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音楽制作者が"Spotify - 新しいコンテンツ王国の誕生"を読んで得た4つの気づき

はじめに

こんにちは、Minimal Order(ミニマル・オーダー)です。日頃はAbleton LiveやFenderのエレアコ、Spliceなどを用いて音楽を制作しています。仕上がった音源は、SpotifyApple Musicなどに公開しています。

さて今回は、2020年6月に翻訳書が出たばかりの書籍「Spotify - 新しいコンテンツ王国の誕生」を読んで得た発見・気づきについてまとめました。これから各所で書評が書かれるかと思いますが、本記事が特徴的なのは一人のトラックメイカー(音楽の制作者、発信者)の視点から書いている点です。

というのも、この書籍はおそらくスタートアップの内部の方や、起業を志す方をメインターゲットにしており、「ベータ版、投資家、資金調達、交渉、訴訟、上場」といったキーワードが踊っているからです。

何の本?

「Spotify - 新しいコンテンツ王国の誕生」は、2人のジャーナリスト、スベン・カールソン(Sven Carlsson)とヨーナス・レイヨンフーフブッド(Jonas Leijonhufvud)によるSpotifyの歴史と内情を綴ったノンフィクションです。創業者への直接インタビューは叶わなかったようですが、Spotifyの重要なポジションの人や、投資家、IT業界の著名人など総勢約70名から協力を得られたようです。

原著はスウェーデン語で「Spotify inifrån」。「Spotifyの内側」とか「Spotifyの内部」と訳すことができます。

本書は、スウェーデンのひとりの若者が誰も想像しなかった世界最大の音楽ストリーミングサービスを構築した感動のノンフィクションである。確固たる信念、類まれな意思、壮大な夢を持つひとりの人間が、世界最大のIT企業に挑んだ波乱万丈のストーリーである。(同著、[はじめに]より)

驚くことに2020年6月現在、同著は未だ英語に訳されていません。 (ただし、Spotify Teardownという別の未邦訳書籍は英語で出版されていて。これはこれでまた気になる本なのでいつかご紹介できればと。)

トラックメイカーの2つの視点で本書を読む

上流の製作から、曲の配信までを行うトラックメイカーには大きく分けて2つの顔があります。それは曲を作る「制作」の顔と、作った曲を聴いてもらうための「発信」の顔です。

制作は「構想/採譜・演奏・録音・編集・ミキシング・マスタリング・ファイルへの書き出し、ジャケットなど音楽に付随するもののデザイン」といった過程を指し。
発信は「(世に出す)目的やゴールの設定、楽曲を流通させるための媒体や配信・流通方法の選定、楽曲流通を補助する活動(ブログやSNS、HPなどでの情報発信)」を指します(あえてマーケティングとは呼ばないでおきます)

もちろん、制作はトラックメイカーに必須の条件ですが、発信にどの程度テコ入れするかは人によってまちまちかもしれません。「つれづれなるままに宅録したデータをハードディスクにストックしたり、SoundCloudにアップするだけで十分に幸せ」という方や、そういう時期があることも全く否定しません。

しかし、「誰かに聴いてもらいたい」という考えがある以上、聴いてもらった先に何を求めるのか(感想?再生回数?お金?)や、どんな方法で人々にリーチするかといった発信に関わる問いは無視できないものになります。

長くなってしまいましたが、要は独力で様々な範囲をこなそうとするトラックメイカーほど、「制作」と「発信」は両輪駆動させ無ければならず、この2つの視点から同著を読んでいこうと思います。

制作者目線1. 間違いを大事にしてみる

実はSpotifyという社名は、今でこそ「何かを見つける(Spot)+特定する(Identify)からなる造語」というオシャレな説明がなされていますが、元々は社員の聞き間違い(空耳)によるものでした。

聞き間違い、言い間違い、見間違い、思い違い、弾き間違いなど。日常にはミスが溢れていますが、ミスによってしか得られない道(気づきや可能性)があるのも確かです。

少なくないアーティストがその重要さに言及しているのも確かです。例えば、Brian Enoは自身が制作した創造性を誘発するためのツール(カード)Oblique Strategiesにこのような言葉を記しています。

‘Honor thy error as a hidden intention’
(※意訳:誤りを隠された意図だと捉え、大事にせよ
/ Brian Eno

制作者目線2. 成りたい姿を予言し続ける

Spotifyの創業者ダニエル・エクは楽器もプログラミングも得意な神童として有名で、11歳になることには「ビル・ゲイツよりビッグになる」と周囲に伝えていたそうです。

心理学的には諸説あるかもしれませんが、「〜になる!」や「〜できる!」と信じ続ける、言い続けることは音楽制作者にとっても良い方法・追い風となる方法だと思います。

例えば、ここ数年で大ヒットし、世界を股にかけたツアーを成功させたロンドンのデュオOh Wonderもその好例です。

約1年前からサウンド・クラウドに毎月1曲ずつリリースしてきた曲をまとめたデビュー作は、お世辞抜きに全く捨て曲のない素晴らしい出来映え。ハイプ・マシーンやSpotifyを始めとしたストリーミング・サービスでの再生回数は数千万回を超えているのも、そのクオリティの証拠。そんなふたりのロンドンにあるスタジオにはこんな4つの決意を記した貼り紙がある。「私たちは素晴らしい曲を書く故にパブリッシング契約を獲得する」
「私たちは私たちのアートによって評価される、引く手数多のソングライターである」
「私たちは全てのことが可能だと感じ、『イエス』に満ちた人生を送る」
「音楽が私たちに素晴らしい生活を与えてくれ、そのおかげで私たちは世界中を旅して回る」
出典: Quetic, 2015,  "ロンドンの新たな才能。オー・ワンダーのデビュー作までの軌跡!"

発信者目線1. 誰も注目していないサービスに目をつけよ

あらゆるサービスプラットフォームに盛衰があります。myspaceしかなかった頃。iTunesしかなかった頃(あるいはiTunesもなかった頃)、だれが今のような「蛇口から水を出すような」音楽視聴形態がメインストリーム化すること想像したでしょうか。

発信者としてのトラックメイカーも、このことを意識しなければならないなと思いました。数千万人の発信者が使っているサービスでは、どの発信者も「数千万分の1」の存在であり、「3,353万2,864番目の参加者」となります。

一方でまだ500人程度しか発信者が居ないサービスでは、「1/500の存在」であり、450番目の参加者にだってなれるのです。

もちろん、それは来年なくなっているサービスかもしれません。しかし、未来の大きなプラットフォームになる可能性もゼロではないのです。サービスの盛衰自体は市場が決めるので予想は困難ですが「これイケてるのでは!?」とピンときたサービスがあれば是非利用してみることをおすすめします。

そして余力があれば、別のプラットフォームに、そのサービスの使用感や使用方法についての記事や動画を投稿してみると良いでしょう。
これは実体験からなのですが、スタートアップは自社のサービスを率先して紹介してくれる一個人を応援してくれます。SNS投稿やイイネ、リツイートといった形でのバックアップの他、ファウンダーから直接メールが来たこともあります。

では、どこで新興サービスを探せばよいのか。
私の答えは、世界中の新興サービス・プロダクトをキュレーションしているプラットフォームProduct Huntです。

発信者目線2. まずは最初のファン10人を大事に

例えば、私にとって「200万人に聴いてもらいたい」が当座のゴールだったとしましょう。ここでのコツは「一気に200万人を狙うな。まずは、大事にしたい/してもらいたい具体的な集団を明確にせよ」という点です。

本著でも言及されている通り、スタートアップとしてのSpotifyは、まずスウェーデン市場という足元を固め、次に欧州市場へ、その次にアメリカへと順を追って進出しています。

スタートアップは地理的な制約を受けるので地名が市場(ターゲット)となりますが、音楽制作者の発信に関してはこれに縛られず別の形で柔軟にターゲットを設定することができます。

最初の10人に愛着を持ってもらえる地盤を固められてこそ、100人、1,000人、1万人への道が開かれるのだと思います。例えば、下記のような問いの設定はこの論点を研ぎ澄ませるのに役立つでしょう。

Q. [Who]どのような人に聴いてもらいたいか?
・レコードたくさん買っている友人
・特定の作品が好きな人
・特定のアーティストが好きな人
・特定のジャンルが好きな人
・特定の楽器が好きな人

Q. [How] どのようにターゲットに届けるするか?
・その人たちはどのサイトをよく利用しているか
 →どんな場所に作品を掲載すればよいか
・その人たちはどのような検索キーワードを使いそうか
 →どのようなキーワードでサイトや作品を掲示/発信すればよいか

おわりに

以上、「Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生」を読んだトラックメイカーとしての気付きをまとめました。
今後、出版元のDiamondさんから特集記事が連載されるようです。書籍やその背景について詳しく知りたい方は。そちらも合わせてチェックしてみてください。

[出典・参考]

[Minimal Order on Spotify]


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