本当の意味で自分に合う一着を見つける。自分らしく一歩を踏み出す、お供となる一着を。


なるほどね、恋愛の短編集ね、、と思って読み進めていた。が、あるストーリーを読むうち、涙が溢れてきた。主人公と自分が重なる。主人公の気持ちが、痛いほど入り込んでくる。

ああ、そうか。ここにはいろいろなカタチの恋愛が描かれている。ゆえにそのどれかは、自分の気持ちと重なるところがあるだろう。読者は、その気持ちに出合い、気づき、共感し、主人公とともに一歩踏み出す勇気をもらう。そんな、優しい小説なのだなあ。

そして、そのきっかけとなるのが、セレクトショップでの洋服選び。
恋をすると、おしゃれしたくなる。振り向いてほしい、という努力の表れ。背伸びしたり空回ったりもある。でも、本当の意味で自分に似合うものを身に着けるのがいちばん魅力的だ、というのを、オーナーが洋服選びを通して教えてくれる。

似合うのと、似合い過ぎるのは、違うのか。(p.44)

人と違うのが「個性」ではなく、自分らしいのが「個性」なんだ。(p.219)

本文より

そうかあああああと唸ってしまった。シンプルなことだけど、日々忙しなく生きていく中で、なにか違うようにすり替えられていたなあ。たかが服選び、されど服選び。


そういえば、著者の尾形さんは、元博報堂のコピーライターという経歴をお持ちということ。だからなのか。素敵な言葉たちが、いっぱい散りばめられている。捻ったような言葉じゃなくて、シンプルに美しい、という感じ。


わたしは、アユミにとても共感した。
たまには自分のやってきたことを、重ねた年月を、きっと無駄ではなかったよ、と肯定するのも許されるだろうか。何も手に入れていないように感じても、当たり前に身近にある何かが、実は頑張った証だったりするのだろうか。それに気づかないのは、勿体ないし、その何かに申し訳ない気もする。とはいえ、わたしにもそういうもの、あるかなあ。自分に甘くなるのは好かないけど、自分を肯定することが、魅力を引き出すことに繋がるなら、そういうのって良いなあ、と思った。

あしたの服を悩むのは、あしたを夢みるからなんだ。(p.219)

本文より


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