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肥後百景#19【坂道】

ジブリの映画でいちばん好きなのが
耳をすませば
というのもあり

好きな子を自転車の荷台に乗せて
坂道を駆け上がるというシチュエーションにはずっと憧れがあった
(良い子はマネしないでね)
もちろんゆずの夏色のようなシチュエーションも憧れではあるが
耳をすませばの方が僅差で勝つ

というのも
冬場にというのがいいのである
温もりが心地良さそうだなというのと頑張り感がポイント高い

ような気がしていたからである
なんとも童貞くさく男本意の考えであろうか

とはいえそんなことを言ってもわかるはずのない当時のぼくは機会をうかがっていたわけで、当時お付き合いをしていた彼女を送って帰る日が念願叶ってついにきた

他校の子と付き合っていたので、彼女の高校までチャリで迎えに行き
そこから小一時間の距離を漕いで行くのだが
まー坂が続く
彼女の住まいは小高いところにあり延々と坂道が続いていく

クリスマス間近の寒空の下
漕ぎ続ける

彼女は問う

「大丈夫? 降りて歩くよ?」

「いや、乗せて送るって、決め、た、から!!!」

今ならわかる
彼女はもうお尻が限界だったはずだ
もう完全に自己満の世界だよと、暗に伝えていたのに

ぼくの脳内は天沢聖司
ズボンの裾はピッチピチだ

さらに温まったぼくは、彼女に学ランを羽織り、暖をとらせてさらにイケメン感を増したと陶酔する

ボルテージは上がり続け最高潮で送り届けたあと、また長い道のりを一人で帰ったもちろん、寒さが骨の髄まで染み渡り
夏なら気持ちいいが、冬の夏色はエグい

翌日にインフルエンザばりの高熱を出して点滴を打ちに行った
天沢聖司になるには何年かかるのだろうかと、高熱にうなされながら病室の天井を見つめて思っていた

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