今あえて、ほぼ日創刊時の本をおススメする!

「ほぼ日刊イトイ新聞の本(2004年加筆版)」 読書感想文

 本書は、1998年に開設された「ほぼ日刊イトイ新聞」(ほぼ日)の早すぎる社史(著者談)として2001年に発刊されたものに、2004年第八章を加筆して刊行されたものだ。

 すでにひと昔以上前のインターネットに関する本だが、今読んでもものすごく参考になる。いや、今読むからこそ俄然面白い!

 本書の面白さの一つは、インターネットが何なのか今一度考えさせられる内容だ。糸井重里が初めてMacを買い、メールするのがやたらと面白いと興奮しり、こんなコミュニケーション手段はかつてなかった!とメールについて分析していたり。そのメールでキムタクともやりとりしていた事が詳しく書かれていたり。今読むとかえって新鮮で、インターネットの本質を思い出させてくれる一冊だ。

 面白さ二つ目は「クリエイティブ主導で物を作る場を作りたい!」と言って慣れないジャンルに飛び込んだ、稀代のコピーライター糸井の葛藤が生々しく記録されているところにある。
 社史なるものの多くは、大きな業績を上げた会社が長い社歴の後に編纂されたり、ドキュメンタリーになったりするものだ。だからかなり古い記憶を辿ってだいぶ角が丸められた資料をもとに編纂されるものだが、本書は2年目のIT企業のトップ(しかもコピーライター)によるもので、まずその記憶が生々しい。しかも、糸井は良いことも悪いことも全部書くたちで、ジャンルを問わず起業する人、物を作る人の参考になる内容が山のように詰め込まれている。
 本書は、実はインターネット関連本としてよりも、ものづくり、クリエイティブとはどういう事かの指南本としておススメしたいのだ。

 著者の糸井重里は一世を風靡したコピーライターだ。コピーライターが憧れるコピーライター。コピーライター志望の若者が目指す存在。今時の表現をするならコピーライターのレジェンドである。彼は広告表現に限らず、沢田研二の歌詞や、NHKの若者番組の司会も担当した。コピーライターとしてさえ破格の存在だったが、その糸井がインターネットコンテンツの世界に入って行ったのには訳があった。
 広告界のクリエイターは大御所になるともう現場仕事をさせてもらえなくなるという慣例があった。さらに広告は、結局、クライアントである企業の事情とマーケティングがクリエイティブを主導する世界だ。だから、広告の本質に、飽く事なきお金儲けの片棒を担ぐ要素を見出してしまった天才コピーライターが、『「あれがあったおかげで、自分のいる場所を好きになれた」/「それを聞いたおかげで、何かを始めたくなった」/そんな風に感謝されることを、ぼくはしたい。たいていの人は、そう思うのではないだろうか』と思って、それを実現する場として取り組んだのが『ほぼ日』だったのだ。

 クリエイティブがイニシアチブを取る世界を作りたかった「ほぼ日」は、本書から16年を経た今もジャンルを広げながら、クリエイティブ主導の発信を続けている。
 本書を読んで、この正月、久しぶりにほぼ日手帳を買った。


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